第122話 バー
「いらっしゃいませ……!?」
「ちわす」
レイが脳機能の拡張手術を望み、それが成功した日の翌日。ステーション内に誘致したバーに行くと思っていた通りランタンさんを発見。ここで1人飲みしていることが多いと聞いたけど、おっさんがバーで1人寂しく酒を飲んでいる姿はどこか様になっている。
「……何の用だ?」
「いやまあアデラについて確認取りたいだけ。ここなら大丈夫でしょ?」
「元ネルサイド協定なのは確かだが、俺は詳しく知らんぞ。前にも言ったと思うが」
目的としてはランタンさんがアデラさんについて、何か情報を持ってるか確認のために来た。あとはまあ、たまにはお酒飲みたい。
達成報酬のせいで高給取りになったランタンさんが行きつけなだけあって、一応高級なお酒が出て来るバーだけど安酒も多い感じだね。幅広くお酒が用意されているのにランタンさん以外客がいないのは物寂しい。
「……ご注文は?」
「甘さ控えめで度数は10%前後のスッキリした奴。辛口も可」
「何だその注文の仕方?」
「いやだってこの世界の酒は名前だけだとまだ種類すら分からんの多いし」
バーのマスターにお酒を頼むと、めっちゃレモンの香りがするのに味は辛口のワインに近いのど越しさわやかなお酒を出される。何だこれ。でもまあ注文通りではある奴だし、結構美味しい。
「……というかこんな場所で、社長が1人でお酒を飲んでいても良いのか?」
「上に既に護衛2人いるぞ。扉の外と足元にも2人ずつ」
「足元……?おわあ、そこにいるのか!?」
流石に1人で行動するのは色々と危ないので、護衛はいるけどここ自分の会社のステーションです。何でこんなに自分の家で警戒しないといけないんだろう。やってることがやってることなのでしょうがないけど。
「というかアデラに関してはマスターの方が詳しいと思うぞ」
「お、ということはマスターもネルサイド協定出身?」
「……ええ。アデライーラさんとは同郷です」
ランタンさんからアデラさんの情報を引き出そうとしていたら、バーのマスターがアデラさんの情報を持っていたので社長特権で聞き出す。バーで他人の情報引き出すのがマナー違反とか重々承知だが喋れる範囲でマスターは喋ってくれた。
内容としては、元々ラドン連邦で若くから脳機能の研究をしており、学習装置を開発したこと。その後、学習装置の機能を拡張しようとして、どうしても人間の脳だけだと厳しいから代替脳の開発に移行したこと。
……そして、それは高度なAIを作り出すことに直結すると判断され、辺境に左遷させられたこと。予算も大幅に減らされ、思うように研究活動が出来ず、仕方なく医者の真似事をしている内にレプリコンが襲来。
根無し草となった後にネルサイド協定に拾われてそこでも医者として従事していたとか波乱万丈な人生送ってるなあ。で、裏では代替脳に関わる研究について継続していたらしい。……他にも色々と聞いた感じ、思っていたより裏は無さそうな感じかな。元々裏はなさそうだとは思っていたんだけど、一抹の不安があったから今回の情報は有意義だった。
「……しかしまあ、自分の足で情報収取するとかトップがやることか?」
「仕方ないでしょ。もうヒノマルサイクツの支配下にいる人の数は38億人以上だし、自分のワンミスで全員が居場所を失う可能性すらある。もしそうなったら……」
「もしそうなったら?」
「ちょっと寝覚めが悪くなる」
「……っぶはっ、組織のトップはそれぐらいじゃねえとな。
たかが1万5000人程度の責任とやらで吐きそうになってた奴とは違うわ」
「それ、ネルサイド協定の元リーダー?」
「ああ。どんどん組織が大きくなるにつれて頭が固くなっていった馬鹿の話だよ」
アデラさんについての情報収集もそこそこに、男2人で酒盛りを始めるけどランタンさん結構な酒豪だね。度数の高そうなお酒を基本ロックで、たまにストレートで流し込んでいるから自分には真似できそうにもない。
流石に度数30%40%は炭酸で割るのが基本だったからなあ。うわ、これ度数42だ。……これストレートは少量でもキツイ。ロックでも氷がある程度溶けるまでは待たないと飲めないわ。
「じゃあ自分はこれで。
マスター、お会計」
「1200クレジットです」
「……つまみやチャージ料込みで12000円か。飲んだ量考えたら良心的だな」
ほどほどに酔えたところで、お会計をして自分は帰るけどランタンさんは翌日非番だとあの調子で大体朝まで飲んでいるらしい。肝臓が酒浸りになってそうだ。そして思っていたよりかは高い店じゃないな。1人で飲むには良い店か。
……ランタンさんはネルサイド協定の元リーダーのことも話してくれたけど、組織運営に苦労していたようで、責任を背負い込むタイプのリーダーだったそうだ。口では今の社長の方が断然良いとか言ってるけど、たぶん元リーダーのことも途中までかなり慕っていたんだろうなあ。
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