第9話 推し活と花子さん

 主人公の身長は120cmぐらいです。

 長身のパパ上の遺伝子は、強烈なヘルベルトとアシュトンの血によって駆逐されました。

 結果、トイレの花子さんに。

 そして将来は、きっと花子さんから貞子さんになる予定です。

 美人かも知れない?

 そんなるいるいは今日も元気です。

 さて、仕事行くかぁ(T_T)


 ***


 お腹いっぱい食べた後は眠くなるのが子供ですね。

 ですが、どうもこのまま何も考えずにいると、まずい予感がします。

 そこで天魔くん的に、知っているべき事を教えてもらう事になりました。

 書架の近くの小さな段差に座ります。

 ここは入り口付近から死角になるのです。


『なるべくミニマムにお話するよ。


 まずは、るいるいの知る物語フィクションとこの世界は似てる。

 そして君の知っている常識もほぼ同じ。

 多少暴力がまかり通っているし、治安は悪いけれどね。

 林檎は地面に落ちるし、人は水を飲み食物を食べるのさ。

 そしてルイーズが知ってる事で抜けている部分。

 るいるいは、ルイーズの知識を持ってるから彼女が知らないお話ね。

 ルイーズの世界はとても狭い。

 それに彼女が与えられた物も少ない。

 だから結構、何もしらないんだ。

 まぁ公爵令嬢だしね。

 さて、この人間の国であるキーロ、小さな大陸を支配する国なのさ』


 つまりキーロは、大きくない?


『ルイーズからすると、この世の全てと思っていただろうね。

 でも世界の地図からすれば、とても小さな領土だ。

 そんな小さな土地で人間同士が殺し合ってるわけだね。

 キーロ以外にも、色々な生き物が暮らしているし、他にも人間の国はある。

 大きな大陸も、他にいくつもある。

 そうだね、ルニング大公が戦っている群島の者は、色々な人種が混じっているね。

 さてキーロは君の知る形、そうだね、ハート型をしてる。

 その半分は魔物がいる森なんだよ。

 ハートの右半分は、人間が足を踏み入れていない。

 山や谷、それ以外にも人が壁を築いて、キーロを守ってきた。』


 なのに、そのあるべき知識が否定されている?


『そうだ。

 未開発の森林や山々が大陸半分を覆っている。

 今の人々の殆どは、自然の厳しさによって人が阻まれていると考えている。

 もちろん、自然は厳しいさ。

 でも、老築化激しい長大な防護壁は、魔物の侵攻を押さえる為に、先人が築いたものだ。

 そして辺境伯の称号は、他民族の侵略を防ぐ為に与えられる訳じゃない。」


 魔物、神話の生物や悪魔、魔人、が人を襲い、喰いに来るのを防ぐために設けた地位なのね。


『ヘルベルトの男子継承を時代遅れとする貴族の殆どが、新興貴族だ。

 彼らは武張ったヘルベルトの者達を馬鹿にしているんだ。

 魔物と戦う者達を下に見ている。

 冒険者も下賤だとね。

 でもね、男尊女卑でもなければ、暴力を好んでいる訳でもない。

 必要に迫られた選択をしてきただけなのさ。

 魔物が精霊憑きの動物だなんて戯言を信じていないだけだ。

 男子継承を残しているのは、古臭い仕来りじゃない。

 巨大な魔物を叩き殺せるような者の多くが、男だったのもあるんだ。

 武器を触った事もないような、血を見て気絶するようなお姫様では無理ってことさ』


 あら、女傑もいるのではなくて?


『女性の場合、多くが魔女だった。

 魔持ちは貴重でね。戦で前に出すのを嫌ったのさ。

 だから、当主を男とするのは、合理的な判断で差別ではない。

 むしろ男は死ぬ前提の使い捨て、女を守って子孫を残すっていう考えだった。

 そんなヘルベルトは多くの氏族をつくり、辺境の防壁近くに領土を持っていた』


 現在のヘルベルトとアシュトンは、南西部海岸沿いですわ。


馬鹿先王が領地変えしてしまったんだ。

 辺境の田舎者と罵りながら、豊富な資源が見込まれる大森林を欲しがったんだ』


 素直に明け渡したのは、やはり危険な土地が嫌だったのかしら?


『海魔の被害が大きい場所が、領地替えの先だった。

 それでも良しとしたのは、無用の争いを避けただけじゃなく、彼らも海路確保を重要視したからだね。』


 何だか、わかりましたわ。

 馬鹿で欲張りは、手に入れた場所で収益を上げられなかったのじゃなくて?

 そして領地替えされたアシュトンは、そこでも収益をあげる事ができた。

 無能は何処にいっても無能だし、有能な者はどこにいっても満足を得られる。


『ヘルベルトも鉱山を手放せと言われてね。もちろん、馬鹿の仰せのままに従った。

 彼らが言う魔物がでる場所で、どうするのか見ものだったよ』


 意地悪をされたんだもの、意地悪してもいいわよね。

 でも、それが今の現状に繋がるのではなくて?


『たぶん、ね。

 僕っちが君に与えられる条件は、アシュトン坊やが死に、ヘルベルト兄弟が死んだらだ。

 君の守り手が失われた時、僕っちが継承される。

 誰が裏切ったのかなんて、調べるまでもない。

 君の父親はね、相手が死んだら約束も反故にしていいと思う輩なんだよ。』


 順番、誰が一番最初に殺されたのかしら?


『誰を最初にあげればいいのかな。

 君の母親が死んで、アシュトン坊やは自分の恩恵を君に与える事にした。

 息子たちじゃなくて、ヘルベルトの娘にね。

 アシュトン坊やは、三年前のスシュ戦役で死んでいる。

 ヘルベルト公は、その少し前だね。

 自領をクラルシェンと王弟に乗っ取られ、憤怒の内に亡くなった。

 君の名付け親のオルロ公は、スシュ戦役で負傷。今はどうなっているのかなぁ。まぁ君の状態を見れば、君の守護を担う人物は遠ざけられているか、死んでいるだろうね。』


 スシュ戦役?


『表向きは、地方領スシュで起きた農奴蜂起さ。

 実際は、スシュの地方貴族どうしの領地争いで、王位戦争の代理戦だ。

 この時、領地差配で残っていたアンソニー・ヘルベルトが暗躍していた。

 不在の領地にクラルシェンを引き入れて、氏族長達を殺害したんだ。

 氏族長っていうのは、ヘルベルトの領地を治める自治の長で氏族だ。

 その氏族長を戦役支援の要請を装い集めると殺害。

 逆らえば、君を殺す事を仄めかして、王弟派を領地に入れたんだ。

 敗因は色々あるけど、君の父親は先に殺しておくべきだった。

 欲深さを読み間違っていた、僕っちの失策さ。

 もちろん、戦に気を取られていたのもある。

 なにしろ皇女殿下直々にお出ましの戦だ。

 彼女をも殺そうとした王弟派貴族が大量に湧いてね。

 僕っちとアシュトン坊やは、まぁそれで死んだわけだ。』


 皇女殿下?


『ルニング大公の娘だよ』


 皇女も亡くなったの?


『いや、彼女を殺すと民衆が従わなくなるからね。

 彼女を殺そうとした王弟派貴族も、同じ王弟派貴族に最後は殺されたさ。

 教会騎士団も我々を殺すより先に、彼らを血祭りにしてたしね。

 こちらも我々が皇女を死なせたとされてはたまらないからね。

 戦役後半は教会騎士団王弟派に皇女を預けたのさ』


 どういう事?


『皇女は聖女なんだ。』


 それって、まるでルイーズたんと同じではなくて?


『まぁ構図としては似ているけれど、彼女の場合、殺すと民衆の支持も失うね』


 父親と同じく幽閉されているの?


『同じく幽閉と言っているのは、王弟派の貴族だけだ。

 もしも本気で彼女が呼びかければ、王弟、今の王は、明日には死ぬね』


 よく、わからないわ。


『彼女は聖女だ。

 父親を呼び戻せば、血の雨がふる。

 民衆に呼びかければ、血の雨がふる。

 王弟、叔父を説得しようとしているのさ。』


 私は思わず、鼻で笑ってしまいました。


『スシュ戦役でも、民衆に対しての抑止力としてお出ましいただいていたのさ』


 思わず呆れて笑ってしまいました。

 それって、アシュトンのお祖父様が死んだのは、その聖女の所為ではなくて?

 無駄な説得に時間をかけすぎて、後ろをとられて死んだのでしょう。

 無知で無駄な教義を振りかざす教会の聖女なのでしょう?

 ある意味裏切り者じゃないの。

 苦労知らずのお姫様が聖女ですって。

 聖女なら、ヘルベルトやアシュトンの誰かを生き返らせる事ができないのかしら?

 できないのなら、ポーション程度の女でしょう。

 ならば、その女こそ、先に殺しておくべきでしょう。

 例えば、その王弟か教会の誰かに手を汚させれば、今の盤面は一発でひっくり返る話でしょうに。


『(*´ω`*)』


 ねぇ、私の発言に否定の答えを寄越してもいいのよ。

 こんな考えは当時もあったはずよ。

 でも、彼女を殺さなかったのは、ルニング大公が怖かったからじゃないんでしょう?


『君の世界にもいたでしょ。

 彼女はアイドルなのさ』


 はぁ?(´・ω・`)


『先王も叔父である現王も、そして教会の教皇もだ。

 彼女のファンなのさ。

 ルニング大公が今も戦を続け、弟を殺すのを後回しにしているのは、ひとえに、彼女が生きているからなのさ。』


 まさか、確信犯ですの?


『そして、僕っちも中々手を出せないのさぁ』


 もしかして、皇女って何か憑いていますの?


『天魔ではないけれどね。中々、大きめの精霊だ。それもだいぶ根性のひん曲がったタイプのね』


 ヘルベルトとアシュトンにもファンがいますの?


『いるね』


 だから、お祖父様達は同じ勢力に引き入れようとした?


『ルニング大公も、娘を利用しているんだ。

 王弟派閥にいるゼルジア伯は難物だ。

 彼の暗躍を押さえる為に、皇女を防波堤にしているんだ。』


 また、新しい名前がでました。

 ゼルジア伯爵。


『教会騎士団の団長だね。

 ゼルジア伯は王弟派で魔道士だ。

 剣の腕も中々で、苦み走ったイケメンだね。

 表向きは騎士で通しているけれど、魔法のほうが得意なんだ。

 教会の裏仕事もこの男が仕切っている。

 王弟派としては一番の戦力だね、けど。』


 けど?


『この男はねー王弟派閥の前に、聖女の騎士と公言しているんだよぉ。

 そいで聖女は皇女でルニング大公の娘なのにさぁ、その点に関してだけ健忘症になるみたいだよー。キモっ』


 もしかして、ゼルジア伯って皇女の推し活をしているのですか?


『ヽ(^o^)丿』


 馬鹿なんですか、その男。

 敵対派閥の小娘の追っかけとか、すごく怖いんですけど。

 もしかして婿になりたいとか?


『皇女ってね、ある意味、お騒がせアイドルなんだよ。

 だから、殺すに殺せないし、利用するにも中々使い所がねぇ』


 余程の美女なんでしょうね。

 そして聖女と呼ばれるのですから、ヒーラーとしても能力がある。

 たぶん、憑き物で魅了とかのスキルがありそうですね。


『るいるいは平気だよん』


 ん?

 もしかして精神系のスキル抵抗ですか。

 私というかルイーズたんもSAN値は高めですものね。


『魔力量キーロ一番って話のセルジア伯もイチコロだった。

 聖女はだてじゃないって事だねぇ』


 え〜それじゃぁ男相手なら無敵じゃないですか?


『そこが根性曲がりの精霊のギフトなのさ。

 魅了されるのは、ある特定の条件があるようだよ。

 それに洗脳ほどの効果はない。

 だから、彼女も戦争を止めるのが精一杯だ。』


 戦争止められるなら十分ですわ。

 それで、どんな条件ですの?


『予想だよ。

 まず、彼女の魅了にかからなかった人物は、既婚者だ。

 女性もだね。

 あと、彼女より年下もかからない。』


 うわぁ〜何だか、本当に計算が働いてる感じですのね。


『ターゲッティングがばっちりある感じだよね。

 ヘルベルトとアシュトン坊や達はかからなかった。

 既婚者だからね。

 あと、息子達もだ。

 彼らは婚約者と仲が良かった。

 どうやら特定のパートナーがいる相手には、普通の好感度上昇効果ぐらいだったね。』


 じゃぁ爆上がり条件は?

 ちょっと聞きたくない感じですの。


『まず、前提として魔力量が高いと、普通は抵抗値もあがるから魅了は受けないはずなんだ。

 けれど魅了された男達を見ると、魔力量の多さ少なさは条件になっていない。

 で、おおよその傾向をあげるとだ。


 自尊心が高くて自惚れ屋。

 頭は良いが思考が硬い。

 特定のパートナーがいない。

 結婚していても相手に不誠実。

 聖女より年上。

 そして女性全般を馬鹿にしている男、なのさ』


 天魔くん。


『なんだい?』


 聖女ちゃんに会いたいですわ。

 お友達になれそうな予感がします。


『まぁ出会ったら友達になるのが一番問題ないかもね。敵にまわすと厄介だ。』


 ストーカーいっぱいいそうですものね。

 アイドルというより、人気ナンバーワンキャバ嬢って感じ。

 女の子の友達少なそう。


『断っておくけど、皇女本人よりも、憑いている奴が曲がってるんだからね』


 素質がなければ、そんな邪悪な精霊は寄ってこないでしょう。


ははは(´ε` )ぶーめらぁん


 ちなみに聖女ちゃんのママ上は?


『元王弟派閥の侯爵令嬢さ。すでにお亡くなりだよ』


 謀略で?


『いや、病弱でね。

 大公に見初められての恋愛結婚さ。』


 まぁまぁ。


『再婚をすすめられたけど、彼の元へ向かった女性は行方不明だね』


 冗談ではなくて?


『そりゃぁ刺客を送られたら殺すでしょ』


 まぁリアル青ひげ。

 串刺し公と青髭、どちらが良いかしら?


『るいるい的には、ルニング大公がアイドルかな?』


 小太りで少し頭皮が薄めの、おっとりした方が良いですわ。

 女性を大切にして、子供にも優しい方が好みでしょうか?


『う〜ん』


 悩むほど、そのような方がいない世界ですのね。

 わかりました。

 婚活は諦めて、スローライフを目指して頑張りますわ。


『スローライフ?

 この世界のスローライフは原始生活になるけど』


 訂正しますわ。

 お優雅でのんびりとした隠居生活を目指しますわ。


 で、他に知っておくべきことってあるかしら。


『キーロの王都は、ヤーブックから東だ。

 馬で2日だね。

 交通手段は馬で、君が考えるような空路は無い。

 今のところ、僕っちが感じる限り、魔物の気配は無いが、助言としては僕っちをつかって仲間を増やし、アシュトン騎士団、元のヘルベルト領兵が集う沿岸部へと移動する事をすすめるよ。

 アネットやアンソニーをどうこうしたいところだけれど、状況次第では命大事に動いた方がいいね』


 天魔くん。

 王都から防壁まではどのくらい?


『馬で10日ぐらいだね』


 ホーデイドは?


『馬で1日』


 アシュトン騎士団の拠点は?


『馬で7日ぐらいかなぁ』


 何か気配があるのね?


『魔物の気配はないよ』


 魔物以外の何かを感じている?


『ホーデイドで何かあったかによってかなぁ、ソノラから聞いてからだね。さぁちょっと地図を覚えておこうか。』


 少し体が冷えた頃、ソノラが戻ってきた。

 気になる本を収納すると、休める部屋を探すことにしました。

 物置部屋?

 冗談ではありません。

 部屋数が四百以上ある城で、何が悲しくて物置部屋に引きこもらねばならないのですか。

 暖かな季節を迎える頃ですのに、やけにひんやりとした空気です。

 気のせいかもしれませんが、東の空が暗い気がしました。










『まぁはぁ魔力量が今までの子どもたちの中でもずば抜けているからね。魔素の変化が見えてるんだ。

 ちなみに天魔や精霊もね、人間が滅ぶと困るんだ。

 の侵攻は困るんだよ。

 はぁ何であの男アンソニーは裏切ったのか。

 何もしなくたってさぁ、ヘルベルトの身内として生涯を終えられたのにさぁ。

 例え、ルイーズの子供が公爵を継いだとしても、遜色ない生活はずっとずっと続いただろうに。

 まして、こんなに才能のある娘でさ。

 ちゃんと愛情を注げば、それに答える娘だったのに。

 なんでその娘を敵とするのかな。

 劣等感?

 無能だから?

 アネットの為?

 そんな感じじゃないんだけどなぁ。

 まぁどうでもいいか。

 ルイーズは消えちゃったし。

 るいるいは興味ないしね。

 でも僕っち的には、やっぱり食べてみたいなぁ。(´ε` )』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る