第118話 ボディ
楽しい狩猟の時間が終わったら辛い現実と向き合う時間。丁度帰還したタイミングで、発注していた最高級クラスのセクサロイドが届いた。脳としてのCPUは一応積んであるけどOSはインストールしていない状態なので起動はしない。
……誤起動でもしちゃったら個人的には嫌だからね。あと疑似人格データは外す方がちょっとお財布にも優しい。パソコン買う時もOS抜いてる方が安いのと同じ感じ。
そしてここにレイの脳を搭載する予定なんだけど、既に脳は一度コールドスリープに近い状態にしているため、上手く意識が覚醒してくれるかは分からない。……一応コールドスリープ自体は技術として既にあるんだけど、前提条件として五体満足な状態で凍らせて、五体満足のまま起こすのが基本だからね。
脳だけで凍らせて、脳だけで意識覚醒させるのも理論上は可能なんだけど初めてのことに危険性は付き物らしく、まずそもそもちゃんと意識を目覚めさせるかが関門となる。その上、各種パーツと接続した疑似神経が機能するかと、脳を補完する空間でちゃんと脳が長生きできるかも関門。
「……理論上は大丈夫なもの、から家畜の脳では大丈夫、となったか。
ただ家畜だと発狂すると」
「一応、家畜に模した機械に搭載してるけどね……自分の身体の異変に気付くと暴れ出して、脳を保管するカプセルが破損してダメだったよ」
「安物のカプセル使うからだろ。資金は潤沢に使って良いんだぞ」
機械に脳を移植する実験については、カムという家畜を使用して実験してみたらしいけど、生身の身体から機械の身体に移植した後の意識の覚醒自体は問題なさそうとのこと。
あとは取り出した脳を一度冷凍保存して、長期間保管してからの移植で実験もしている最中だからそろそろ結果は出そう。……発狂して暴れても大丈夫なようにはしないといけないのか。実際、生身の身体を失うショックってどの程度のものなんだろうな。
「うわ、凄い……流石はオリエンツ工業のセクサロイドだね」
「一応、体つきもレイの再現してるし自分の身体を見てのショック死はないと思いたい」
「……レイが学習装置に入ってる時とかガン見だったもんね」
「いやまああれは学習装置がどうなってるのかが気になっていただけで……すいません半分ぐらいはレイの身体を凝視してました」
「まあでもそのお蔭でかなり近い身体にはなってるんじゃない?私一緒に温泉入ったことあるけど本当にそっくりだもん」
フィアが届いたセクサロイドを見て、感嘆の言葉を漏らし、ちょいと胸を触っていたけど割とフィアも付き合いあったようでそっくりだと言ってくれた。……でもまあ感触とかを限りなく人に近づけただけで、生体部品とかは使われてない。一応、生きた皮膚とかを使うセクサロイドもあるんだけど腐敗速度やら手入れの手間を考えるとなあ……。
そのセクサロイドもレイの脳が保管されているポッドの近くのポッドに入れられ、本格的に脳移植手術の準備も始まる。まあ、ここまで来たら祈るしかないか。
「……ラドン連邦にヴォート帝国が宣戦布告したわね。要求はヒノマルサイクツの独立と賠償金よ」
「これヴォート帝国に独立させられた後に、こっちにも宣戦布告してくる奴か。……それなら直接こっちに宣戦布告して来たら良いと思うんだけど、銀河国際法って面倒だな」
「本来であればヒノマルサイクツ全員を犯罪者としてラドン連邦側は引き渡す義務があるんだけど……今のラドン連邦に出来ると思う?」
「ああ……ラドン連邦はそれを出来ないから要求突っぱねて宣戦布告されてるのかこれ。まあ現時点で既にヴォート帝国はラドン連邦に国境封鎖食らってるから、一番簡単に物事を進めるならヒノマルサイクツを何らかの形で独立させることだよな」
「そうね。ただヴォート帝国側がおまけで賠償金までラドン連邦に要求したから……下手したら泥沼の戦いになるかもしれないわよ」
「元々仲悪いからしょうがない」
アリアーナによるとヴォート帝国は戦艦を含む軍艦を大量にヒノマルサイクツに拿捕された後、まずはラドン連邦にヒノマルサイクツの人員(ヴォート帝国にとっての犯罪者集団)の引き渡しを要求。これをラドン連邦がやりたくないのか、物理的に不可能と見たのか要求を突っぱねた状況。
一応、この世界にも国際連合的な銀河コミュニティはあるのだけど、そこで既にラドン連邦とヴォート帝国は互いに国境を封鎖中。よってラドン連邦の領域内にいることになっている自分達に直接手を下すことは出来ない。……自分達は船体情報を消し、一時的に宙賊になっていたけど、これ勢力としてはその銀河コミュニティに属していないから出来たことである。
で、たぶんラドン連邦は今回ヒノマルサイクツの味方なんだよね。ヴォート帝国が仮想敵国過ぎるというか現戦争相手のパラディ社に大規模な義勇軍まで派遣しているから何なら直接叩きたい相手。そんな相手の戦艦を、前線から根こそぎ掻っ攫ったんだからラドン連邦には感謝して欲しいぐらい。
……でもまあ、最終的には独立させられるかな。相互に突き付けた要求の半分だけ飲む和平案とかもあり得るし。そもそももうただのデカい宙賊だし。どこからどう見ても悪の組織だから縁を切られるのは仕方ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます