第4話 ママ上とサイコパス

 ストック無しのテキトウなお話ですが、お付き合いありがとうございます。

 今日もルイルイは元気です(*´ω`*)


  ***


「ソノラ、今日はお父様はいらっしゃるの?」

「いえ、お嬢様。

 旦那様は、月に一二度戻るだけですよ。

 殆どをお城の方でお過ごしです。

 奥様も、もうすぐ夏ですので、領地にお戻りになる予定でした。」

「あぁ、皆、おたふく風邪になっちゃったものね」

「えぇそりゃもう、顔が皆膨れちまって熱もでていますからね。日頃スカした侍従頭の旦那も、寝込んでましたし」

「普通は子供の頃に皆、罹るんじゃないの?」

「貧乏育ちのアタシみたいなのはそうですけどね。お貴族様になると中々」

「じゃぁソノラも忙しかったでしょう」

「私の場合は、元々中の仕事はしてませんからね。

 奥様に拾われた恩がありますんで、手をかしますがね」

「あら、やっぱり色々?」

「えぇお嬢様、どうみたって私が貴族の館で働ける訳ないでしょう」

「クラルシェン男爵が?」

「欲が深いですからねぇ。それに王兄殿下の派閥が盛り返していますからね。こっちに人員を出したくてもねぇ」


 素直になったソノラは、私の手を引いて長い回廊を歩いている。

 途中で調達したお菓子を食べながらという、なんとも行儀の悪い道行だ。

 私が空腹で歩けなかったからだ。


『人目がなければね、るいるいを担いでもらうところだけどね。

 でも、よく、僕っちの使い方がわかったね』


 天魔くんは、悪魔である。


 けれど、祖父は長い間、守護か使役かわからないが無事に契約を続けていた。

 それも孫の私にスキルとして渡す事さえできたのである。

 普通の悪魔ではない。

 つまり、超ラッキー。

 対価を払い、約束を守れば答えてくれる。

 よくわからない自称神や、ストーカーみたいな精霊ではない。

 それも本来の悪魔と違って、だいぶ、手加減までしてくれる。

 純正悪魔なら、問答無用で罠にかけて美味しく魂を料理されていただろう。


「アシュトン伯爵の財産であった天魔くんを、私が相続した。

 お祖父ちゃんは天魔くんにお給料を払っていた。

 継続的にリスク無く支払えるものでね。

 きっと、過激じゃない手段だと思ったの。

 例え元本が、自分の魂だとしてもね。

 最後に死んだら、自分の魂を食わせるとでもしてたのかしら?」


『ないしょ』


「人を餌に使役する。

 これはお嬢様のルイーズたんでは、できない考えよね。

 私、よくサイコパスとか言われてたし、まぁ一応自覚はあるのよ」


『わるくないよ、僕っちは好きだよ』


「ありがと。」


 方法は、なんとなくわかりそうよ。

 守護ギフトの鑑定が重要そうね。


『どうかな?』


「まぁ言葉にしちゃうと契約になるしね。」


『一応、世間話だよ。

 約束事は三つと決まっている。

 命を助ける三回だけが、無料サービスだよ。

 そして僕っちの食事も一日三回までだ。

 君はアシュトン坊やの孫だしね。

 これは僕っちからの贈り物ギフトさ。

 今日は一食たべたね。

 だから、君は回数を覚えておくこと。

 何事もやりすぎちゃぁ駄目だよ。

 必ず余裕をもって行動すること』


 お祖父ちゃんと天魔くんは仲良しだった?


『まぁね』


 ここまでの私の行動は全て、天魔くんを肯定しているのはご存知?


『ん?』


 ステータスに表示された情報の裏取りをしていないのに、全肯定しているって事ですわ。

 呪いの三点セットは、本当に呪具なのか?

 その送り主は、本当に継母のアネットなのか?

 基本的な情報の裏取りをしていないのにね。


『ふむふむ』


 さっき黒歴史を披露をしたのに、ファンタジーテンプレを無条件で肯定して、行動してる。


『確かに、るいるいは、僕っちを信じて動いてるね』


 理由はあるのよ。

 味方(仮)の天魔くん。


 実はね、ルイーズたん。

 呪具に非常に詳しいのよね。

 理解したうえで三点セットつけてた。

 これだけでも、十分よね。

 だから、天魔くんのステータス情報とか、他の言動も素直に受け取れたの。

 アネットから贈られた記憶もあるしねぇ。

 記憶そのものもフェイクかって疑ったけど、ルイーズたんの扱いを見るに、嘘でも無さそうだしぃ。

 でもさ、謎じゃない?

 ルイーズたん、何で呪具の知識が豊富なのかしら?


 ***


 ヘルベルト公爵の城の一つ、ここはヤークブック城だ。

 堀の無い平城で、森林の中にある。

 王都に比較的近く、魔獣も盗賊も出ない。

 立地からこのヤークブックには、少数の兵士と使用人がいるが、本格的な戦城では無いので、まぁ城といっても館に近い。

 使用人の殆どがアネットの父親、クラルシェン男爵の領地から来た人間だ。

 そして騎士もである。

 ただし、騎士は十人程度で、その配下は殆どが新規の雇われらしい。

 どうも、男爵は現国王派から色々と無理を言われているらしく、自領兵力も王兄派対策へと回しているようだ。


「王位戦争があったの?」

「表向きはありませんでしたが、現在はオロレケア島にルニング大公は幽閉中ですね」

「それが王様のお兄さんね」

「そうですね。」

「で、どっちが庶民には恐ろしい人物なの?

 私的には、恐ろしくて執念深くて、とんでもない方に味方したいわ」


 できれば串刺し公ぐらいのインパクト求む!


「お嬢様っておもしろいですよね」

「まぁ半分以上魔物になっちゃった貴女より面白くないわよ」

「いやぁ人間解脱しちゃうと人生楽しいですねぇ」

「天魔くん、何かイキイキしてるけど?」


『低級魔と融合してるから、魔人になって現世顕現でウキウキしてるのかもね』


「魔法も使えそうね」

「あぁ私、魔無しだったんで、後で試してみますね。わぁい」

「魔無しねぇ。やっぱり差別酷いのかしら?」

「ショボい魔法でも使えたら仕事の幅が広がりますし、食うに困らないってのもありますよ。

 差別ってのも、お貴族様じゃない庶民じゃぁ、使えない奴の方がおおいですしねぇ。

 アタシ、火とか攻撃系の魔法、憧れてたんですよねぇ。ヒヒヒ」

「人として終わった後の方が人生楽しそうね。私も死んだら魔物になろうかしら」


『別に、るいるいは今のままでも楽しそうだよ』


 まぁ最終手段はとっておきたいしね。


「で、男爵の娘のママ上って、どういう人?」


 それにソノラは、ニヤッと笑った。

 煙草をペイっと捨てると靴裏ですり潰す。


「合理的な女ですね。私ら貧乏人の使い方も知ってる。

 それに同じ様に、貧乏を憎んでますからね。

 普通の貴族の娘じゃぁできない考えとやり方をしますね」

「あら、とても良い方のようね。

 まぁ私を殺そうとするのはいただけないけれど」


 それにソノラは、まじまじと私を見る。

 喰われた後に、虹彩が赤く変化し、縦割れになっている。

 とても奇妙で、今までより素敵よ。

 ソノラの部分てどのくらい残ってるのかしら?


「お嬢様って、ふつうに喋れたんですねぇ」

「あら、鞭を打たれたいのかしら?」

「別に今なら鞭打たれても平気ですけど、噂とはずいぶんと違ってなさるんで」

「参考までに聞いておこうかしら、それと後で、私用の鞭を調達してちょうだい」

「お嬢様なんですから、扇子とかでいいんじゃないんですかね」

「じゃぁロマン溢れる鉄扇かしら?」

「はぁ、鉄扇?」

「一応、子供は助命してもよろしくてよ」

「ヤーブックは家族持ちはいないんで。

 ここは殆ど出稼ぎ単身の者ばかりです。

 最近は男爵領の者より、余所者が増えてますし」

「まぁ素敵!」


 まぁ元から無い良心ですが、気兼ねなく嫌がらせができますわ。

 城内の井戸はいくつあるのかしら?(犯罪です)


「ちなみに、今のアタシはお嬢様のお心の声が聞こえますんで。

 毒を投げ込む時は、先に教えてください。

 腹を壊したくないんで」

「あら、毒じゃ死なないの?」

「もう、死んでるようなもんなんで。酒も煙草も気兼ねなくやれますねぇ。

 で、肝心の噂ですけど。

 頭がおかしくて、まともなじゃない。

 会話もままならない、気狂いだとか。」

「それにしてもルイーズたんの噂って誰がまいていたのかしら。

 どうせ、クラルシェンの使用人たちだから、どうでもいいか。」


 遅いか早いかですもの。

 云うことをきかない羊は、毛刈りして肉に潰しかないものよ。


「で、どっちが王様になったら、貴方達は怖いかしら?

 特に盗人のクラルシェンの人間、領民も含めて生地獄になりそうな方よ」

「そりゃもちろん、賄賂も効かない、戦争好きのルニング大公ですよ。

 血塗れ大公ですからね。」

「何故、王位を逃したのかしら。不思議ね」

「大公が戦争で留守中の話です。まぁ多くの王弟派が態と大公を戰場に追い出しておいての、まぁそういう事です」

「前の王様は?」

「生きてますよ。引退して、下の息子に王位を渡した。

 兄の方は北西のルニング大公として広大な土地を。

 領土的には国土の3分の2以上の広さですし。」

「それ大公閣下には冗談にもならないわよね」

「多分、その話題を出そうとした瞬間、どんな高位貴族でも首が飛びますね。もちろん、前国王の首だったら、滅多打ちで肉の塊になるんじゃないでしょうかね。」

「よく幽閉されたわね」

「幽閉ってのは、こっちの言い分ですよ。

 オロレケア島は、ルニング西の海岸近くの孤島です。前線基地なんですよ」

「ルニングね、どうせ荒れ地でしょ」

「まぁそうですね。それも海賊と蛮族の巣窟です。動くに動けませんし、さらに海を渡った群島と戦闘継続中ですね。

 つまり幽閉ってほざいてるのは現王派閥だけで、実際は未だに群島国家との領土領有戦争状態って事です。」

「わぁ怒り心頭でしょう。後ろから刺されたって話ですもの。いずれ、戻ってきて皆殺しじゃないの?」

「まぁそうならんように、お嬢様のお祖父様である伯爵様も殺されましたしね」

「なかなか楽しい時代のようね。まぁ利益で動くクラルシェンの先行きも暗そうじゃないの」


 それにソノラが意外そうな表情を浮かべた。


「裏切り者で利益に敏い。賢いと思っているようだけれど、上級貴族は男爵程度を使い潰すのが落ちよ。

 だから、いいように人と金を引き出されている。

 現状、それが分かっているから、私を殺すのかもね。

 まぁやり方は間違ってないけれど、もう少し考えて、私を懐柔して金を引き出したほうが無難でしょうに」

「なるほど。

 でも、そりゃぁ違いますよ。

 私みたいなのでもわかりますわ」

「どういう事?」

「アシュトンとヘルベルトの血が残っていたら、存分に血塗れ大公はいらない人間を始末するかもしれない。だから、ぎりぎりまで生かさず殺さず、大勢がきまったら」


 喉を掻き切る仕草。

 確かに。

 まったくもって、不本意である。

 転生してご令嬢生活ウハウハだったらよかったのに。


『うはうは、投資生活だね』


 わかってるねぇ天魔くん。

 ファンタジー中世世界での、資産運用。

 まずは領地の調査かしら、作物、人、資源調査ね。

 そして領地以外の勢力図と敵対する全ての情報を集めて、財力と武力を揃えたい。

 私、守銭奴だけど頭が良くないから、頭の良い人材と裏切らない人材も欲しい。


「お祖父様、ありがとう」

「何ですか、お嬢様」

「私の守護スキル、ちょっと人間から解脱しちゃうけど、人材の確保には超有能」


『いちおう天敵もいるから、気をつけて。

 僕っちの力が及ばない人間もいるから』


 あら、神的な何か?


『神じゃなくて、同じ天魔さ』


 あら、ここでもテンプレね。

 確かに、私に守護天魔がいるのなら、誰か他にも天魔憑きがいてもおかしくない。

 気をつけよう。


 ***


 アネットが暮らす本館は、城の東側である。

 病み上がりの少女には、いささか遠かった。

 息をきらしてたどり着いた扉の先、お茶会の席かと思った?

 残念でした。

 テンプレで継子をいびるような女を想像したかしら。

 そのような脇の甘い女だったら、楽なのにねぇ。

 取り次がれた後、私は壁際の椅子に座っている。

 ソノラは案内後に、扉の外で待機だ。

 ふむ、中々に立派な蔵書棚があるではないか。

 どれ程の価値があるだろうか。

 紙の書物だ。

 売り払ったら相当な金額になるだろう。ふむ。

 そしてそんな男性的な書斎の中に、軽やかな色合いのドレスがある。

 立派な机で書物かきものをしているアネットママ上だ。

 隣に立つ女性と男性、侍女と侍従も忙しそうだ。

 公爵夫人としてのお仕事か、羽ペンが忙しなく動いていた。

 はて、記憶のとおりのルイーズだと、空気を読まずにママ上に話しかけるところである。

 ある意味、ルイーズたん最強。

 ですが、私的には中々に興味深い景色なので黙って待つのである。

 アネットは、実務ができる女性のようだ。

 そしてよほどの激務のようで、そのまぶたの下が真っ黒である。

 寝不足と貧血気味のようだ。

 実務ができるなら、過労になる事も無い?

 ノンノン、間違いである。

 仕事ってね、できる人に集まるの。

 特に人材不足だったり、天辺に馬鹿殿が座ってると、仕事ができる人に圧力をかけてくるのよ。

 えっ、どうしてそんな事がわかるか?

 だってママ上に、そんな過労死寸前の匂いがあるんですもの。

 私、そういうパワハラ受けてる友達がいたし。

 その友達は優良企業に引っこ抜いてやりましたが、なにか?

 私?

 そりゃぁ手広く事業をしておりましたもの。

 そういえば、カフェの経営もしていましてね。

 あぁどうでもいい話ですね。

 カフェで思い出しました。

 あの店の利権を欲しがったのが、パチンカスの弟でした。

 店を任せてた女の子が可愛かったからって、入り浸りやがって。

 ふぅ、また、前世の黒い記憶が。

 それはさておき、二十代であろう美女も、こうなるとあまり美しいとか可愛いという感じではない。

 ブラック企業で四徹目のシステムエンジニアみたいである。臭そう。


「さて、一段落つきました。

 おまたせしたわね、ルイーズ。

 調子はどうかしら、熱は下がったとききましたが」


 本意はどうであれ、アネットは表面上の敵対行為はいっさいしてこなかった。

 まぁ笑顔で腹を刺して内臓抉るような女なのかもしれない。


「はい、元気になりました。ありがとうございます」


 物置部屋に継子を突っ込んでおいて、元気もねぇだろ。

 とは、口に出しません。


「それはよかった。

 近々、ロディとエリィに会いに、旦那様も戻ってくるそうです。

 それまでに言いつけどおり、身の回りをきちんと整えておくのですよ」

「はい、わかりました」

「あぁそれと、いつも通り。外の人間と接触をもたないように。今回の病気もあるから、大事をとってね」


 いや、それそのまんまお前に返すよ。

 病気持ち帰ったの、お前ら親子だろ。

 突っ込みたいですわ。


「はい」

「後は何かあったかしら?」

「新しく雇う者達がきますので」

「あぁそれから、騎士や兵士のいる棟には近寄らないこと。

 怖い思いをするといけませんからね」

「はい、わかりました」

「結構、病み上がりでしょう。今日はゆっくりしていなさい」


 物置部屋で堅パン食ってろってか?

 ふふっ、何ていうか、少し楽しくなってしまいました。


 そして会話終了。

 今まで通りの、中身の無い会話ですね。

 案外、ルイーズたんは馬鹿のふりがうまかったのでしょうか。

 それか本当に育ちが良い子供だったのでしょう。

 対するアネットママ上。

 これは中々に嫌なタイプですね。

 ナチュラルサイコパス臭がします。

 えっ同族の匂い?

 いいえ、私は一応、どういう考え方が普通かしっていますよ。

 まぁアネットママ上の考え方も理解できますが。

 多かれ少なかれ、人は自分が正しいと思っています。

 ですが、継子に呪いセットをつけさせているという事実があるのに、自分の行いを後ろめたく思っていない。

 自分の目的の為には不必要な人間のカウントに、私を入れているからです。

 何れ殺す子供で、利用価値もない訳です。

 そこに倫理という考え方は存在していない。

 その証拠がさっきの薄っぺらい会話の内容ですね。

 ロディとエリィとは、アネットの子供です。

 それに父親が会いに帰ってくる。

 さっきの会話では、その家族に私は入っていない。

 笑える事に、無意識にアネットは本音を喋っているのです。

 正直者ですね。

 さらに言えば、彼女は私に親切にしているつもりです。

 ぞっとしますね。


 ヘルベルトの全ては、このルイーズの物ですのに。

 余所者の盗人風情が、殺しにかかっている相手に、何の親切でしょうか?


 きっと今までのルイーズは、一切を諦めて無抵抗だったのでしょう。

 無抵抗こそが、小さなルイーズの生存戦略だったのかも。

 おもしろい。

 実に面白い。

 この女、喰わせるのは最後にしましょう。


『まずそう』


 そうですわね、きっとこの女は一生懸命生きているんでしょう。

 良いことをしているつもりかもしれませんから、食べにくいかもしれない。

 でもねぇ、ルイーズは私になっちゃったしね。

 ごめんね、ちょっと苦しませれば食べやすくなるかも。

 ただねぇ、この手の女って、同じ立場にしてもあまりダメージが無いのよね。


『同じ立場?』


 そう、アネットの子供を殺す。

 アネットの親を殺す。

 普通なら、恐怖や怒りを覚える復讐方法ね。

 悲しみを覚えるかも知れないけれど、自分が生きていればいいって何処かで割り切れるのよ。

 笑顔で殺す予定の子供に、業務連絡するような女ですもの。

 じゃぁどうやったら一番ダメージがくるかしら?

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