第9話

 アタシは今、途轍もなく面倒くさいやつに絡まれている。

 仕事を終えた後にやってきただけ分別はあるみたいだが、出来たらもう2度と会いたくない相手であった。

 ご丁寧に冒険者ギルド裏口に待ち伏せしていたそいつの名は凡顔。


「違うわ、デリータだ!誰が凡顔じゃ!!!せめて平凡顔ってちゃんと言え!」


「こいつ、心が読めるだと……!!」


「違うわ!嬢ちゃんが俺の顔見て凡顔ッ!!って呟いたんじゃろが!!!」


 そんなこと呟くわけないのに。

 読心術スキルがあっても不思議ではない。いや、固有魔法の部類かもしれない。

 油断はできないな。


「何か用?」


「いや、手伝えって頼まれてるから。」


「しつこい、要らん。」


「この前も月狼の―――」


 アタシは無視して、迷宮へ足を向ける。


「いや、嬢ちゃん!聞いて、これ分け前だよ!」


 だにぃ?!


「―――シュ。ん、受け取った。」


「いつの間に?!」


 何の報酬かは知らんが金は受け取っておいて損はない。

 中は120ゴルド。

 しけてやがる。


「しけてねえだろ?!嬢ちゃんの日給だろがい!!解体だって俺がしたんだぜ?!だからその分は差し引いたが破格だろ!」


 いや、何の報酬か知らんし、破格とか言われても困るわ。


「何を言ってるのかさっぱり。」


「じゃあ、聞けーーー!!!」


 まったく、うるさい男じゃ。

 こいつ絶対モテないわ。

 はっ、モテないから幼女に唾つけとくってか?!

 なんて卑劣な策謀。


「あんたの手には余る。他所を当たりな。」


「何の話だよ!!!?ゼェ…ハァ…!」


「吐息?欲情きも。」

 

「吐息じゃねえし欲情もしてねえよ!!!」


 嘘つけよ。


「幼女に恋するのは病気。精神異常者は教会に行きな。」


「違うわい!!俺はボインなねえちゃんが好みだ!!」


 凡顔は大声でそんな事を宣う。それは良くないぜ、兄貴ぃ?


「え、あの人子供相手に何言ってるの…?」

「お母さん、あの人変なこと言ってるよ?」

「こら、見ちゃいけません、聞いてもいけません!」

「変質者だわ!」

騎士さんおまわりさんここです!!」


「なっ?!ち、ちが!俺は人助けを頼まれてるんだ。」


 あーあ、街中で変なこと言うから。

 アタシは職質を受ける凡顔から解放されたので、さっそく迷宮近くの森で石集めをし始めた。


 とりあえず1階層の突破からかぁ。

 ザックロール迷宮1階層へ入場する。

 冒険者達が戦いに耽っている隙を横切ってボス部屋を目指す。

 

「嬢ちゃんには、はえーんじゃねえか?」

「仲間はどうした?」

「やめやめ、自殺志願者に関わって運気吸われちゃたまったもんじゃねーぜ。それでおれたちが死ぬかもしれねーんだぞ。」

「うへー、それもそうか。」


 4人組の冒険者がボス部屋前で待機していて話しかけられたと思ったら疫病神扱い。たまったもんじゃねえな。

 まあでもこいつらが待機してるってことは珍しくボスに挑むチームが2組はいたってことか。

 

「あいつらのとこは勝ったみたいだな。」

「俺たちも2階層に行くか!」

「へますんじゃねえぞ!!気合い入れろ!」

「おう!」


 前の組がどんな連中なのかは知らないが勝ったらしい。4人組は勝てるかな?出来たら負けてアイテムほいほいさせてくれたらいいのに。

 あのおじさんたち、1階層で狩りするくらいの雑魚みたいだしね。


 扉は10分も掛からずに開いた。

 どうやら1階層を突破するだけの実力は備えていたらしい。


「っち。」


 アタシは舌打ちして、ボス部屋に入る。

 なぜ舌打ちしたかって?四人組が死んでなかったから。

 実力はあったようだな、あいつら。

 中央に鎮座するボスナメクジ。

 スキルを使って、一撃必殺。

 相手の触手が伸びてくるまえに仕留めた。

 ボス塩を回収し、今回は2階層へ進む。この行動は迂闊だった。


 2階層と1階層は景色が変わらない。

 特に階層を上がったという感覚はないが待機室みたいな場所が入口ゲートが設置されていた。

 1階層から上がってくると、このゲートから出てくるっぽい。


「あ?」

「おめえ、さっきのガキか?」

「1階層で死んだんじゃねえのか?」

「たった一人で?」


 しまった。あの4人組だ。

 速攻倒したせいで奴らと鉢合わせしてしまった。

 鎧はボロボロに傷ついたり破壊されていて、1階層ボス部屋前で見た時とはずいぶん身なりが違う。それだけ激戦だったのだろうが、それじゃ赤字だろうに。修理は安く済むのかもしれないけど、買い替えた方が早そうな壊れ方をしている者もいるし。

 まあこの世界の装備品の治し方とか相場とか諸々知らないから何とも言えないけどね。


「俺たちが倒すよりはえーだろ。」

「癪だがな?どんなトリックだ。」


 いやトリックて。

 実力だろ。


「傷一つついてねえ。キャリーしてもらったか?凄腕とは1階層で別れたのか?」

「ああ、そうに違いねえ。」


 なるほど。それならトリックと言われても致し方ない。

 いやないだろ。1階層の突破に凄腕雇うとか。

 仲間がいないことを確認してただろうに。

 そもそもそんな金もねえ。


「おい、口がきけねえのか?!どうやってここに来た?!」

「おい待てよ!!!!」


 アタシは無視して待機室から出た。

 彼らは口だけで、結構な戦闘疲れが溜まっていたらしく追ってこれなかったぽい。

 

 アタシは2階層の様子を見て回る。

 冒険者はそれなりにいた。1階層みたいに混み合ってはいない。1階層より2階層のほうが構造が大きいせいもあるが、良い塩梅で冒険者はいる。ただのレベル上げなら2階層のほうが良さげだ。とりあえず左に左に進みまくったが、いるのは聞いていた通り木製のクワガタだ。

 2階層からは2匹同時も出たりするのか玩具みたいなクワガタと接敵していた冒険者達を見かけた。

 2階層で2匹同時なら、3階層は3匹同時とか?……そんなことになったら流石に仲間が必要か。

 行き止まりまで行きついたが、左へ進むだけだとボス部屋には着けないらしい。

 一つ前の分岐点まで戻って右へ行く。

 冒険者とクワガタの戦いは角鋏で突いたり挟んだり、大型犬級の大きさのクワガタは飛びもする。でも軌道はいつも直線過ぎるキライがある。仮説だが、真っすぐしか飛べないのかもしれない。複雑な軌道で回避したりもしないし。

 羽を破壊されると飛べないみたいで、戦ってないけど情報は集まる。一撃で倒せなかった時を考えて羽を狙って部位破壊しておくのが一番安全な戦い方だろう。

 冒険者達は飛ばれて突進攻撃を受けたくないみたいで率先して羽を潰している。

 恐らく正攻法セオリーなのだろう。

 ドロップ品は100センチ程だろうか。

 綺麗に加工された木材だ。案外大きい。

 アタシの身長と大差ない。



 どうやら右も行き止まりのようだ。

 最奥の分岐点はどちらも外れと。

 引き返して、右へ、すると三つ又に分かれた道に出た。

 また左攻めしてもよかったが、何となく左じゃなくて真ん中な気がしたので真ん中の通路を通っていく。

 真っすぐで分岐もない長い一本道。魔物が出てきたら戦闘は避けられない。クワガタが突進攻撃を仕掛けてきたら猛威を振るう状況だ。曲がり角の一つでもあれば身を隠せるというのに。ないものはしょうがないので、できるだけ足早に突っ切ると―――ボス部屋だ。

 1階層で何度見たか分からない位見た全く同じ扉。いや、扉には2の数字が刻まれている。

 そういえば、1階層の扉には縦線が入っていたのを思い出す。

 あれは1って意味だったのか。

 扉に番号とか何の意味があるんだ。

 そんなものなくても今いる階層くらい分からない訳ないのに。

 変に親切設計だことで。


 扉は開く。だが《乾坤一擲》スキルは20分の再使用時間クールタイムが残っていると知らせてくれる。

 戻るにしても戻らないしても中途半端な時間だ。

 一先ずここで待機か……。


 ――――5分後


「おいおい、あいつ一人だぜ?ぶちのめしてぇ!!」

「おいクソガキ、身ぐるみ全部置いてくなら見逃してやってもいいぜぇ?」

「絶体絶命じゃん。ざこじゃん。」

「おいおい装備壊したら売れねえぞ。手荒な真似はやめろよ?」


 ボス前に現れた盗賊風のセリフを吐く男3女1の人間たち。

 前は盗賊、後ろはボス部屋。

 今の状況はやばい。だってまだ15分も再使用時間クールタイムがある。


「怖くて喋れなくなったか?」

「ぎゃははは!」

「一人でボス部屋に行ってもいいんでちゅよ?」

「状況は分かるよな?」


 ゆっくりと近づいてくる見たことのない輩。

 今日は厄日かな?お節介にトリックにカツアゲ?にさ。

 邪魔者のハットトリック決めちゃってるじゃん。

 そうこう思考してる合間に選択を迫られる。

 しょうがない、腹を決めるか。


 後ろを振り返り、ボス扉へ突っ込む。

 盗賊野郎の伸ばされた手はすんでのところでアタシを掴み損ねた。

 扉に弾かれる盗賊たち。

 ボス部屋に入場できるのは1チームまで。

 アタシと《編成構成》していたら入れたかもしれないが、してないから敵さんらは入れない。

 

「はぁ、残り約15分……頑張る!」


 中央に鎮座するのは聞いてた通り、カブトムシ。

 木製カブトムシが数センチ宙に浮く。

 ブゥウウンと羽音がうるさい。

 

 カブトムシの角が少し前傾に傾いた瞬間、アタシは全力で真横に飛んだ。

 入ってすぐ入口の扉は消え壁となっている。

 アタシは動いてなかったから真後ろは壁である。

 そこに全力の突進攻撃がさく裂する。

 

「ドガガガガ――――――――!」


 ドリル工事みたいな音が鳴り響き、部屋の壁が壊れる。

 何をしても壊れなさそうな壁は魔物による一撃では壊れるらしい。破片は細かく、砂煙を上げる。

 視界が悪くなるのは最悪だ。

 アタシは態勢を瞬時に整え、距離を取る。


「gisyaaaaaaaaaa!!!」


 いやな雄たけびが聞こえる。方向転換しているのかドスンドスンと足音が聞こえる。

 結構な重量があるらしい。虫のカサカサ音は嫌いなので、そうじゃなくて助かった。

 羽があるのに、旋回しない辺り此奴もボスといえど空中飛行は苦手なのかもしれない。

 ということは、突進中の立体機動はないと見ていいか?

 2度目の突進も壁に激突するボス。何とか距離を取り、投石を試みる。石は弾かれ、地面に当たると砕け散る。

 外皮が硬すぎて、とても効いているようには見えない。

 ここにきてダメージ0か……。

 通常攻撃が効いていないということは一撃で倒すか、倒れなければ一時間耐久も視野に入れねばならない。

 心臓がバクバクと暴れ狂う。

 緊張感で手足が重く感じる。動きが鈍くなるのは恐怖からか。

 一撃で倒せないなら、粘るだけ。

 幸い距離さえとればしてくる攻撃は突進攻撃のみ。

 逃げて逃げて逃げる。

 息が荒くなり、肩が上下に揺れる。

 つらく苦しい。

 こんな状況になったのは全部あの連中のせいだ。

 《乾坤一擲》スキルは残り5分。

 

 逃げ惑うだけの戦いなど、久方ぶりだ。それでも安全地帯がアタシを守ってくれたのに。肉壁となって戦う人がいたのに。

 これ以上ないくらい分が悪い。

 早く、早く、早く……。

 精神的に余裕がないのがこれほど厳しいとは。

 

「gisyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 カブトムシも憤っているみたい。雄たけびから怒りを感じる。

 何度も何度も躱すだけの敵を相手にして、バカにされているとでも思ったのか。

 決して馬鹿にはしてないんですけど。

 掠めるだけでもアタシの耐久じゃ吹き飛びそうだというのに。

 勘弁してよ。

 汗だくで脱水でも起こしそうだ。

 

 ドゴォーーーーン!!!


 もう何十度目かの突進を躱し、ようやく待ちに待ったその時が来た。


 《乾坤一擲》―――一撃分の攻撃を飛躍増強させるスキル。

 突っ込んだ壁から頭を抜こうとして、地に足を着けたカブトムシ目掛けて、中心部分に握った石をぶん投げる。


「くらええええええええええええ!!!」


 全力投球。確実に当てるために距離なんか取らない。

 外すことはなくても反撃には遭うかもしれない距離。

 ウッドビートルの腹に見事に当たる。飛んでいないため外皮に守られている―――その装甲にぶち当たり、罅が―――そして突き抜け、砕け散る。

 木っ端となった腹からは木屑が飛び散る。

 血ではないらしい。

 どこまでも木か。木と主張するか。

 亀裂が頭部にまで走り、自慢の一本角にまで及ぶ。

 それでもギギギと動き頭を振りまわした攻撃がアタシに当たる。横薙ぎに振られた角が横っ腹を捉え、ぶち当てられ吹っ飛んだ。防具は衝撃を通す。吹っ飛んだ体は壁面に叩きつけられた。


「ぐぅ―――――!!!」

 

 粉々に体が砕け散ったみたいに動かない。

 負けた、襲い来るカブトムシの突進はもう回避できない。

 そう確信し、目を閉ざした。


 ――――――――――――――――――――、


 ………。

 …………。

 ……………。

 は?

 痛みはあっても意識は飛ばないし、追撃もやってこない。

 それどころか、体が喜びを感じている。そう、経験値だ。そしてこれはレベルアップ。

 恐る恐る目を開けると、カブトムシのいた先に加工された木材――――ドロップ品が無造作に落ちていた。


 虫の息であった自身の体を治すために《治癒》を使う。

 初めての治癒である。

 効き目は目覚ましい、バラバラになった体が一つに纏まるかのように癒しが訪れる。ただ、それと同時に強烈な眠気もやってきた。アタシはボス部屋で魔力の枯渇で起きる強烈な眠りに勝てず、意識を手放すのだった。


 目が覚めるとそこは迷宮の中。

 ドロップアイテムのみ落ちており、ボス部屋には一人アタシが寝転がっていた。

 立ち上がり、現状を把握する。


(そういえば、《治癒》のスキルを使ったんだっけ…)


 出し惜しみせず、すべての魔力を使い切りスキルを使った結果、意識を失ってしまったようだ。

 幸いボス部屋はボスを倒したら倒した者が部屋から出ない限り安全地帯となる。その代わり誰も入ってこれないので迷宮に挑む者からしたら良い迷惑―――マナー違反行為である。

 まあ、今回は事情が事情なだけに意図して行ったわけではないので許されるが、本来は厳罰もあり得る。


 アタシはボスドロップの木材を杖代わりにして、迷宮の外へ帰還する。森の茂みに飛ばされたみたいで、随分と宵闇も深まってきているのを見るに、三時間以上は経っていそうな感じだった。既に《乾坤一擲》スキルの再使用時間のカウントはなくなっているので1時間は確実。手に入れた木材はそのまま安全地帯へ持っていくことにした。

 相当頑丈な迷宮産木材を支柱に―――、1メートルの柱が地下を支えるために地面に埋め込む予定だ。

 坑内支保の見様見真似……確か上に一本、両サイドの支柱に、それで足りなさそうなら中央にも……合計四本もあれば何とか形になるのかな?

 まずは一本目……。

 あと何本か……予備も含めるとどの位用意しておけばいいのか……。


 死にかけたので少々、いやかなり億劫である。

 攻撃もぎりぎり避けられる程度だし。

 2階層のボスはとにかく相性が悪い。

 

 安全地帯でごろごろしつつ、戦いを思い返す。

 ぶん回された角が当たって死にかけたと思ったが、本当にぶん回された角が当たってて生きてるだろうか。

 死にかけるくらいの打撃を受けたが―――、答えは否、だ。

 あれはおそらくただの方向転換……カブトムシは無理に動いて自壊した。そうじゃないとカブトムシが倒れた理由が分からない。つまりアタシは現状ただの方向転換であたった角に吹き飛ばされた最弱紙耐久女ということ。

 敵からしたら驚きだろうな。全力の攻撃は避けられたのに、肩と肩がぶつかった程度で倒せそうなんだもの。

 きっとやつは死んでも死にきれないだろうな。死んだけど。

 

 痛む身体に《治癒》を施す。

 痛みがすうっと引いていく。それでも完治には至らないが。

 うう、また軽く眠気がやってくる。どうやら魔力は完全回復していないみたいだ。感覚的な話になるが、魔力を節約して1/3くらいを目安に消費して《治癒》を使ってみたんだけど体内の魔力は、ほぼすっからかん……もう使える気がしない。

 これはつまるところ気絶するように眠ったのに、回復した魔力量は1/3程度だったということだ。……ああ、もうだめ。


 アタシは再び眠りにつくのだった。


 起きたら朝だった。

 身体はすっかり治っていた。レベルの上がった身体は治りも早いのだろうか?

 時間が分からないので一旦冒険者ギルドへ帰宅する。

 本当に時計を買うべきだ。

 裏口から入って柱時計で時刻を確認する。全然早朝5時だったし狩りに出向くのも今日は億劫だから部屋に戻ってベッドへダイブすることに。荷物整理をしているとボス塩を換金し忘れていることに気づいた。

 だらだらするのはいいけど、塩の保存方法は決していいとは言えない。品質は価値に直結する。価値が下がったり、下がったものを無理やり300ゴルドで買い取らせるのも忍びない。ドンベーイの店主はいい奴なのだから。

 何でも買い取り屋ドンベーイとは懇意にしていきたいのだから。30分だけだらだらとして過ごしてから塩を売りに迷宮近くに立ち並ぶ売店へ戻る。


「おはよ。」

「おおじょうちゃん生きてたか。よかったよかった。」


 まあ、昨日は朝活以降売りに来てないからな。

 しょうがないといえばしょうがない。

 ただ1日で心配されるとは。


「ん、ボス塩。」

「どれーー、ん!たしかに、これはボス塩1個だな!しめて300ゴルドだ。」

「まいどあり。」

「おう!」


 現物を持ってきてもよかったが、先に聞いてもいいよね?


「ねえ、2階層ボス木材ならいくら?」


「ん?2階層のボス木材ってああ、甲木煉瓦こうもくれんがか。それなら320ゴルドで買い取るぞ。他じゃあ270とか280が相場か?因みに木煉瓦もくれんがのほうは……嬢ちゃん流に言うと雑魚木材は15ゴルドだな。安い理由は質が違いすぎる。この一言に尽きる。…がそれでも使い方は多岐に渡る。嵩張るのが難点だが、買い取って損はねえ。だからあるなら買い取るぜ?おれぁ甲木煉瓦ボスもくざいを売ってくれるなら嬢ちゃんには色を付けるぜ。がはは」


 なるほど。色を付けて320か。まあ塩が相当すごいだかもしれない。食という必需品クラスの塩と比べると木材はちょっと劣るか……。いやこれは対費用効果的にって話だから一回で稼げる額は確実に増えてるんだけどね……。


 ボス自体はなんだかんだ一撃でやれる事が判明したカブトムシ狩りは、道中の一本道然り、悪辣生業の盗賊さんたちと出くわす可能性を鑑みると……2階層は危険と報酬が見合ってないのだよ。

 たった20ゴルドのためにって考えると億劫になる。


「ねえ。」

「んん?どうした?今日は珍しいな。」

「腕時計とか懐中時計って売ってる?」

「ああ、売ってるぜ?中古品の買い取りや壊れたもんを直して売りに出したりな。」


 自慢げに語る店主は胸を張っている。

 暗にジャンク品でも買い取るし直せる技術があると仄めかしてきたか。

 やはりこの何でも屋、ただもの屋じゃないな。


「それじゃ、1個いくら?」

「お、買いの相談か?んん、物にもよるが安いのでも3000ゴルドはするぞ?」


 うぉ、まじかよ。ぶっとんでんなぁ……。

 アタシは3000ゴルドという額に顔が引きつりかける。


「まあそんなしかめっ面になってもしょうがねえよ。時計は輸入品だしな。中古だろうと骨董品アンティークだろうと時計の価値は変わらねえ。寧ろ、好事家に売れば骨董品アンティークは価値が上がりさえするな。絶対必要なもんじゃねえが、あれば大いに役立つ。だから少々高くても欲しいやつは買う。だから値引きは出来ねえぞ?」


 まあそうだよなぁ。


「……3000ゴルドで1個お願い。」

「買いだな。分かった。迷宮でも使えるしな。取り寄せには1月は掛かるぞ?いいか?」


 ひと月だと……30日も掛かるとか驚きだわ……。

 まあでもそうかそうだよなぁ……。

 輸入って言ってたし……。


「ん。」

「んじゃ、1個仕入れておくわ。」


 アタシはその足で1階層のボスを狩って帰った。

 

(こりゃ当分は安全地帯の基地化計画は進みそうにないな)


 と、考えていると遠目に2階層で出会った悪徳同業者とうぞくを見かけた。

 男の中に女が一人いるのは割と珍しい方だ。

 イワシ団も女がいたからポピュラーなのかと思いきやそうではない。基本は女同士男同士。次に多いのが男一人に女が群がるか、最低女は二人、1チームにいるのが定石セオリー。女が一人の所は、実はなかなか見かけない。

 これはアタシ調べではある……けど冒険者活動をしていても思ったし、受付で仕事をしている感じでも依頼達成書に書かれている構成員の名前から判断している。確度の高い情報だと思う。

 依頼達成書に名前が載っているのはそうしないとギルド側が評価出来ないためだ。

 評価しないとランクは上げられないからね、虚偽の報告をする必要性がない。

 だからあいつらの構成は珍しいのである。そう決めつけさせてくれ。

 少なくともザックロール領で活動する冒険者の中ではね。

 それに奴らにはすごい特徴がある。

 全員が赤髪っていうね。

 栗毛色が主流の頭髪の中で赤色は目立つ。

 まあ青やら金やらもいるからあいつらだけ異常に浮いてるってわけじゃないけど。冒険者って変なのが多い。

 なんならここでは黒も結構目立つ。前世と同じ黒だったら浮きに浮いてたろうに、あっぶなーい。

 アタシは例に漏れず、極々一般的な栗毛色だから目立たないぜ。


「あーあ、鴨に逃げられちったなぁ。」

「俺らじゃ2階層のウッドビートルは倒せねえし。ああ惜しいぜ。」

「雑魚狩りじゃできないもんねえ。」

「ああ、まったくだ。」


 アタシのスキル《地獄耳》で奴らの会話を聞き取る。実際にそんなスキルは発現してないがね。

 物騒な事を言ってるが、装備だけじゃは出来ねえだろ。こいつら違法人身売買にも手を染めてる可能性があるってことなんだよなぁ。


「また潜りに行くか。」

「そうだなぁ。」


 なんて声が聞こえて、奴らは迷宮のほうへ歩いて行った。


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