第28話 贈り物大作戦
「坊ちゃんどうしました?」
ロイドは庭に落ちていた葉っぱを集めて運んでいる所だった。
「街に行くぞ!」
「街? またどうして?」
「母様への贈り物を調達する。珍しい物がないか探しに行くんだ」
「贈り物を……へえ。いいですね。ウェライン伯爵家では見た事なかったですけど、奥様も喜ぶでしょう。お供しますよ」
「そういうと思っていた。お前は暇だからな」
「いや、別に暇って訳じゃないんですけどね……。前みたいに坊ちゃんが手伝ってくれたら、仕事もすぐに終わりますよ」
ヴァンに身体を乗っ取られていた時の事を言っているのだろう。だが、生憎ロベルトにその気はない。
「簡単な事なら手伝ってやる。だから時間を空けておけ」
「いやぁ、言ってみるもんですね。街に行くのは俺と坊ちゃんの二人で?」
「いや、ニーナも連れて行く。あいつは暇だろうしな」
「ニーナちゃんも屋敷の仕事があるはずなんですけどね……」
ロイドの快諾に気をよくして、ロベルトは庭を離れた。
――――――――――――――――
「おい。街に出るぞ」
「街ですか? あ、もしかして奥様への贈り物を選ぶんですか?」
ウキウキとした様子で返すニーナに、ロベルトは見透かされている事で少し苛立ちを覚えた。
──そんなにわかりやすいのだろうか?
だが、いちいちニーナの言動に反応しては話も進まないと思い、ただ首を縦に振る。
「母様の欲しがっているものの目処がついたからな。お前も来い」
「わかりました!」
気前よく返事するニーナに、自分で頼んだ事だったが不安になるロベルト。
「お前……俺が誘っておいてなんだが……仕事は大丈夫なのか?」
「はい? 屋敷の仕事もありますけど、それよりロベルト様から仰せつかる事の方が大事なので」
「う、ううん? そういうものか?」
「そういうものです! 大丈夫ですよ。一緒に仕事をしている使用人の方には、ちゃんと伝えますから」
「そうか。けど、目的は隠せよ。ただ俺についてくる様に言われたと伝えろ。街に出るのは父様に知られたくないし、母様に知られたら元も子もない」
「わかりました! ご安心下さい。不肖ニーナ。必ずや奥様への贈り物大作戦を成功させる事を約束いたします!」
「大丈夫か本当に……」
ロベルトは何の気なしにニーナを街に誘ったが、少し後悔の念が芽生え始めていた。
前回街に出た時もそうだったが、ニーナは体力が有り余っているのか、余計な事をしがちである。
「何がですか? それにしても楽しみだなぁ街歩きっ! 綺麗な布があったら奥様に何か縫おうかなあ」
すでに一人の世界に入ったニーナに、不安を抱えながらもロベルトはその場を後にした。
――――――――――――――
『オレの事は置いて行った方がいいかもしれねえぞ?』
「馬鹿言うな。お前は俺の剣だろ」
『……わかった。だが、外套くらいは羽織っていけよ? 帯剣してたら変な奴らに狙われる事も多くなるんだからよ』
「そう心配するな。お前も父様の様になってきてるぞ」
『それはちと嫌だな……』
腰の宝石がダメージを受けた様に光を小さくする。ヴァンはこのように念を押すが、ロベルトはあまり心配してはいなかった。
一応は毎日ながら素振りもしているし、少しづつ自信というのも取り戻しつつある。
前回の街歩きでもさして大きな問題は発生しなかったし、ロイドもついてきてくれる。
「シーガルから隣町に行ってみるのも面白いかもな」
『まあ、馬車の乗り合い場で訊いてみりゃいい。早駆けがいれば、一日で帰ってこれるだろうよ』
「? そんなに時間がかかるのか?」
街どころか、隣の領地であるトルネル家に行くのでさえ一日程度である。なのに同じ程度の時間がかかる事にロベルトは疑問に思った。
『この屋敷にいる馬は一級品だぜ。馬車自体にも魔術が使われてるし、かなりの速度が出る。それに比べたら一般の乗り合い馬車なんて鈍いと思うぞ。まあオレの時代の話だし、詳しい事はわからねえが』
「そうなのか」
『とりあえず乗り合いの馬車なんて尻もいてえし、どんな奴が乗ってるかもわからねえ。まあ、何事も経験だ。その時になったら考えてみりゃいい』
ヴァンの言葉に少し街歩きが楽しみに感じているロベルト。
ヴァンと出会ってから初めての事ばかりで、時に口の悪い剣だったが、もう手放せなくなっていた。
――――――――――――――
「父様は領地の視察で屋敷にはいない。母様は経営する衣服店の方に行ってる」
「じゃ、いよいよ出発ですねロベルト様!?」
ニーナが拳を胸の前で握り込んで、聞いてくる。
「お前はいちいち大袈裟だな……」
「俺は旦那様と奥様に隠して行くのはあまりお勧めしませんけどね」
「なんだ乗りが悪いな。水を差すな庭師」
「そんなこと言われましてもね……以前も言った通り年長者ですし、ロベルト様の身の安全を守る義務がありますから」
「庭師の癖に。越権行為だな」
「旦那様に庭師として雇われているとは言えど、勤め先の大切な子息であられるロベルト様をお守りするのは当然です」
「そうか。なら期待しておく」
「……できるだけ目立つ様な事は控えてくださいね? わからない事があったらすぐに聞いてください。それと手拭いは持ちましたか?」
「うるさいなお前は。わかったって……」
「ロベルト様! 何か分からない事があったら私に聞いてもいいんですよ?」
「お前には絶対に聞かん」
「あれえ?」
そうして一行はウェライン伯爵家の街シーガルに繰り出した。
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