第100話 本性

ゲートウェイの管理AIからの映像ファイルは、自分がどういうことを引き起こしたかの羅列だった。ニュース映像まとめ、みたいな感じだな。……何か初っ端から建物が燃えている映像なんだけど。って、これ国会議事堂か!?


最初に自分のよく知る国会議事堂……いや何かちょっと増築されているみたいだからたぶん未来の日本の国会議事堂に対して、旅客機が墜落。通常国会期間中だったこともあり、大量の国会議員や旅客機に乗っていた人が死亡したらしい。


その他、アメリカや中国の政府主要施設に対して次々と旅客機が墜落。いや幾ら民間の旅客機相手でも、重要施設に墜落しそうならその前に軍が落とすだろと突っ込む暇もなくインド、ドイツ、フランス、イギリス、ロシア等々に対してもこのテロ行為が成功する。世界同時多発テロ(各国政府系機関中心)ってヤバすぎるだろ。主要各国の政治家の8割が死んだってどんな災害だよ。


……あっ、スクランブル発進する軍の機体も撃ち落とされてるのかこれ。それを為したのは、ミサイル搭載ドローンなるものをAIを駆使し、複数操縦する自分と。いやこれ単独犯かよ。


しかもその後も捕まることなくテロ行為を繰り返し、国同士の不和を引き起こしながらも、日本の政治家となり第三次世界大戦を引き起こすと。この極悪犯罪者が捕まらないとかどれだけ警察は無能なんだ。


……というか、マジで第三次世界大戦引き起こすのか。テロ行為で死んだ人間は数万人、第三次世界大戦で死んだ人間は数億人ってところか。そして事件から50年近くが経過し、90歳になって死ぬ間際に過去を暴露する辺り畜生過ぎる。あとやっぱり子供はいなかった。


そりゃこんな人間、未来視点だと存在しちゃいけないから追放は納得。こいつを追い出すだけで数万人、下手すりゃ数億人の命が救われるんだからな。でもそのせいで技術革新競争に負けたということは……結果的に見ればこの第三次世界大戦が技術革新に大きな影響を与えていたということか。戦争期間中の技術革新というものは、平和な時代の数億人の命よりも人類にとっては価値あるものだったのだろう。


『アキラ様の世界間の移動により、アキラ様が元居た世界よりも2回、戦争の多い時代が出来上がりました』

「……今いる時代でも世界大戦、というか宇宙大戦を引き起こすとか言っちゃって良いの?」

『既にアキラ様がその心づもりであることは把握しているため問題ありません』


そして恐らく、自分が今いる時代も本来なら平和な時代だったのだろう。それが戦国時代というか、宇宙大戦時代に突入したから大いに技術革新が起きて、結果技術革新競争に勝利したということか。


なんかもう、自分という存在が怖いわ。でもヒノマルサイクツの拡張を止める気はないし、将来的にはラドン連邦と衝突するんだろうし、宇宙大戦は起きそう。今でも戦争自体はしているけど、国の余力で殴り合うような戦争じゃなくて、互いに総力戦に踏み切るような戦争に突入することになるというかな。


……数十億人の人が住む惑星が、大量にあってラドン連邦の人口は1兆人以上。本格的な殺し合いになったらどれだけの死者が出るか想像すら出来ない。映像に映る自分は、40代か?まあたぶん、自分が成長したらこうなる未来もあるんだろうなと思える姿だった。


「これ、宇宙進出する前の時代だよね?惑星が1個しかないような、未開文明?そこでこれだけの事件を引き起こすって……」

「間違いなく人類史上最悪クラスの犯罪者だな。世界から追放されるのが納得できるぐらいだ」

「……正直、前回の会合でここまで知ってたら一線超えるの躊躇したと思う」

「……いやまあ、当たり前だわ。自分でも想定以上のものだもん」

「でも、今ならついていける。……たぶん前回のAIが不貞寝したの私のせいだね」

『その通りです。フィア様には健康な子供を産んでもらう必要があるので』

「それ以上未来ネタバレしないでくれ」


恐らく自分がこの世界に来た瞬間、このゲートウェイの本来の役割というのは終えたのだろう。技術革新競争に勝利しているからな。あとは辻褄合わせのために自分達がゲートウェイを過去に送る必要があるっぽいけど、そこら辺はどうなるのか。


『ゲートウェイの作製方法や過去への転送方法についてはいずれ1巡目の世界の人々が接触してくるはずです。……では、頑張ってください』

「あ、おい待て」

「……通信切れたね。言いたいことだけ言って帰っちゃった」

「……はー。何で過去が変わってるのに1巡目の世界の人々がいるんだよ。もしかして過去を変える度に世界線分岐する面倒な世界なのか」

「だとすると、9回変えているっぽいから9個分岐してる世界があるのかな?」

「いや、レプリコンがいるから最低10回だな。というか分岐するなら過去を変える意味すらない。

……まあ面倒なことは考えずに次はインバー星系確保するか」


最後に謎を残してまた不貞寝に入ったAIだけどもうこれ当分は起きないだろうな。必要な情報は全部押し付けて来たっぽいし。たぶん自分は何も考えずに勢力拡大するのが正解っぽい。その過程で何人死ぬかは知らん。


……あとはまあ、あの映像は幾らでも加工できるだろうしツッコミどころ満載だったから真実ではないだろう。そもそも、各国の政府系主要機関を同時に、悉く潰すのは無理がある。まず飛行機が上空を通らないだろうし、小さいミサイルで簡単に撃ち落とせるものじゃない。


ちょっと前に考えてみたことはあったけど、たぶんスクランブル発進した軍用機のフレアで撃ち落とされて終わりじゃないかな。というかそもそも飛んでいる旅客機にミサイル等を命中させるのが相当難しいので個人でこの大災害を引き起こすのは不可能だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る