スペース炭鉱夫による成り上がり

第99話 答え合わせ

ラドン連邦の首都星系に移動し、そこでまたあのゲートウェイに話しかけると今回は応答してくれる。シレーネ星系では一切反応しなかったけど、シンカー解放戦線側に聞かれたら不味かったのかな？

『……既に答えを掴んでいるのにわざわざ確認しに来る意味ありますか？』

「いやだってスッキリしないし。……自分の存在が邪魔なら、消さない意味も分からないし」

何というか、人間臭いAIである。この色々と発展している世界から、あと何世代分の技術革新があればゲートウェイやタイムマシンが完成するのかな。……それと、このAIも。

「ネルサイド協定を叩き潰したいから呼んだ、というのは嘘だったのか」

『ええまあ。カタギリアキラ様の過去の偉業から引っ張ってきただけです』

「……嘘つく必要あった？」

『あの時点だとまだ真実を伝えた結果、自死される恐れがあったので』

「今なら無いって言い切れるのか」

『フィア様、妊娠されましたよね？』

恐らく、このAIも未来の自分が送り込んでいる。というか過去改変をしてきた辻褄合わせのために送り込まないといけなくなる、という方が正しいか。何というか、過去改変って面倒だよなあ。

今はフィアと2人で輸送船に乗っているため、唐突に名前を出されたフィアはちょっとびっくりしながらお腹をさする。……やることやってるので出来るのは当たり前だけど、これが無かったら自死を選ぶ可能性があったって何？

『この世界と、アキラ様が居た世界は遥か未来において互いに滅ぼし合う仲となります。きっかけは、相転移エンジンの開発でした』

「おい待て。その名前ブラックホールエンジン導入した時に聞いたわ。実現は不可能とか言ってたぞあの技術者」

『ええ。ですが技術革新が進んだ結果、隣接する宇宙を墓場とすることで無限に等しいエネルギーを取り出すことが出来ると判明しました』

そしてAIが解説に入ってくれるけど、相転移エンジンは前にブラックホールエンジンを作ってくれた技術者が話してたしちょっとだけ頭に入ってる。相転移自体は『ある物質が急にガラリと性質を変える』ことで、身近なものだと水が氷になることだけど、この時にエネルギーを吸ったり吐いたりする。

この相転移を、真空でやることで莫大なエネルギーが得られるという理論らしいがこの世界でも夢物語的なエンジンのことだ。あともし実現すると、今ある宇宙が崩壊するとかも言ってた。

『アキラ様に分かりやすく説明すると、真空の相転移は凄まじいエネルギーを発し、光速を超える勢いで真空崩壊という事象が引き起こします。この真空崩壊というものを説明すると長くなるのですが……』

「……簡単にお願いします」

『宇宙の中に別の宇宙が出来る、という認識が一番近いですね。新しく出来た宇宙は、元の宇宙をどんどん塗り替えて行きます。元の器となった宇宙は滅びるため、この世界とアキラ様が居た世界は、互いに実験場として隣接する宇宙、を選択しました』

「ああ……」

『すると隣接する宇宙と、技術革新の速度はほぼ同じだった、というわけです。それどころか、歴史や文化もほぼ同じ。極めて似ている宇宙同士で引き返すことの出来ない戦争状態に突入した結果、互いに過去改変を始めて相手よりも先に相転移エンジンを作り、相手が相転移エンジンを開発しない内に滅ぼし切る、という戦いになりました』

どうやらその相転移エンジンをお互いの宇宙で起動しちゃった結果、戦争になったと。その上、互いに過去改変を繰り返すことで相転移エンジン開発RTA合戦に移行したと。

まあ誰々がいたからこの技術は〇〇年進んだとかよく言われるし、生物は無理でも機械なら未来から過去へ送れるらしいから殺戮機械を送り込んだりと、色々技術革新のためにやったんだろうな。そして自分が元居た世界は、犯罪者を消すついでに相手の世界を無茶苦茶にしてやろうと考えて自分を送り込んだと。

この世界にも地球があって、日本語っぽい宇宙共通語がある以上、極めて似ている世界同士だとは思うんだけど平和的解決には至らなかったのか。まあ互いに、相手の土地を核実験の実験場にしておいて仲良くするのは無理か。

「じゃあ、何でそんな不都合の塊みたいな存在、早々に消さないんだよ。レプリコンがもっと本格的に自分達を潰しに来たら、早々に潰れてただろ」

『……アキラ様が元居た世界でも、この世界でも、カタギリアキラ様がとった行動というのは恐らく変わらないはずです。元居た世界で、送り込む人材として抜擢された理由というのも納得は出来るものでした。

ですがカタギリアキラ様がこちらの世界に来た瞬間、互いに歴史が崩壊し、カタギリアキラ様が元居た世界は技術革新競争の敗北が確定しました』

「……自分は、本来何をしたんだよ」

『こちらの世界での記録ですが、ご覧になりますか？』

通信画面に映るAIは、ニッコリ笑って映像ファイルを送り込んで来る。……前の会合では、自分が未来に送られたせいで本来何をしでかしたのかはもう絶対に知ることが出来ないと思っていたけど、世界が違うお蔭で観測することは可能なのか。というか技術革新RTA対決もほぼ互角だったっぽいし、この2つの世界の差って、自分を追放したか追放しなかったかの差ってこと？