第3話 第一村人発見!

 国は有れど繁栄せず、人は居れど増加せず、畑は有れど生育せず、人々は魔人の脅威に怯え苦しい日々を過ごしている。


 ここは第375,648世界『セーヤカッテ』。


「うわ、汚っ! ゴミ踏んだんですけど」


 かつて繁栄したであろう国は荒廃し、道路も雑草が生えゴミが散乱している。


「見て見て! 牛が交尾してる!」


 それでも人間の生存力は逞しく、魔人達から隠れ住むようにして衣を作り、食を育み、住を整えているようだ。


「あ! キレイなちょうちよ! これ持って帰れるかな?」


 そんな世界を3つの影が進む。真ん中の男は金髪に派手なシャツ、短パンにサンダルという地球のハワイで買ってきた服を身に付けている。左右の女はいつも通り浴衣だ。

 

「あのさ、シノンさん、社会見学に来たんじゃないのよ」


 ウルスラキスはどこまでも自由なシノンに釘を刺す。


「分かってるって! 人間のキャラクターを見つければいいんでしょ? てかウルス様の格好も変だし」


 蝶を虫カゴに入れながら愚痴をこぼす。

 

 彼らは今、『セーヤカッテ』に住む人間を探している。


「でも見つけてどーするの?」

「先導者の資格を与えるってさっき説明されたよ? シノンちゃん」

 

 サーシャが言ったように、目的は先導者を作ることである。


「えー、でもウチってそんなポイント持ってたっけ?」

「う~ん、今の残ポイントは150万GPくらいかな」

「「え!? そんな少なかったっけ!?」」


 何故か配下と一緒に驚きの声を上げるウルスラキス。


「はい。この前の賭け惑星ボーリングで……ウルス様が負けちゃって……」

「あー、あれか~。楽しかったな~」


 惑星ボーリングは、リセットが決定した世界の神が偶に開催するイベントだ。大小様々な星を用いて行うボーリングは爽快で神々の人気も高い。


「どのくらい負けたんだっけ?」

「えっと、……100万GPくらいです」

「えー! ウルス様ありえないんだけどー!」

「いや~、あれは100万出す価値のある時間だったから悔いは無い!」

「うわ、出たよ、悪いことを認めちゃうと自責の念に堪えられないから無理やり良かったと思いこ込もうとするやつ」


 見事に開き直るウルスラキスに嫌悪感を表す。


「先導者って1人作るのにどのくらいのポイントがいるの?」

「ピンキリだな。1人で世界を変えれるくらいの奴はウン千万から下手したら億だ。レイネんとこは億のキャラも何人かいると思うぞ」

「たっかー!……ちなみにウチは?」

「……まあ平均すると50万くらい?」

「しょっぼ!」

 

 ウルスラキスは配下に対しても見栄を張っているが、実際は数万~数千GPのキャラクターが多い。


「じゃあ今回は1人作ってお終いですか?」

「いや、折角だから何人も作ろうと思ってる」

「それって意味あるの?」


 当然だが低いポイントで作ったキャラクターが持つ力は微々たるもの。シノンの意見は最もなものである。


「普通なら意味ないかもな。でも言ったろ? 布石だって。救済制度で俺がこっちに来て鍛えてやればいいんだよ」


 ポイントを使わないキャラクター、つまり先導者ではないキャラクターは世界に影響を及ぼすことはない。それは先導者になることでようやく内部的に運命値的なステータスが振られるから。


 逆に言えば、確かに低いポイントで作ったキャラクターが世界に影響を与える可能性はゼロに近いが、それでも1ポイントであっても使っておくことに意味が無い訳ではないのだ。


 運命値を持ったキャラクターは、己の意思で行動したり、リーダー的なポジションに就くことが多い。だから救済制度の前にポイントを振り、再度降りてきた時に地位や力を持つに至っている者を鍛えるのが手っ取り早い、という考えだ。


「上手くいくのかな~」


 シノンは半信半疑の様子。


「まあ見てろって。……お! 第一村人発見! おーい!」


 3人の前に現れたのは10歳くらいの少年。短く刈り上げた金髪に朱色の綺麗な瞳の彼は、服の裾を袋にして木の実を運んでいる。


「うわ、なんだお前ら! 魔人か!?」

「ちげーよ、チビすけ。俺らは、あー神……でいいよな?」

「神です」

「まあ、一応神だね」


 まごうこと無き神なのだが、子どもに神と名乗るってどうなんだという僅かながらの羞恥心から配下に同意を求めてしまう小市民的な神。


「嘘くせー! 魔人だろ! 小物だろ!」


 子どもというのは残酷なものだ。純粋な心で小物に小物ということがどれだけ罪深い事なのかを理解できていない。


「こ、こもの?……え? 俺って小物なのかな?」

「そそそんな訳ありません!我らが偉大なる創造神です!」


 ショックを受けた小物神を慰める優しい天使。


「偉大は言い過ぎだね~。どっちかって言うと小物寄りだよ」


 と、すぐさま間違いを指摘する正直者の天使。


「食料を奪いに来たのか!?」

「ちげーよ! 神だって言ってんだろ! お前ら人間に力を授けに来たんだよ!」

「騙そうったって、そうはいかねーぞ!? 俺は村で一番喧嘩が強いんだ!」


 服を脱いで木の実を纏めて地面に置き、シュッシュッとシャドーを披露する少年。


「待て待て、そんな木の実いらねーよ。ったく血の気が多いな~。さすが荒廃した世界」


 その創造主である神が言う言葉ではない。


「信じられねえなら証拠を見せてやるよ。ちょっとこっち来い」


 少年は疑り深い目で警戒しながら近づいていく。


「はい、リラーックス、体の力を抜いて~」

「そりゃ!」

「ハイィン!」


 力を抜いたウルスラキスの股間を、小さな足で勢いよく蹴り上げた。


「ウルス様!大丈夫ですか!?」

「あちゃ~、ありゃ痛いぜ?」


 天使二人が腰をトントンする。


「おのれクソガキ、血祭りに上げてやる」

「な、なんだよ! 隙を見せた方が悪いんだ!」

「あ~、ストップ少年。お姉さんがいいものやるから一回ステイ」

 

 どこまでも警戒心を緩めない少年に向けてシノンが待ったをかける。


「お腹空いてるんだろ? ほら、これやるよ」


 差し出したのは一枚の煎餅。


「シノンちゃん……」

「お前、それ、大事なものなんじゃないのかよ!」


 うるうると目を潤ませる二人。


「いいのか! ねーちゃん!」

「ああ。いい加減長いよこのくだり。サクッと終わらせて帰りたいし」


 こうして頼りになる天使と1枚の煎餅のおかげで話し合いの席が設けられた。


 切り株に座って神が切り出す。


「だからな、世界が困ってるから俺らが手助けに来たって訳だ。分かるか?」

「あ、ああ」


 小物と言えど大人に肩を組まれて話されるのは、年端もいかない少年的には怖いだろう。さっきは勇気を振り絞って蹴りを放ったものの、今は子どもらしく少しだけ震えている。男の子なんてそんなもんだ。


「そこでだ、神である俺がお前にちょーっと手を貸してやるからよ、なんとか頑張ってくれねえかなあ?」

「は、はい」


 みるみる小さくなっていく子どもと、態度だけ大きくなっていく小物。


 少年は頭のおかしい大人に絡まれてしまった事実を受け入れ、早く終わることを祈るばかりだ。


 ウルスラキスはサングラスの上から覗くように少年を見る。


「なんでサングラス着けたんだ?」

「それっぽいだろ?」


 どれっぽいのか全然わからないが、頭は悪そうに見える。


「さーて、分かってくれたところで自己紹介だ。俺はウルスラキス。この世界の神だ」

「あ、はい。俺はユーシ・ヤディアールです」

「ではユーシ、君に問おう。力が欲しいか?」

「あ、はい、欲しいッス……」

「そうかそうか、じゃあ特別に力を授けてやる」


 ウルスラキスが頭に手をかざすと、ポワッとありがちな感じでユーシの身体を光が包んで消える。


「ほい完了。大丈夫、副作用なんて無いから」

「あ、はい、アリガトッス……」

「1回飛んでみろ。今までの自分とは明らかに違うはずだ」


 しょうがなさげに立ち上がり、垂直ジャンプする。すると、そこまで力を入れて飛んだ訳ではないにもかからわず彼の身体は2メートル程の高さまで浮かび上がった。


「え!?」


 いきなりの事に驚き、空中でバランスを崩したユーシをウルスラキスが受け止める。


「ほらな、言った通りだろ?」

「ま、マジだ!すげえ!おっさんマジで神なのか!?」

「おっさんちゃう!お兄さんや!」


 すげえすげえと喜ぶ。


「ユーシには魔人の王、魔王を討つための勇者になってほしいんだ。そしてこの世界をなんやかんやいい感じに良くしてくれ!」

 

 この神に肝心なところのプランは無い。まあだからこそ1万年以上も停滞状態になっているのだが。


「わかった! 俺、勇者になるよ! 神様!」

「よーし! よく言った! また頃合いを見て迎えにくるからよ、それまであれやこれや頑張ってくれ!」


 ユーシはきらきらと目を輝かせている。


「ふっ、ちょろいな」

「ウルス様、何ポイント使ったんだ?」

「なーに、ざっと100ってところだ」

「うわー」


 ユーシ少年の感動とは裏腹に、使用ポイントは100ぽっち。0ポイントとは雲泥の差があるものの、それだけでは少し能力の高い一般人と変わらない。


「後は申請が下りたら、こいつを俺直々に鍛えて魔人を殲滅してやる!」

「魔人もアンタが設定したんでしょーに」


 呆れ顔のシノンを余所目に、ウルスラキスもヤル気に満ちていた。


「よーし、じゃあ帰っていいぞ、お疲れー」


 用は済んだ。しっしっと犬を追い払うようにユーシを家に帰す。


「さて、まあ大体こんな感じ、分かった?」

「はい! 素晴らしいお御業です!」

「あんたホントに見てた?」


 何故か感動しているサーシャ。


「これから二人には任務を与える」

「任務?」

「ああ、二人に10万ポイント渡すから、適当に配ってきてくれ」

「え~! 今から? 帰りたーい!」


 シノンは当たり前のように駄々を捏ねる。


「ならちゃっちゃと行く! あ、当たり前だけどあんまり場所が固まんないように考えて配れよ~」

「そんな抽選会みたいに……」

「分かりました! 行こ! シノンちゃん」


 しっかり者のサーシャがいれば大丈夫だろうと、ウルスラキスは競馬の時間に遅れないようさっさと神界へと帰って行った。


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