第120話 目覚め
脳の移植手術が終わった日の翌日。レイの様子を見に行くとベッドの上で半身だけ起こして医療班の子とお喋りをしていた。おおうもう目を覚ましていたのか。そして自然に会話出来ている辺り、上手く行ったみたいだ。
「……おはよう。上手く行ったみたいで何よりだ」
「あ、社長。おはようございます。
凄いですねこれ!まるで自分の身体みたいです」
ぐるぐると腕を回して、元気なことをアピールしてくれるレイだけど起きてすぐにそんな運動をしても大丈夫なのか。医療班の子が言うには激しい運動をしなければ理論上は問題ないらしいけど、流石に不安は残る。
……あれ?これこのままで大丈夫ならわざわざ高度なAI開発する必要なくね?いや、大丈夫じゃない可能性が高いからレイの脳機能を拡張して、AIのベースにするのか。そう納得しておこう。
「そうだ、こういうことも出来るようになりましたよ」
『通信端末を使わなくても色々と出来る感じです』
「お、凄い既視感ある光景。
……何でメイド姿なの?」
『フィア様にメイド姿がお好きとお聞きしましたが?』
「ああ、そこから漏れたのか……。というかこのやり取り前もした気がする」
既に脳機能の拡張と、演算能力の取り込み等も行っているため、レイ本人は通信端末が無くても、他人の通信端末を起動させて通話することが出来る。画面の中にいるレイは頭の中で考えて動かしているみたいだけど、後でアデラさんに確認したところ、このレイの言う『頭の中』は既に機械の代替脳の範疇らしい。
レイが目の前に出て来ると、ゲートウェイの管理AIと喋っている感覚に陥るな。……これ、相当上手く行ってるんじゃないか?というか上手く行かないとレイが自分で自分の寿命伸ばせないから恐らく詰む。……レイ本人の脳が腐敗したり機能停止する前に、全て機械の代替脳に置き換えた場合、それはレイだと言えるのかは難しいところだな。
『意識の連続性に関しては問題ないですよ』
「いやさっきまで寝てたじゃん。……本当に身体の方は大丈夫か」
「私自身は特段変な感じもしないのですが…………たぶん、私がこうなっているのは理由があるんですよね」
「ああ。脳だけで延命するのは結構難しいらしいから、レイ自身が延命方法を開発しないと結局のところ、全てが無駄になる」
『……過去のデータベースで脳に関する論文を全て拝見しましたが、状態が良くても10年、私の場合は元々脳にダメージが多く、人工ウイルスに感染して肉体が全て崩れ落ちた状態から取り出されているので持って3年といったところですね』
「……すべて?」
『すべて、です』
レイは元々レプリコンに囚われていたこともあり、脳のダメージというのは蓄積されていたらしい。一度凍結までしてしまっているため、持って3年とのこと。この見解自体はアデラさんと一致してるし、それまでにどれだけレイが頑張れるか、アデラさんを含む研究班が新技術の実現をしてくれるかだな。
「あ、そうだ。この後たぶんフィアも来るからちょっとその画面で物真似してくれる?」
「良いですが、誰の物真似ですか?」
「……あー、レイはまだゲートウェイの管理AIと直接話したことないのか。あっても学習装置使用前だし分からないよな」
『……ゲートウェイの管理AIの姿について、検索いたしました。これは……』
「たぶんレイの未来の姿。希望するなら次回のヴォート帝国侵攻時に同行して貰って、シレーネ星系で会わせるけど?」
「『会いたい、です。会ってみたい……』」
お、画面と現実のレイが同期した。一応別々に動くんだけど、結構負荷がかかるのかな?考え込み始めたら動作が全く一緒になっちゃった。……というかゲートウェイの管理AIの画像、よく考えたらネット上に落ちてるからすぐにレイ本人もゲートウェイの管理AIに似てることは気付くよね。
『これでどうですか?』
「完全に一致。
そうか、やっぱりレイだったのか」
「……何というか、凄く複雑な気持ちですよ今。
ちょっと疲れて来たので眠りますね。おやすみなさい」
「……いきなり押しかけて悪かったな。おやすみ」
しばらくレイが考え込んだと思ったら、唐突に画面の中のレイが完全にゲートウェイの管理AIのものとなり、話し方まで完全に一致した。予感は確信へと変わり、恐らくレイは、このまま人ならざるものへと変貌する。
……未来から過去に送れる物は、生物だとダメだと言っていた。だとしたら脳以外が機械になって、徐々に脳の機械の領分が多くなり、やがてすべてが機械に置き換わった物は生物か?
意識の連続性自体はあるとレイは思い込んでいるけど、そう思い込んでいるだけの機械になっている可能性というのもあるわけで……。でも、少なくとも今はレイがレイ自身だと感じた。例え身体の90%以上が機械に置き換わり、食事を必要としない身体になったとしても、そう感じるならまだ生物の範疇だろう。
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