009 許嫁の銀髪美少女


 放課後になる数時間前。昼休み、俺は図書館の奥の机で東北大の赤本を解いてるところだった。

 右隣の椅子に座る刹菜が、さも当然かのようにすり寄ってくる。俺の右腕にくっ付いてくる。

 

「ね、あたしまだ許してないからね」

「許してない? 何を?」


 俺は問題の解答を開き、丸付けをしていく。

 そう、たとえ腕に柔らかい感触が当たっていたとしても――。


 気にしたら負けだ! 心頭滅却!

 

「だから、朝のこと。リントが女子に囲まれてた時、あたし嫉妬したんだけど」

「嫉妬する要素あったか?」

「女子と楽しそうに話してたじゃん」

「もし本当にそう見えたのなら、眼科に行くことを推奨する」


 困惑こそしたが、楽しそうにした覚えはないぞっと。

 それに、朝俺に群がってきたのは顔で判断する女子達だろ。


 俺が世の中で一番嫌いな連中。多分一生、顔で判断する女子は好きになれない。

 まあでも、この世の中結局「顔」なんだよな。まあまあな俺が言うのもアレだが。


「あたしも含めて女子ってさ、他の人と話してるだけでも嫌なんだよね。分かる?」

「分からない」

「なんていうの? リントが他の女子と話してると、胸の中がモヤッとして、キューって締め付けられるわけ。……分かる?」

「分からない。感じたこともない」

「むぅ……」


 俺の腕をさらに圧迫してくる刹菜。


 そうして向こう側、棚の奥にいる名も知らぬ男子が「刹菜推し」なのか、嫉妬と怨念の目を以てこちらを見据えている。


 なんかすまん。なんか。

 俺は心の中で合掌する。


「でも、ごめんな」


 一応こっちにも謝っとくか。


「なに、その取って付けたような謝罪。ほんとに悪いと思ってるわけ?」

「そうは言っても、発端は刹菜だからな? 刹菜の言う通り髪切ってコンタクトで登校したらこの有様」

「……確かに。それは……ごめんじゃん」

 

 昨日敬に聞いたが、刹菜はまともに男子と話すタイプではないらしい。いつも無条件に突っぱねていたとか。どんなイケメンだろうと、どんな金持ちだろうと。

 だからこそ謎なのだ。記憶喪失後、彼女は俺に対して所構わず甘えてくるようになった。

 

「まーあたしもまずいかなって思ったけど。思ったよりカッコよくなっちゃったから。でもさ、あたしのリントを皆に自慢したくなっちゃって」

「ふーん、まあ……俺は刹菜のものじゃないけどな」

「えー、でも結局あたしは仮想上の彼女ってことで決定したじゃん」

「いやなんだよ仮想上のって。仮の、ならまだ分かるが。バーチャル彼女みたいに聞こえるだろ」

「へへ。でも……リントの彼女になれるなら、なんでもいいよ?」


 オーマイガー。俺は今、青春ラブコメをしているのか? そうなのか?(困惑)

 すると、後ろから近づいてくる気配。


 というより、これは―――殺気??


「イチャイチャしてないで、手を動かしなさい」

 

 背後から強めに首根っこを掴まれた。


「いて……っ! はい……」


 鈴乃は参考書を胸に抱きながら左の席に座ると、顔同士が僅か十センチ程度の距離で止まる。

 しかし彼女の目線は俺の解答。


「へぇ、凄いわね。東北大数学満点。この時期にこれは、もはや人間じゃないわ。やっぱり凛斗には敵わない。良ければ数学を教えてもらえないかしら?」

「え、別にいいけど……」


 忘れてた。鈴乃もおかしい。特に距離感!


「ねぇリント、あたしも数学苦手だから教えてよっ」


 刹菜は不機嫌風味の表情で、俺の腕をぐいぐい引っ張ってくる。


「刹菜、私が先だったでしょう? 一体どこに耳がついてるのかしら」

「そっちこそ一体どこに目がついてるの? 先にリントの隣座ってたのはあたしなんですけど?」


 鈴乃と刹菜は再び謎のビーム合戦を始めた。


「はぁ……」


 またか……。

 さっきの男子は俺を呪うかのような目で睨んでいた。

 ん、なんかすまん。なんか。



◇ ◇ ◇

 


 多目的室の窓際。


「素顔を出した? 目立ちたがらない彼が? それ本当ですか……椎名さん?」


 日本人離れした容姿――銀髪のハーフアップ美少女が、高校生とは思えない悠然さを以て尋ねる。

 そして向かい合う椎名桃音ももねが、霧咲凛斗の記憶喪失について言及。


「ええ。そして彼の周りには常に付きまとっている女がいます……どうします? 一応噂などをばら撒いて、攪乱状態を目指しましたが、あまり意味はありませんでした」

「そう……その女子っていうのは、どちらですか? コード『01』? それともコード『50』?」

「両方です」


 銀髪美少女は優雅に微笑を浮かべ、


「二人は凛斗の正体に気付いてるのでしょうか?」


 と尋ねる。


「モデル、というのは知っているかもしれません。他は不明といったところですね」

「成程。まぁいいでしょう。様子見の段階は終わりました。こちらの土俵に引きずりましょうか」


 椎名桃音はその姿を見て、多少の畏怖さえ覚えた。


「二条さん……楽しそうですね……」

「ええ、それはもう……彼は私のフィアンセ、ですから――」





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最後の誰だよ!? ……知りません。

ということで次回「それじゃあ、しよっか?」です! 

明日も投稿出来たらします! 

拙者体調を崩してしまって……申し訳ない。

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