第4話
無事に帰宅する。
冒険者ギルドへ。
実は帰りに少しだけ母ちゃん達の家に寄った。
母ちゃんは元気になっていた。
前より、ほんの少しだけ顔色が良い。そんな気がする。
食い扶持が減ったのと、お金に余裕が出来たからだろう。
アタシはその姿を見て、涙が零れそうになった。
安心したのだ。でもって寂しかった。
ここで生を受けて、家族となって8年。
母ちゃんは母ちゃんだもの。
弟も妹も元気そうだった。
元気になって良かった。と声を掛けて抱きしめたかったがアタシは戦闘奴隷。勝手は出来ない。
甘えや寂寥感で心が満たされないよう、アタシは走ってその場を離れた。そんなものの言いなりになったら心がポッキリと折れるに違いなかったから。現に溢れ出した涙を止める術をアタシは持ち合わせていなかったし。
冒険者ギルドに着く頃には涙は引いていた。
井戸で顔を洗ったので、万が一にも泣いていたかどうかなんて分からないだろう。泣いてないし。
アタシは討伐戦後の処理に追われる受付嬢やギルマスの為に書類の手続きが済んだものを整理したり、掃除したり、報酬の受け渡しをしたり、依頼の張り出し等もアタシの仕事だ。
まあ、これで大体日給100ゴルド。
パンが一個2ゴルド、骨付き肉が3ゴルド、サラダが2ゴルド。
一食当たり計、7ゴルドの出費で済む。
住む所はタダだからね。
アタシはこの日給の内、21ゴルドを毎日、実家に。
30ゴルドを返済に。
100-7-21-30=42ゴルドを貯金にしている。
この貯金は家族がまた倒れた時用の非常用金だ。
病気を治すポーションは1000ゴルドはする。
だから、24日くらいだろうか。
それだけ貯金して一本買えるかどうか。
因みに、奴隷紋に戦闘結果が蓄積されていたようで、2匹の豚鬼の致命傷討伐を認められ、一匹1万ゴルド、そして参加手当に1000ゴルド、計21000程が手に入った。
でもこれは本当に貯金。
借金返済には充てない。
アタシが死んだときの家族に渡すため。
もしくは好きに使うお金だ。好きに使うって言っても贅沢には使わないよ。
ベッド裏にお金を隠して、貯めておく。
因みに銀貨1枚が1000ゴルド、金貨1枚が1万ゴルド。
だからへそくりは銀貨1枚と金貨2枚と滅茶苦茶数えやすい。
もう一つの貯金は小タンスに。
取られたくはないが、分けているのは取られた時用の保険。
まあ、ギルドの受付裏の扉か、裏口からしか入れないのでよっぽど盗られることはない。あるとしたらギルド関係者だろう。因みに冒険者ギルドは24時間営業である。
誰かしら、夜勤担当が居て、常駐しているのでセキュリティ面は最高クラスである。最高だけど安心しきるのは違うからね。
狩りには行く。
1日2回。
一回目は早朝。
家にお金を仕送りするついでに《乾坤一擲》だ。
二回目は夕方。仕事終わりにこっそりと家族に変事が起きてないか確認がてら《乾坤一擲》だ。
月狼は狙わない。狙うは鬼蜘蛛。
何故か?
単体でいるからね。
一撃で倒して、終わり。
毒液や毒腺を持ち帰れればいいけど、解体用ナイフもないからね。レベル20までは攻撃スキルがこれしかないから迷宮に入って探索者のジョブを付け替えることも出来ない。
もしできれば鬼蜘蛛を余すことなく持って帰れるんだけど。
こればかりはしょうがないね。
冒険者ギルドでは安全な事務作業に雑用で100ゴルド稼ぐ事、一月。
一月は30日である。
この世界はぴったり360日で1年だ。
春の月が90日で夏の月となる。
春、夏、秋、冬。これが90日サイクルでやってくる。
数え方は春の1月が1日から30日まで。31日から60日までは春の2月といい61日から90日は春の3月という。春の48日目は春の2月48日と呼ぶ。
ここで面白いなと感じたのは春の3月90日まではしっかり春なのに、夏の1月1日になった途端、暑い夏に変わるのだ。
1分前までは春の季節だったのに、1分後は夏となる。
本当に不思議である。
そんな感じでもう一月。
春の2月36日だ。
アタシは春の1月6日に生まれた。誕生日に奴隷になったからね。普通は最悪の8歳の誕生日だね。でも家族を救えたから最高の誕生日とも言えるね。
一月の御褒美に解体用ナイフを買った。
300ゴルドである。これは解体士が使うプロ用だ。
約7日分の貯金をはたいて購入した。
このナイフで最初に狩ったものは、いや刈ったものは自分の髪だ。
薄青色の髪は短めに、女っ気なんてないよ。
長いと引っかかるかもしんないし掴まれるかもしれないからね。
常に眠そうな目、怠そうな目をしたアタシは愛想の良い女の顔には生まれなかったけど、野暮ったい髪でも似合うから気に入ってる。
これでも850ゴルドは貯金出来てる。
アタシえらいっしょ。
因みに100ゴルドは小銀貨1枚、10ゴルドは銅貨1枚。1ゴルドは小銅貨1枚。
そんでもって30日間休みなく魔物を倒した結果、アタシのレベルは20を突破した。
全部経験値を総取りだからかね。
若しくは下位ジョブだからか。
若しくは強個体を倒したか。
頭部を一撃だから正直分からん。
豚鬼の眼球ですら、《乾坤一擲》の前では当たれば貫いて致命傷なのだ。
鬼蜘蛛如き、虫如きである。
ステータスはこんな感じ。
—――詳細ステータス―――
ララ……現在のジョブ:投擲師
レベル…20/20
状態;戦闘奴隷
力:10→86
魔力;5
耐久:2→21
敏捷:15→34
器用;10→105
運:7→8
—―――固有魔法—―――
・未発現
—―――スキル一覧—―――
《穴掘り》
《逃げ足》
《投擲》
《軟体》
《乾坤一擲》(New)
—―――――――――――――
しっかりと手に入れたようでスキルに(New)とついている。
ジョブ固有スキルという文言は取れた。
良く育つと書いてあった〈力〉は4上がり、〈器用〉は5上がり。良く育つと言ってもステータスの上がり幅は違うらしい。
他が1上がりで、魔力に至っては0上がり。0上がりとかちょっと上がってる感あって良い言い方だと思うんだよね、変わってないけど、上がってないけど。
そして
—――ジョブ転職可能一覧—――
・巫女見習い
・投擲師…★
・村人
—――詳細ステータス―――
ララ……現在のジョブ:斥候
レベル…1/20
状態;戦闘奴隷
力:86
魔力;5
耐久:21
敏捷:34
器用;105
運:8
—―――固有魔法—―――
・未発現
—―――スキル一覧—―――
《穴掘り》
《逃げ足》
《投擲》
《軟体》
《乾坤一擲》
ジョブ固有スキル…《索敵》(New)
—―――――――――――――
斥候にジョブを変更した。
これで今度は〈敏捷〉と〈器用〉が上がりやすくなる。
1カ月でマスタリー出来たのは嬉しい。
投擲師のジョブの上位互換はないようで、マスタリーしても何も新規ジョブが出なかったのは残念。
まあ、剣で攻撃した訳でもなし、槍で攻撃した訳でもなし。
これで剣士とか槍士とか弓士のジョブが生えてたらびっくりだよ。
近距離は耐久が100を越えたらしようと思う。
じゃないと不安だ。
安全圏からチクチク出来るスキルが大量に欲しいよ。
だって初めてジョブをマスタリーして分かったけど、100でようやくオークの柔い部分が潰せるんだよ?
それって100あっても普通に攻撃が通るってことじゃん?
ラノベのチート系みたいにカキーンって防いでくれないんだよ?
※月狼の牙…攻撃力10、拳大の石礫は実は鉄鉱石の塊…攻撃力5あります。そこにステータスの〈力〉が乘って十倍の威力で攻撃が通ったのが真実。本人が勘違いしてるだけ。
これはもう気を付けないとでしょ。
それに冒険者は簡単に殺されてたからね。
てことは耐久なんて100程度じゃ紙同然なわけ。
これはもう気を付けないとでしょ。前線で戦うべきじゃないでしょ。はぁ。
耐久21とかあってないようなもん。未だに一撃死なのは変わりないね。
あーやだやだ。
《逃げ足》……対象から逃げる際、十分間敏捷が3倍。スキルは
これちゃんと見てなかったら知らなかったけど、地味に制約が付いていた。
勝手に発動してたのは知ってるけど実は一時間も再使用時間があるなんて。
しかも十分だけだったのが驚き。
すぐに逃げてたし、隠れてたから知らなかった。
追いかけられてまたすぐ見つかって追いかけられるような目に遭ってなかったからよかったモノを。
三年間結構な綱渡りしてたのかもしれない。
でも知っておいてよかった。
危なくなれば逃げて……ってのを狩りの作戦で考えてた所で、たまたまタップして詳細知ったんだよね。
ステータス盤は偉大だ。
取り敢えず、斥候と巫女見習いをマスタリーしたら迷宮に訪れてみようと思ってる。
そうするだけで、探索者のジョブが生えるからね。
《アイテムボックス》は早めに欲しいけど、命には代えられない。
それに迷宮産の魔物の方が強いらしい。まあ月狼とかに比べると…って話らしいけど一概には言えない。外の魔物は個体差激しいからね。
そんな微温湯育成計画に基づき強くなったアタシ如きじゃ、行くべきではないよね。
一カ月も経つと、やっとザックロール領は落ち着きを見せる。
騎士の補充に冒険者と傭兵の補充が行われたのだ。
一時、防御網が薄かったのだが、そんなことは庶民のみならず領民にも知られてはならない話だった。
アタシが知ったのは冒険者ギルドのギルマスの机上の書類整理をしている時に、たまたま知ってしまっただけ。
まあ、知った所で話せないように契約されてるけどね。
だから、奴隷の分際でも大事な書類整理が出来るってわけ。
まあ、奴隷だからこそ信用して任せられるって人もいるみたいだけど。
それを信用してるっていうのか?魔法契約をわざわざ結んでくれる人は信用に値するって事か?正直聞いた時は、イマイチよく分からなかったよ。
まあでも確実に情報が漏れないからね。
人の口に戸は立てられないって日本にはことわざであるけど、この世界は立てられる。
破ったら、その人の裁量にもよるけど基本的に話せないだけでなく酷い責め苦にあう。
ヤバい所は死ぬらしい。
因みにアタシは話そうとすると身体が砕けそうになるような責め苦を味わうらしい。
相当苦しいみたい。
でも話す気ないし、話す相手もいるとしたら家族くらいだけど今は家族と離れてるし。
友達がいないぼっちだってバレたか。
「そう言えば、どう?慣れた?」
「ん。」
仕事中話し掛けんなっちゅうの。
急に話し掛けられてコミュ障発揮したわ。
「ははは、そりゃよかった。この調子だと奴隷借金返済まで39年以上かかるって知ってた?」
「……。」
「それだけギルドに身を置いてもらえたら有難いけど、若いんだからちゃんと自分の身を買い付けれるように頑張ってね。」
発破かけられてるのかな?
下準備中ですから。
てか基本事務仕事しか回さないよ?ってこと?
「あの、アタシ戦闘奴隷なんですけど雑用に事務仕事ばかりでもいいんですか?」
「いいよ?豚鬼みたいな危険な仕事がバンバン回ってくると思った?」
「…まあ。」
「ははは、それじゃどんな猛者も死んじゃうよ。でもそうだなぁ、
「んん。」
アタシは軽く首を振る。
「じゃあ、今日はちょっとだけ迷宮にいこっかね!」
「はあ。」
唐突に決まってしまった本日の予定。
まあ、このギルマス結構気分屋であの仕事してると思ったら、この仕事してるって感じだから。
こういう事してるから仕事が溜まるんだろうけど。
「《編成構築》」
ん?なんかの勧誘を受けてるぽい。
そんな感覚。
「受け入れてみて?」
言われるがまま、受け入れた。
抵抗とか何もしないでハイハイって感じ。
「おし、これで《地域移動》。パーティーメンバーになったから。じゃあついてきて。」
壁が黒ずんだと思った。
どうやらこれが冒険者のスキルらしい。
壁をすり抜ける?溶け込む?
うっすらと感じる変な感じ。
「わあ。」
見えたのは洞窟。
十人が両手を広げて横に並んで入れる大穴。
穴は青やら白のワープホールみたいな、でも全然眩しくはない。目がチカチカすることはないけど、はっきりくっきり幻想的な渦がみえる。
そこに人が入って行く。
装備が良さげな者から、初心者の皮の装備一式着込んだ者から様々だけど、結構な人。
「盾職、いませんか?あっと一人募集っす!」
「遊撃!一人!!」
声を張り上げて、募集している人もいる。
迷宮って感じがする。
「どう?ここが《ザックロールの迷宮》。」
ギルマスおじさんは迷宮に感想を求めてるのか?
では一言。
「でかい。」
「ははは」
じゃあ、入ろうか!と言われて入るけど。
持ってるものは解体用ナイフだけだ。
石ころがない。
迷宮に入ると、石造りの立派な建築物の中。
洞窟みたいな見た目の中だったのに。
天井もある。
迷宮の中ってこんなにも綺麗なの?
塵一つない。
「此処が十階層ね。」
え?今なんて?
獣階層?いや十か?!
「それって十階層が初期地点とか?十、九、八、七って難しくなる?」
「ははは、んなわけ!一階、二階って難しくなるんだよ。」
じゃあ、此処大分危ない所だろ?!
何考えてんだ?!
「いや、一階層は滅茶苦茶って程でもないと思うけど人混んでるしね。此処は十階層、初心者狩りの十階層だ。」
初心者狩り?!
物騒な異名を聞かされ、意識を手放しそうになったわ。
「いや、此処の雑魚じゃなくてボス部屋がね。」
アタシの顔色が悪くなったのを見たのか、安心してくれとフォローが入る。
まあ、ボスに行かないならって、違うだろ?!
一階に連れてけよ!
「ま、こんな感じだから。雑魚一匹倒してあげるわ。」
はあ。
でも十階層とか強すぎて、ノーダメージじゃないか?
石ころも拾えないっぽいし。
こりゃ迷宮に入る時は石ころ袋いるな。
ギルマスの後に付いて歩く。
「あ、いたいた。」
すぐ曲がり角にはゼ〇ダの伝説に出てくるようなリザードマンがいる。ククリナイフに丸盾、軽装の鎧まで着込んでいる。
頭、腹、足は丸出し。
ギルマスがアイテムボックスから出したであろう自前の武器—―黒光りしてる大鎌を取り出すと、軽快に走り出してズバン!!
大鎌を真横に一文字描くように一振り。
上半身と下半身が分断されたリザードマンは即死したみたい。
ぽんっと小気味良い音を鳴らして、ククリナイフを一本ドロップした。
どうやら、迷宮の魔物はアイテムをドロップさせると消えるみたい。
他を活用できないみたいだ。
外にいる魔物は死体が残る。
良くも悪しくも全部ね。
すぅっと経験値が入ってくるのが分かった。
え?
「あの、経験値…。」
「あはは、パーティーを組むと経験値が入るのさ。貢献度は関係してくるけどね。ララは何もしてないから一割くらい?分からんけどそう言われてる。」
なんと。
「ま、これを利用して強くなるのが貴族だよ。」
寄生厨の鑑みたいな奴等だな。
アタシも投石で稼いだけど。
悪いとは思ってるけど強くなる為にしょうがなかったんだ!
「えっと経験値ありがとうございます。」
「いえいえ、どういたしまして。それじゃ戻るか!」
「ん。」
レベルは上がらなかったけど上がりそうな勢いだった。一割しゅんごい。
十階層の入り口に〈転移門〉があり、黒染みみたいな場所だ。
それを通ると、入り口に強制送還された。
そこからは何故か歩いて帰ることに。
どうやら此処はザックロール領の北に位置するらしい。
周囲はドリトル森林が浸食しつつあるが、樹木を伐採し、拓けた場所になっている。
真っ直ぐ歩いて十五分程度。
帰宅
活動時間はバラバラ。
これなら夜でもレベル上げできるかも。
一階層で通用するのかどうか知りたかったけど、《乾坤一擲》なら今なら800くらいの攻撃力になるし多分行ける?
夜に狩りをしないのには理由があった。
それは月狼の存在だ。闇夜に紛れたあの狼は最強って言っても過言ではない。特に盾がないとね。安全圏からじゃなきゃ嫌よ。
だからどんなに遅くとも夕方まで。
「これで探索者のジョブが生えただろうから。」
「ありがとうございます?」
仲間の一人でもいれば。
「パーティーってどうやったら組めるんですか?何のジョブスキルで手に入るの?」
これだけ有用なスキルなら初心者育成だって出来るからね。
孤児とか…最悪弟辺りを連れ出すってのもあり。
最初に死ぬことが多いぽいし。
豚鬼戦もほとんどの死傷者が新米、新米が死んだ穴を埋めるために無理した熟練の冒険者が十数人らしい。
「え、誰でも出来るよ?あ、その前に《編成解除》。よし《編成構築》って唱えてごらん。」
なんかよく分からんけど繋がりが消えたような。
ギルマスとは赤の他人になった気分。
いや赤の他人なんだけど。
「《編成構築》」
なにも。
「あ、対象を選んで。」
「《編成構築》」
目の前のギルマスに向けて言ってやった。
すると、あ。
なんか変な感じ。
告白の返事待ってる気分。
そして、…あ。
つながった。
「これで
はあ。
なるほど。
イワシの連中らは、アタシを使い潰すつもりだったんだなあ、と再認識。
「《編成解除》」
すん。
繋がりが消えた。
いや、消したんだけどね。
「はや!!え、俺とは嫌だった?!」
そんなことはない。
これは確認である。
「そんなことない。」
ただいやなやつらがいやなやつらだったと再認識してちょっと不快に思っただけだ。ギルマスのことではなくイワシ達のことだ。本当だ。タイミングが悪かっただけなのだよ、ギルマスさんよ。
「ふむ。女心は分からん。」
これに関してはわからんでいい。
「あ、着いた。」
見れば、冒険者ギルドである。
結構話してたみたい。
アタシは黙々と仕事に励んだ。
朝から夕方まで。
それが勤務時間だからね。
まあ、ギルマスとかは何時休んでるのか分からんけど。
「ん、お疲れ様。」
「うん、ララちゃんお疲れ様。」
受付嬢セレアさんに退勤を伝える。
労いの言葉と日給が貰える。
本当は月給にも出来るけど。
毎日仕送りせねばならんからな。
小袋に入った100ゴルドを銅貨9枚、小銅貨10枚にしてもらう。
貰った日給から銅貨3枚、30ゴルド
小袋は毎回貰える。
あまり質の良い物ではない。つぎはぎの小袋は強く引っ張るとすぐに破れるのではないかと思うくらい。
聞くところによると、廃材の皮とかが裁縫師見習いとかの経験値にするために大量に小袋が作られているのだとか。
裁縫師職人はタダで廃材の皮を、それを見習いが利用してギルドへ。上手い事回ってるらしい。
因みにザックロール領の市場では1ゴルドで小袋は売られている。
家族の様子を見て、《索敵》に引っかかった魔物――鬼蜘蛛をさくっと倒す。
なんとなく、動いてない魔物、それが鬼蜘蛛。
割と動いてるのが、モラワーム。
結構動いてるのが月狼。
こんな感じでなんとなーく判別できた。
くふぅ。
それよりもこれこれ。全能感が堪らない。
中毒になりそうだ。
小袋に手頃な石を集めてから帰る。
鬼蜘蛛は殺したまま放置。
解体練習はしないといけないけど。
そうしないとギルドの解体仕事が出来ない。
《解体》ってスキルが発現したら仕事をさせて貰える。
このスキルがあれば的確に無駄なく解体出来るそうだ。
解体が出来るようになると、日給が300ゴルドに増えるらしい。専属解体人と呼ばれる人は500ゴルドらしい。
アタシは使用人もしてるから、ずっとは解体作業は出来ない。
だから解体手当は200ゴルド分らしい。出来たとしてもね。取らぬ狸の皮算用よ。
妥当だけど今は考えても不毛。
夜。
どうしようか。
行ってみるか。
行くか。
決めた。
行く。
迷宮に。
夕方。拾ってきた石ころの入った小袋を腰に提げる。
もちろんお金は小タンスに。
迷宮への道は夜も割かし人が多い。
迷宮から帰る人、行く人。
道に左革通行とかの概念はない。
中央を歩いている人は少ないが。
馬車一台分くらいは大体の人が余裕をもって空けている。
アタシは魔石灯の灯りがぽつぽつとある端を歩く。
すると反対の中央寄りを歩く、覚えのある不愉快な声が聴こえてくる。
目を凝らすとブスとイワシ。
イワシ団の連中だ。
一回なんちゃら団って教えてもらったけど。
ディセル団だったか。
イワシ団め。
バレないように他の冒険者達を使い、視界に入らないようにする。あの激闘のなか、生きてるとは。
まあ、もう関係ないけど。
でもよく見ると、ブスとイワシと女は固定だけど、斥候おじがいない。なんかクマみたいな奴が二人……見慣れない大男達が一緒だ。
全員が生きてたわけじゃないぽい?
ただのメンバーチェンジか?
よく分からんが、悪運は強いらしい。
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