第10話 噂話と事故物件

 雨の週末、いかがお過ごしでしょうか?

 そろそろ前書きを止めたほうがいいくらい、連載続いちゃってますしね。

 連載じゃなくて息抜きだったはずなのに。

 そんな先行き不透明な悪役令嬢のお話を今日もよろしくお願いします。

 るいるいは今日も元気っす。( ・ิω・ิ)


 ***


「やっぱり女中部屋の近くが一番、風通しがよくて温かいですよ。それに侍女たちが動き出したら、下にいたほうがいいですよぅ。」


 帰ってきたソノラとお部屋探しです。

 どこで寝起きしようと、案外バレないのでは?と部屋を移る事にしました。

 食事も何もかも放置に近いのでバレないと思います。

 ソノラが一緒なら、監視がついていると考えそうですしね。


『この屋敷の防衛力は塵だからねぇ。

 立ち回りとしては、屋敷内の人間を囮にして逃げるって感じ?

 籠城には向かないから、どうせなら寝込んでた別館の1階がオススメかなぁ』


 何だかとっても不穏な助言がきました。

 その前提は、天魔くんの能力ですか?


『一般的な助言だよん』


 私、武器一つ振るえませんのよ?


『後二人、体力がある男がいいね。

 できれば、紳士階級以上がオススメ』


「あ〜、ソノラ、別館の1階でよろしく」

「あっちに薪は用意してありましたかね?」

「収納にあるわ」

「いや、なるべく持ち物はそのままで。それこそ非常時用ですよ」

「それって噂話が原因?」

「面白い話がけっこう聞けました。と、そうですよね。

 どうせなら、もうちょっと面白いところがありますよ。

 薪小屋の隣りに小さな小屋があるんですがね。これ、中がきれいなんですわ」

「どういう事?」


 ***


 城館の裏手、北西側の離れのさらに西。

 こちら側の壁は木々に埋もれていますが、正面よりも高い石積みになっています。

 そこに薪小屋、小屋と言いますが結構な大きさの薪の貯蔵庫がありました。

 下女達と食事をした場所から直線では近い場所ですね。

 そしてその薪小屋の側に小屋、ではなく小さな家がありました。

 煉瓦積みに屋根はスレート。

 暖炉もありますし台所付きの家です。


「事故物件かしら?」

「よくわかりましたね、お嬢様」

「冗談でいったのですが。というか事故物件という言葉が通じるのが不思議なんですけど」

「そりゃぁアタシ、お嬢様の下僕ですから(^o^)v」

「素敵ワードね。というか知識筒抜け問題発生ですわ」

「大丈夫っす。下僕第一号の特権っす」

「天魔くーん」


『君の知ってる言葉でいうと、同じ鍵を持った状態だね。

 僕っちの手配した魔人は、君と同程度のアカシックレコード異世界記憶概念に接触できるんだ。

 知識分配だね。もちろん、ソノラは僕っちの複製とかじゃないよ。

 あくまでも同程度のパラダイム多数が認める規範保持になるってだけ。

 君が覚えてるカルチャー異世界文明は、話題として出せるって感じ。

 今の僕っちと同じだね』


「なるほど、ステイタスボードが日本語なのも?」

『そうなのー』


「この建物は、もともと狩猟シーズンにやってくる客の随伴者用の建物があった場所なんです。

 で、で皆、一度更地にして小洒落た宿泊用の家をたてたんすがね。」

「まってまってまって、何か重要な話が抜けてる気がするわ。

 何で死んだの?

 それで何で建物建て替えて小さな家にしたの?」

「暖炉に火を入れて、お茶しながら話します?」

「そうしてちょうだい。まぁ事故物件でもなんでもいいけど、隠遁するには良さそうな感じね」

「オススメする理由もあるんすよぅ〜(´ε` )」


 ***


 咥え煙草のまま、ソノラは部屋の窓を開け放っていく。

 一階建ての小さな家だ。

 キッチンや水回り、素朴な家具に寝室が一つ。

 それだけである。

 公爵の薪小屋の隣りにあるのだから、本来だと外仕事の用務員?みたいな者用の住居になるのかしら?


「うしっ、空気入れ替え完了。暖炉はすぐに使えるようになってますよ。

 台所の火種は魔導コンロっす。

 メシマズなアタシでも茶ぐらいは淹れられますね」

「メシマズさんなの?」

「自慢じゃねぇけど、アタシ、本職は潜入と殺しっす。侍女になれるほどの教養も腕もないんですよね」

「嫌な告白ねぇ」

「毒物は苦手っすけど、こう見えてナイフは得意なんで。でも魔法も使えるようになったんで、オラ、ワクワクすっぞ!」

「なんでしょう、魔人がヲタク文化を吸収しつつあるの複雑。

 で、お茶請けに、ここの事を話して。それから仕入れた話もよ」

「まず、ちょっとした不安要素って奴をば。

 閣下がしきりと逃亡を視野にいれた助言をするのは、クラルシェンの軍事力の殆どがヤークブックに無いからっす。

 アタシらみたいな、下の人間を館に配置しているのも、苦渋の決断って奴です。

 娘のアネットもそのあたりを理解しているので、三流の傭兵集団を抱える事にしたようです。」

「背景がわからないから、もうすこし細かい話をして」

「はいっす。

 アタシらは、男爵の使用人の中でも、裏仕事をする最下層の人間っす。

 人別は男爵の領民ですが、同時にヘルベルトの持ち物でもあります。

 その辺はまぁ、男爵からの差し入れと考えてください。

 なんで名目上はお嬢様の持ち物になってるわけっすね。

 そうじゃなきゃぁこの城で働けないっすから。

 で、本来は表に出てこない人間なわけですが、派兵要請の為に兵力の殆は、北と王家からの要請に出払っているって訳です。

 兵の維持には食料と金が必要ですから、領民の生産性を下げる訳にはいかないって事で、アネット・クラルシェンは今、ヘルベルト領と男爵の領地の財政の見直しをし、支援物資の調達に奔走してるって感じっす」

「アネット・?」

「お嬢様はご理解してないっすが、正式な継承者以外、ヘルベルトを名乗る事は婚姻してもできないっす。

 アンソニー・ヘルベルトは、ヘルベルトの代理人が正式な呼び名なんす。

 ヘルベルトの代理人アンソニー氏が名前っす。

 個人としての階級は、確か紳士だったと思います。

 皮肉な話っすが、お嬢様のお母様が生きてらして大旦那ヘルベルト様が生きてたら、きちんと爵位もらってたんじゃぁないでしょうかねぇ。

 まぁ卑屈な奴ってのは目先の事に気を取られるんでしょうかね。

 王家がどんな約束をしたのかは知らんすがぁ、きっと公爵は無理でも爵位の約束はしてたはずでしょうし。

 なんで、実質お嬢様の父として取り仕切っているわけですが、すべてはお嬢様名義の財産って事っす。男爵は寄り子の体裁ですんで、大きく意味をとれば全部全部お嬢様の物とも言えるっす。すんげぇです。」

「あら、でもお父様としては、公爵になりかわったつもりじゃなくて?」

「今の王様ってのは、ケチで有名ですからね。

 どんな功績があっても裏切り者に、そのまんまの爵位をくれてやるような事はないんじゃないんすか?

 状況によっちゃぁ、お嬢様の方を残すって判断もある訳ですよ。

 そうすりゃぁおっかねぇルニング大公殿下に流れそうな人間を呼び込める可能性だってあります。

 いっちゃぁなんですが裏切り者をとるより、お嬢様を生かすほうが何なら得かもしれない。

 なぁ〜んて考えてそうじゃないですか、あの王様。

 閣下もそうおもうでしょう?」


『だからこそ、皆、ルイルイを生かすか殺すかで迷うのさ。

 君の父親も男爵も、現王とその取り巻きもね。

 裏切り者同士だから収拾がつかないんだよ。

 猜疑心の強い裏切り者の集まりだ。

 自分と同じ裏切り者を信じるわけが無い。

 今の王なんて兄を恐れているのは、信じているからさ。

 絶対に復讐しに来る、殺しにくるって確信している。

 一度決めた事を情や欲で変節はしないと信じているのさ。

 じゃぁ誰が自分を守ってくれるのか?

 すくなくともクラルシェン程度の武力と財力では贖え無いし、ヘルベルトを頭にした武力を募るとするならルイルイが死んだら話にならない。』


「逆説的ですのね」


「で、話は戻りますけどぉ。お嬢様の母君がヘルベルトの養子であって、夫は親族として迎え入れられていても、ヘルベルトと独立して名乗っちゃならんのです。

 だからアネット奥様ってのは、クラルシェン男爵の娘で代理人のヘルベルトの妻っていう事になるんで。

 ここでヘルベルト様って呼んでいいのは、お嬢様だけになります。

 解脱しちゃった下僕としては、もうお嬢様以外は、ヘルベルトとは呼べんのですわ。にゃはは(^_^)」


 ティーポットに茶葉を適当にぶっこむソノラ。

 そこに沸き立ったお湯をダバダバと注ぐ。

 何とも雑である。

 収納棚を漁ると干菓子が数種類出てきた。

 どうやら、古くはなさそうである。


「あら、食料も入れ替えているのかしら?」

「一応、ここには定期的に人の手をいれてるんすよぅ。まぁ半年以上は持つ焼き菓子というか保存食っすが。お茶っ葉もカビてないっす。保存の魔法もかかってますねぇ」

「そのお茶の壺に?便利ねぇ」

「金持ち貴族ですからねぇ。で、続き話しますよぅ」

「あら、ごめんなさいね。脱線しちゃったわ。続きをお願い」

「はい、お茶どうぞぅ。で、ホーデイドの騒ぎですが、封鎖は王国兵と周辺の領主兵で行われています。

 出入りは完全に封鎖されていて、中で何が起きているのかは不明です。

 デックスシュレイダー伯からは何も御触書は出ていませんし、国からも何も話は下りていません。

 反乱なのかは今の所不明。

 まぁ従士の若造の話ですからね、庶民の噂話程度でしょう。

 ただ、庶民ならではの噂話も、結構、流れるのが早いですし、高貴な方々より下々のが知ってる事もありそうですね」


『僕っちの予想は反乱かな。

 魔穴何かの変動なら、もっと東で起きるだろう。

 それ以外で大規模な混乱が城塞内で起きていると仮定するなら人災だ。

 外からか内からかは不明。

 だけど王国が兵士を放出し周辺の領主から兵士を募り、同国内の領地を包囲する理由は、これかなぁ』


「ソノラは?」


「大方はそういう話をしていましたね。

 現王派閥の内部分裂って奴じゃないかって。

 ホーデイドは王の金蔵なんて言われていますからね。

 そこを狙われたんじゃないかって話で、沿岸部からの人の移動は完全に止めていますしねぇ」


『ルイルイは何だか違う考えのようだね?』


「交易都市特有の、疫病の発生ではなくて?」


『(ΦωΦ)』

 (゚∀゚)


「もしかして魔法世界ですとパンデミックは起きないのでしょうか?

 いちおうおたふく風邪もコレラも、インフルエンザと思しきものもあると聞いたんですけれど。

 ペストに対抗するポーションとかあるのかしら。

 抗生物質はあるのかしら?

 それとも魔法?」


『あ〜ごめんごめん、そうだね。

 そういう可能性があったの、見落としてたっち。

 僕っち反省(´・ω・`)』


「いや、考えてみりゃぁ、ありっちゃぁありですね。

 言論統制してますけど、何か疫病出て封鎖なら、国の兵士も出るっす。

 がぁ、まぁちょっと不穏なのが、元ネタがデックスシュレイダー伯の領地の村で人死が出て、そのお調べで村人が引っ立てられたって奴っす。

 死人が病人だったら、村人を引っ立てるなんて事はしないで村を焼きますし。

 徴税官と揉めたってのが一番ありかなぁと」


「まぁわからないことを想像してもしょうがないけれど、どっちにしろ避難したほうが無難って話になのね。

 内乱であれ疫病であれ、私ではイチコロですもの。

 確保する男手は二名でいいかしら?」


『うん、まだ目立たない方がいいし、二人いれば最低限肉壁にできるんるん(´ε` )』


「肉壁、という事は、頑丈が一番で、領地移動がスムーズに運べる紳士階級以上、つまり貴族に片足突っ込んでる兵士か傭兵ね。アネット、誰がいいかしら?」


「肉壁という言葉を自然に受け流す、お嬢様が好きっす(゚∀゚)

 誰がいいっすかねぇ〜腕っぷしが強くて、地元に家族がいないのが良いでしょうかね〜。

 お嬢様的、希望条件はどんなのがいいっすかね?」

「ソノラの同僚になるんだから、好きなの選んで。

 熟成度が高い人格的に発酵している人天魔くん的に美味しい腐れ野郎がいいわね。

 犯罪歴は問わないし、生まれ変わる前の事はどうでもいいわ。

 ソノラの兄弟は地元なんでいないんでしょ?」

「残念っす(´・ω・`)」

「まぁ下僕の事は貴女にまかせるとして、この建物についてもお願い」

が起きたのは、ちょうど七年前ぐらいっすね。

 アタシもピチピチの頃っす。

 でもまだ地元でブイブイいわしてた頃っすね。

 んで、事件は狩猟シーズンたけなわの頃。

 夜ですな。

 ちょっとばかり頭が弾けた奴が雇い人の中におりまして。

 ストーキングしてた侍女を本館で殺っちゃいまして。

 んで、折り悪くそれを目撃した人物が一人。

 助けを求めようとしたんですが、ヤークブックの外回廊側だったんで、どうしても逃げるのが外になっちまったらしいんですよ。

 当然、変態野郎は彼女も口封じしようと追いかけ回したんですわ。

 そうとう叫んだりしたんでしょうが、狩猟シーズンでお客をもてなしてた訳で、本館の方ではパーリィナイツしてた訳っすよ。

 誰も彼も気が付かなくて、いやぁお嬢様の記憶にある映画みたいっすねぇ。

 こっちも随伴者用の建物で慰労会?

 狩りの後だったんで皆で飲み食いしてた訳っすよ。

 そこに髪振り乱した彼女が逃げ込んでですな〜」

「ホントなの?

 だって警備兵も騎士の宿舎も本館近くにあった筈でしょ?

 時代的には、ルイーズたんのお母様が亡くなった頃でしょうに..えっ?」


『(TдT)』

 (TдT)


「ルイーズたんのお母様の死因は?」


『口封じに犯人ごと誰も彼も消えちゃったんだよね』


「犯人は随伴者用の建物でパーリィパーリィヘ(゚∀゚ヘ)アヒャ

 最後は炎に包まれて、骨も出ない有り様ですわ。

 で、使えなくなったんで、すみやかに焼け残りを土台ごと撤去。

 まぁそういう感じで、ここを綺麗に更地にしまして」


「省略された部分で、まぁ想像がつきましたわ。」


「できたのが、この営繕管理用の建物っすね。外回りの庭師やなんやらの小屋は別にあります。ここは狩猟シーズンにそれでも従者同伴で来たもの好きに貸したりもします。

 不評っすよ。

 なにしろ従者の首がコロコロしてファイアーした跡地なんで、ここにお泊りするともれなく悪夢が見られるっす。」


「実際は?」


『気分の問題じゃないのぅ(´ε` )』


「ここからが本題っす。

 目撃者がこちらに逃げてきたのにも、理由があったと思うっす」

「理由?」


 そう言うとソノラは新しく煙草に火をつけました。


「副流煙が気になるので、私の前では禁煙して頂戴」

「ういっす!

 って違いますよぅ煙り、煙りを見てくださいっって」


 爽やかな風が窓から吹き抜けていきますね。

 当然、煙草の煙も外へ?


 外へ行かずに下へと渦を巻いて吸い込まれていきます。


「ここ、随伴者用の宿舎跡っす。

 昔の建物は地下がありまして、その地下室から通路が犬舎にまで続いていたんす。

 そいで犬舎ってのは」


「もしかして壁の外にあるのかしら?」


(^_^)


『だから言ったでしょ。

 防衛拠点としては塵だって(´ε` )』

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