第2話 100年と言わず1000年でも大丈夫よ!

「すんませーん、停滞世界救済制度について聞きたいんだけど」


 ウルスラキスはレイネシアナのアドバイス通り、停滞する世界をどうにかしようと朝一から窓口に来ている。


 意外にも窓口は混んでおらず直ぐに対応してもらえた。制度はあっても活用する神は少ない。神々は神界通信なぞ読まないのだ。

 

「救済制度ですね、まずはお座り下さい」


 着席を促され、制度の説明を受ける。まずは概要から。簡単に言うと、自身の管理する世界に降り立ち、予め設定している世界環境を変えない程度の干渉を行えるというもの。

 

 環境を変えるとは、種族を絶滅させたり、国を起こしたり滅ぼしたり、地形を大幅に変えたりといった世界の在り方を変える可能性のある事柄を指す。逆に言えばそれなりに許可される範囲は広い。


 そして制度利用の条件は下記の3点。

 

 ①停滞が世界時間で1万年を超えていること。

 ②前回の世界ランクが10万位以下であること。

 ③GPの残数が100万ポイント以下であること。


 また、停滞時間の長短によって世界への滞在時間が変わる。1万年以上5万年未満は100年、5万年以上20万年未満は500年、20万年以上は1000年といった具合だ。


「世界の停滞状況については審査官が該当世界へ出向き調査を行います。その報告の後に滞在時間を決定致します」

「てことはやっぱ直ぐに行ける訳じゃないんだ?」

「はい、申し訳ありませんが審査の為に少々お時間を頂くことになっております」

「ふむふむ想定内だ。ちなみにどのくらい?」

「申し訳ありませんが、個別対応となるためお答え出来かねます」


 彼女達は説明をするのみで判断は出来ない仕様になっているため、マニュアル以外の事について回答は得られない。


「……だろうね。調査中に普段の調律は可能なのかな?」

「はい、通常の世界調律行為は可能です。但し審査が終了するまでの間に過干渉が見受けられた場合は、1000年間調律行為も禁止となるのでご注意ください」

「オッケー。審査の結果はどうやって教えてくれるの?」

「ご自宅へ書面にてお届けとなります。ご自宅が無い場合は、こちらの窓口内掲示板へも掲載致しますのでご確認をお願い致します」


 掲示板への掲載は、定住しない神への配慮だろう。


 その他細々した注意事項の説明を受け、申請書を提出し手続きは完了となった。

 

「お疲れ様でした。以上でお手続きは完了となります。審査結果をお待ち下さい」

「ふぃ〜、疲れた。んじゃよろしく〜」


 椅子を引いて立ち上がり、窓口を後にした。



***


 ウルスラキスの住居は神界では珍しい木造タイプであり、所謂古き良き日本の武家屋敷そのものである。一度地球へ視察に行った際に泊まったことがあるのだが、神界へ帰るなり自身の住居をこの屋敷へと建て直したのだ。

 

「帰ったぞ〜」

「あ、ウルス様、お帰り~」


 屋敷の引戸を開けると、煎餅を食べながら一人の天使が廊下を歩いていた。


「おい、シノン、食いながら歩くな!食べカスが落ちるだろ!」


 シノンは彼が生み出した配下の一人だ。薄ピンクの浴衣をだらしなく纏い、金色に輝くセミロングの髪をサイドで結っている。


 長い睫毛は、瞬きの度にバサバサと効果音が鳴る勢いで、その内に隠す金色の瞳を乾燥から守っている。


 腐っても神が作り出した配下なのだから、容姿が整っているのは当たり前。


 煎餅片手に右足で左足をポリポリとかく姿も、地球の人間が見たら鼻血を出すほどに可愛い。


「あとウルス様じゃないだろ!何回言ったら分かるんだ、バカ!殿と呼べ!」

「はいはいバカ殿、お帰り~」

「バカは余計だ!バカ!」


 ウルスラキスの配下は皆こんな感じ。自由気ままでルーズな性格は、主であるウルスラキスに影響されているのだろう。


「はぁ~。シノン、サーシャを呼んでくれるか? 二人で書斎に来てくれ」

「えー、私今忙しいんですけど」

「煎餅食ってるだけにしか見えないんだが……」

「チッ。分かりましたよ」

「おい、今舌打ちしなかった?」


 シノンはめんどくさそうに屋敷の奥に消えてく。


「……書類見直そ」


 ウルスラキスが書斎のデスクで貰ってきた書類を見直し、お茶を飲み、昼寝を済ませて競馬の予想をしていると突然襖が開いた。


「ウルス様~、来たよ~」

「ちょっとシノンちゃん、ノックくらいしようよ」


 シノンに向かって常識的な注意をしている紺色の髪の少女がサーシャだ。紺色に花柄があしらわれた浴衣を着る彼女は、この屋敷の中では割りと真面目な方なのでポイントの管理を任されている。


 少しオドオドとする様子は、庇護欲をこれでもかと掻き立てる。地球の変態達が見たら目がハートになること間違いない。


「ノックなんて些細なことはいい」

「ん? どったのウルス様?」

「どったのじゃないよ!いくらなんでも遅くない!? うちの屋敷ってそんな広くねーよ!? なかなか来ないから昼寝まで終わったぞ!?」

「わわわっ、ウルス様、すみませんっ!」


 咄嗟に謝るサーシャ。


「ごめんごめん、サーシャとスマ◯ラしてたら時間忘れちゃってさ」


 対して全く気にしてないシノン。


「いやいや、書斎に来てって言ったんだからスマ◯ラするなよ! なに一回腰下ろしちゃってんの? スマ◯ラしようぜってなる? 普通?」

「スマ◯ラがあったらやりたくなるじゃん? 私達のせいじゃないと思いまーす」

「口答え!?」


 シノンはしれっと私とサーシャにまで責任を分散させる。


「えっと、それでご用件は何でしょうか?」

「ああ、そうだ。シノンのせいで忘れるとこだった。これを使おうかと思ってさ」


 座敷机の上に一枚の紙を広げる。


「……停滞世界救済制度?」

「なにこれ?」


 やはり二人も神界通信は読んでないらしい。ウルスラキスは制度の概要を伝えた。


「つまり神様が世界に降りて先導者を直接先導したり、干渉ができる制度ということですか?」

「流石サーシャ、理解が早い」

「なんかめんどくさそう」


 バリバリと煎餅を食べるシノン。主の書斎におやつを持参する天使など、神界広しと言えども彼女くらいだろう。


「と言うことで、申請通ったら100年くらい留守にするかもだからよろしく」

「やったー! 100年と言わず1000年でも大丈夫よ!」

「いや、説明聞いてた? うちは上限100年なの」


 喜びの舞を踊るシノンを見て、ちょっぴり心配になるウルスラキス。


「でも調査には時間かかりそうなんですよね?」

「そう、だから今からできることをしとこうと思ってるんだ」

「できること?」

「ああ、一度世界に降りて布石を打ちに行く。二人も付いてきてくれ」


 こうして人柱の神と、二人の天使は彼らの管理する世界『セーヤカッテ』へと繰り出した。





________________________

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