第5話 ルイーズたんの生かされる理由

 何か、どんどん悪役令嬢じゃなくなっていくのですが、多分、イケメンがいないせいですね。

 きっとイケメンをどこかで発生させればいいのですよ。

 と、今日もてきとうなお話にお付き合いいただきまして、ありがとうございます。(*´ω`*)


 ***



 テンプレ道理のヒステリックな女だったら、生かしておくところである。

 だがアネットの場合、実利優先で物事を判断していそうだ。

 記憶の中でも、敵対行動をされた覚えがない。

 物置小屋と食事以外は、そもそもパパ上と疎遠だったのが原因だ。

 乳母と侍女を辞めさせたのも、パパ上だったのを思い出した。

 アネットが好き放題に男爵の人員を入れられたのも、結局はパパ上が許可しているからだ。

 だからアネットとしては、言い訳完了、罪悪感ゼロなのだ。

 可愛そうだけど、仕方ないわよね、私は悪くないわ、である。

 だから呪い殺そうという継子を見ても平気なのだろう。

 あと、何で物置にいれるんだよ。

 腹立つなぁ、逆らってねぇだろ。

 で、そういう奴は確実に処理しなければいけません。

 普通は逆?

 嫌ですわ、懐柔するにしても信頼関係は結べません事よ。

 罪悪感の無いタイプは、確実に処理しておかないと。

 えっ?同じサイコパスだから気持ちがわかるんでしょうって?

 失敬な、私は別に実利がなくても邪魔者は処しますけど何か?

 まぁ管理下におけるなら、実務に良さそうな人材ですね。


「で、ルイーズたんは、いつも何をしていたのかしら?」


 帰り道、どこかでちょろまかしてきたお菓子をソノラと二人で齧りながらブラブラする。

 おたふく風邪が呪いばりに広まった所為で、使用人が激減しているから、誰とも合わない。

 それにどうせ物置部屋に帰ってもねー。

 監視もいないようだし、自由だー。


「さぁ、アタシもしりませんが、お勉強とかじゃないですかね。

 身の回りを整えてってのは、まぁ特に何を指している訳じゃないでしょう。

 余計な事をするなって話じゃないですかね。

 そういやぁ奥様の子供達へと頻繁に会いに行っていたみたいですね。

 乳母の女が困っていましたから。

 お子様方は、お嬢さんを嫌っていましたし。

 怪我でもさせたらと、どうなるかとハラハラしていたみたいですよ」

「ルイーズが殴るとか?」

「いえ、その逆です」

「珍しいわね」

「お嬢さんの外見は傷ひとつあっちゃぁならんて、旦那様が厳命してましてね」

「その割に、貴女、叩いてきてたわね。」

「はぁすみません、お嬢様。

 アタシ、貴族の餓鬼が嫌いなんですよ。苦労知らずで美味いもの食ってそうで」

「堅パンと塩スープだったわよ。それか貴女も呪われてみる?」

「いやぁ勘弁してください。結構、それきつい呪いでしょうし。

 人間辞めても、痛いもんは痛いですしね」

「見えるの?」

「魔人になってますからねぇ」

「そういえば、家族はいるのかしら?」

「いますよ、クラルシェンに元家族がね。」

「一応、希望は聞くわよ」


 それに元ソノラが、ガハハと笑った。


「いちおう、お嬢様に言っときますけど。

 アタシ、もうまったく人間じゃぁありませんし、元の人間の情報はありますけど、まったくもって別の生き物ですよ」

「失礼したわ。じゃぁ聞き方を変えるわ。

 仲間がほしい?」


 それにソノラは首を傾け、考え込んだ。


「兄弟がいますんで、そいつらをお願いしたいですね。

 人間のままじゃぁどうせ、碌な死に方しなさそうだし。

 アタシと同じで魔無しなんで、ちょっくら人間辞めさせたほうが楽しそうですから」


 できるかしら?


『まぁこのソノラと同程度なら、できると思うけど。見てからだね』


「ご配慮ありがとうございます、閣下」

「それ、もしかして天魔くんの事?」


『名前を呼び合うと契約になっちゃうから、るいるいは知らなくていーのー』


 ラジャー・ω・


 それにしても外見に傷をつけるな、か。

 十五歳まで生かさなくちゃならない理由と同じでしょうか?


「生かされているのって、宗教上の理由かしら」

「庶民にはわからないですねぇ」


『たぶん、違うと思うよ。相続人が死んだ場合、特に大貴族の継嗣の死は非常にデリケートな問題になる。』


 ほぉ〜ん、わかった、国王でも揉み消せない事件になっちゃう。

 でも、それなら何故、成人一年前なんだろう?


「この国で十五歳って、何かあるのかしら?」

「一般的な話でいいんすかね」

「えぇ」

「そうですねぇ、十五だともう働いてますね。結婚してるのもいるんじゃないですか?」

「えっ、成人は十六でしょ?」

「それは男の場合ですよ、お嬢様。

 女の場合は十五から結婚できますから」


 それだ。


 しょっぱい想像ができた。

 偽装結婚と養子縁組だ。

 結婚証明を作りしだい殺害の上、子供に財産の移譲。

 その子供は実際の私の子供ではない。

 夫だって架空でいいのだ。

 養子にする子供は、アネットの子供あたりだろう。

 ともかく、書類が作れる年齢までは、私は元気で怪我も無く生きている事が重要だ。

 その頃には、ルニング大公をオロレケアに封殺できる算段もしていそうだ。

 盗人どもの皮算用。

 これが本当なら杜撰だ。

 だが、今の王様は、そのようなインチキをしても人々がついてくると思う愚物なのかもしれない。

 なぜ、貴族の継嗣を殺すと問題なのか。

 当たり前だ、これがまかり通ると支配の体制そのものが崩れる。

 戦国時代が来ちゃうわけだ。

 それに何故、その者でなければならないのか。

 広大な支配地域を持つ大貴族になればなるほど古参の臣下が納得しないからだ。

 理由もある。

 支配とは、恐怖や暴力では続かない。

 中世ファンタジー世界なら、独裁オッケー?

 そうでもない。

 やはり決まり事ってのは必要である。

 法律によって、束縛し広く末端まで作用させねば支配とはならないのよね。

 嘘でも正しさが必要って事。

 強権支配の指導者の演説を聞けばわかるでしょう?

 自分たちは正しいって立ち位置から、お話を始めるわけ。

 これね、銭でいっぱいの頭の私でも想像できる話だ。

 一滴も正当な血が入っていない輩に、臣下がどういう反応するか。

 よほどの実力とカリスマが無いと無理。

 聖剣でも抜いてみせないとね。

 聖剣あるの?


『あるね』


 すげぇ、じゃなくて、クラルシェン男爵とパパ上がどのように抗弁したとしても、事態は悪化すると思う。

 ならば我らも力にて現状を変えてみせようぞ!って。

 まぁ案外、現国王はそれを狙っているかも。

 パパ上たちが謀反で死んでもいいやって。

 国庫に吸収して、公爵と伯爵の空いた席を褒美にしてもいいし。

 支配とは中々に楽しいゲームだよね。

 まぁ私の命を狙ってこなければの話だけど。


 それにしても、ルイーズたんは何を考えていたんだろう?

 自分自身のはずであるが、感情や考えが不明である。

 私も何か魔物と融合したとか?

 あれ、そうすると私が魔物って事に。


『病気がきっかけで、発現しただけだよ』


 だよね〜。

 覚醒後は記憶はあれど、それまで感じていた気持ちなんかは行方不明である。

 健忘の後に、元々のスキルが早期に発現して、私の人格もインストールされたって方が理解できる。

 今の喧嘩上等、復讐するは我にありマインドではない事は確かだ。

 酷い噂もなんのその、のほほんと孤独に生きていたわけで。

 いや、ある意味大物。

 そしてある意味、可哀想なのです。

 子供なんですもの。

 やっぱり、井戸を探さなくちゃ。

 と、こんな私が本物のルイーズたんだったら、完全なシリアルキラー予備軍ともいう。

 予備軍どころかモノホン?

 何でしょう、心の中のオーディエンスが辛辣ですわ。


「じゃぁいつも通りの行動でもしようかしら。

 パパ上を食い荒らすかどうか、会ってみないとわからないし」


 本日は、ソノラを食べさせたので、残り二回。

 なるべく一日二回までにしたい。

 何しろ、ある意味、敵陣の真っ只中だ。

 それに力を知られると、呪いじゃなくて即始末されそうでもある。

 無害で魔無しのかたつむり、だから生かされているのでしょうし。


『いちおう言っておくけどさ。

 僕っちのランニングコストって低燃費だけど。

 喰う相手の魂によっては、高くなるのさ。

 だから、三回って言ってるけど、食べにくい相手の場合は、一回の場合もある。

 そこの下女ぐらいだったら、あと、五回は食べられるんだ。

 でも食べるとね、色々、悪いモノも溜まっていく。

 るいるいが、わかる言葉でいうと、カルマの値だね。

 一日で消化できる業の値が、ふつうの人間で言う三人までなんだ。

 わかる?』


 まぁわかる。

 けど、天魔くんがどうして私にサービスしてくれてるのかは不明じゃない?

 そっちの方が気になるー。


『まーねー』


 教えてほしいなぁ。

 お祖父ちゃんに頼まれただけじゃぁ割にあわないでしょう。


『..るいるいでも、わかりやすい言葉でいうと先行投資だよ』


 なるほど。

 悪魔の先行投資とは、よほど私の邪悪さが気に入ったと?


『まぁそんなところー』


 そういえば、私、ルイーズ・ヘルベルトには、アンソニー・ヘルベルトの因子が外見上ゼロなのよね。

 ちなみに、アンソニーとはパパ上の事である。

 パパ上は、貴族出身ではないのにも関わらず、実にノーブルな容姿だったりする。

 皆が想像するイケオジ王子だ。

 私的には、一番嫌いな顔してる。

 やっぱり男はキレイなんぞという表現が似合う顔立ちは許せねぇぜ。


『どうしてそこで荒ぶるのさ』


 頭髪が薄くても、腹が出てても、顔がちょっと個性的でも、人間だものいいじゃない。


『いいけどさ』


 それはさておき、私の現在の容姿は、栄養状態などは別にして、所謂、市松人形である。

 えっ?

 ファンタジー似非ヨーロッパ西洋世界の悪役令嬢推定なのに?

 これもある意味テンプレですが、どうみても呪われた市松人形髪の毛伸びるバージョンですね。

 切れ長と言うよりは糸目の女の子です。

 それも黒髪直毛スタイルです。

 はっきりいって古臭いドレス姿と言い、呪われた市松人形そのものですね。

 着物じゃないですが、ドレスの生地が前にも言いましたが、どうみても古びたピアノカバーなんですもの。

 供養する為にお寺に預けられたお人形って感じですわ。

 

 前世は中年男性だったかもしれない私的には、可愛い方なのでいいですけれど。


『えっ?るいるい前世は女の子だったんでしょ?

 ほら、友達の話』


 付属の男女共学でしたので、友達は女の子のような気がしますが、私自身のパーソナルイメージは無しです。

 何でしょう、芥虫のような弟の容姿は思い出せたのに。

 私自身の顔も名前も浮かびません。

 ですので、やはり中年男性で事業主、経営者の可能性も微レ存ですの。


『子供の話は』


 男だと産めないでしょう?

 まぁ冗談ですけど。


『やだ、るいるいって誰に似たんだろう。アシュトン坊やは冗談言わないタイプだったのに』


 えっ、お祖父様、真顔で禍々しい事を言うタイプでしたの?

 それってある意味お笑い体質では?


『そうか、天然だったのかもね』


 話は戻りますが、私の容姿は誰に似たのでしょう?

 記憶の限り、私に似た人はいません。

 母親に似たのでしょうか?


『君の母親は、ごく一般的な容姿だったね。

 目も髪も茶色で、特徴の無い女性だ。

 あえて言うなら、ヘルベルトの先々代の奥方に似ているね。

 彼女は黒髪の女性だった』


 顔立ちはどうでしょう?

 まったくパパ上の因子が見当たりません。

 というか、むしろ日本人ではないでしょうか?

 これが原因で夫婦間の溝が深まったとか冗談みたいな理由だったら嫌ですわ。


『君の前世の記憶でいう人種的な系統でいえば、問題は無いんだ。

 この国は人種二系統が先祖に混ざっているので、子孫の中に時々先祖返りした容姿の子供が生まれるのは常識としてある。

 だから、君を鬼子として排斥しようとする事は難しいんだ。

 むしろ、その容姿こそがヘルベルト直流だって証明になる』


 ヘルベルトの始祖が、私の記憶で言う東洋人って事かしら?


『そうだよ。

 ほりの浅い顔だちに、小柄な容姿。

 女性としては可愛らしいと受け入れられるのさ。

 君の記憶の市松人形?かわいいじゃない』


 認めたくはありませんが、ルイーズたんは、どちらかというと不気味少女である。

 この感覚は間違っていないと思う。

 美的感覚は、この似非ヨーロッパでも大差なく、顔面の凹凸は深く、くっきりすっきりとしたデザインがよろしい感じのはずだ。


「まぁまぁお嬢様、健康第一に育てばいいんですよ。

 病み上がりなんですからね。

 お子様方のところへ行くんなら、途中で食べ物を漁りましょうや。

 菓子だって湿気たらもったいないですからね。

 多分、ゲスト用の控室の側に、お茶用の干菓子がストックされてますよ。」

「良く知っているわね」

「あぁ今、皆、寝込んでますからね。城の中を散策し放題ですよ。

 出るのも入るのも厳しい制限がされている分、中に入っちまったらこっちのもんですわ」

「ソノラ、貴女、クラルシェンの者よね。まさか、野盗の手先だったとかは無しよね」

「記憶の限り指は曲がってましたが、子飼ですよ」

「後で城の人員もよくよく調べないといけないわね」

「一応、ヤークブック城の使用人は男爵の手勢ですよ」

「でも、外部の人間を増やしているようじゃない?」

「それなんですよね、先程の奥様の話。アタシも初耳ですね」

「そうなの?」

「兵士の補充が必要なのか、それ以上に残っていた兵士を引き上げるか。騎士の旦那方の人数を減らすのかって話ですよね」

「どちらにしろ、何か状況が動いているって事でしょうね」

「まぁ調べてみますわ」

「貴女への対価は何になるのかしら?」


 それにソノラは首を傾げた。


「おやつを探しながらでいいわよ」

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