第121話 修復と維持

レイの脳味噌はレプリコンに囚われていた時代、機械のヘルメットの内側についている突起が脳の奥深くまで刺さっており、何なら穴が空いていた。……改めて考えるとレプリコン恐ろしいな。しかもまだまだ居住可能惑星はレプリコン勢力圏内に残っているという事実。北側はどこまで拡張してるんだあいつら。


脳にあった穴を修復出来たのにも関わらず、脳だけで生きていけないのはおかしい気もするが、人体の中にあったからこそ修復出来たことらしいし、そもそも完全に治り切っていたわけでもないみたい。……ということはベレーザ星系の住民やインバー星系の住民も脳に関してはレイと同様に完治してないってことか。


まず、人間の寿命がどんなに伸びても結局300歳で死んでいるんだから、肉体を脱ぎ捨てて機械の身体で生きていくハードルは結構高い。そもそも300歳まで生きるとどんなに脳機能を維持しようとしても、痴呆や老化を防ぐのは難しいみたいだし、そこを克服出来ているなら平均寿命は300歳から更に遥か遠くへ伸びているだろう。


「……アデラはもう行けると判断してるのか」

「そうみたい。……一応テラニドカンパニーで一般販売している中では最高クラスのAIと機械を、複数連結。それぞれが理論上はレイの脳の代わりになるって」

「これが成功したら、もう現存するスパコンの性能を全て追い抜くのか。……いやまてこれラドン連邦のネットワーク全て乗っ取るの?」

「……各自の端末からデータを抜き取ったり、勝手に一部を使って演算することで莫大な研究開発能力を持つって感じだね」


レイの人外化は、思っていた以上にアデラさん含む研究班がノリノリである。レイが脳移植手術後に起きて、本人に問題なさそうであることを確認すると即座に代替脳の拡張手術というか増設を提案するぐらいにはノリノリ。まあ、トップが狂っているのにその部下達が狂ってないわけないか。というかこれ悪質なインターネットウイルスにもなってない?


確かにマップ機能を搭載したいから各種データベースからデータを採取出来る機構について一晩アデラさんと飲みながら語り明かしたけど、一般人の通信端末すら乗っ取ってデータを吸い出すのは想定外。そしてこの大量のデータを使ってマップを構築するなら、まあ今自分が使っているマップに近いものにはなるだろうな。


何なら、両隣の星系だけじゃなくてラドン連邦全域を行き交う艦船情報についても入手出来そう。領域内の軍の動向すら完璧に分かるようになれば戦争で負けようがないので……将来的にはそうなるのか?


そもそもそんな大量のデータを扱い切れるかも怪しいけど、もしも扱い切れるほどのスペックになるなら各種未来技術もどんどん開発されそう。……これは思っていたより、ゲートウェイの開発も近いのか?


個人的には遥か遠くの未来でつじつま合わせのために色々やる覚悟ではあったけど、レイが早々にあの管理AIのような存在になるのであれば……のんびりしている暇はないのかもしれない。


ただまあ、レイの拡張手術に関しては本人の同意を得てからだな。経過観察が終わったら早速シレーネ星系でゲートウェイの管理AIと会わせてみよう。きっと何かは起こるはず。


「またヴォート帝国の最奥まで突っ込むの……?」

「今回はラドン連邦軍がヴォート帝国軍と戦ってるし、前回より稼ぎやすいと思うぞ。

……貯蓄が全部予防接種のせいで吹っ飛んだんだから、戦力整えるのが拿捕頼みになってるんだよ」

「ああそっか。普通に戦艦10隻ぐらい建造出来る額が飛んでたね」

「だからまあ、合計で戦艦10隻分ぐらいはヴォート帝国から賄おうって算段。

……次は移乗攻撃が相当難しくなりそうだけどな」

「獣人の子達がどこまで戦えるかだね」

「いや、今回からは機械兵を使うぞ。

レイの指揮下で」

「……それ可能なら実質無敵の軍隊にならない?」

「さっきテストしてみたら獣人の子達と普通に戦えたから実質無敵」


とりあえず今回の遠征では、レイが機械の兵を使って移乗攻撃する予定。もちろん獣人の子達も同行するけど、前線を張るのは小型のドローンや小さい戦車みたいな機械となる。今はこれで被害は抑えられたら良いかな。将来的には全部機械兵に置き換えたい。


「そう言えば元々指揮能力も高かったっけ。イチカに迫るぐらいって言ってたし」

「それが莫大な演算能力も持った結果、シミュレーターでイチカに勝ってたよ。

レイ本人はイチカに勝って申し訳なさそうな顔してた」

「……何というか、成功して本当に良かったね」

「レイがぶっ倒れた時は本気で未来を恨んだがな」


……拡張手術が成功するかどうかはもう、未来のせいで成功と分かってしまっている。ここでレイが死んだらたぶん歴史がぐちゃぐちゃになるだろうからな。まだレイ=管理AIが確定していないとはいえ、ここまで来たら突っ走るしか選択肢はないだろう。

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