第79話 売却価格

「あー。誰か起こして。起き上がれない」

「……なあ、アレがまさか」

「アレがヒノマルサイクツのトップのアキラ社長よ。

ランタンさんは部隊長格での雇用となるから、基本的にはアキラ社長以外の指示を受ける必要はないわ」

「へるぷ」

「……あの指示は」

「聞かなくて良いわよ」


正式にネルサイド協定を吸収した日の翌日。自分はレプリコンの領域を通過するために往復でマップ監視をしていたため、非常に疲れていた。そんな中、ステーションの管理室的な部屋に首都星系で買って配置した『人を堕落させるソファVer165.11.13』にダイブをしたら一時間ぐらいそのままの体勢で起き上がれなくなってしまった。


いやこれ凄いよ。どこまでも沈み込んでいくし、このソファに食べられたいぐらいである。しかもマッサージ機能がついており、筋肉の疲労具合から勝手に微振動を与えてくれたりギュッギュと揉んでくれたりもする。なおそんなリラックスしている姿を管理職として新加入したメンバーであるランタンさんに冷ややかな目で見られた。このおっさん外見は厳つくて見た目がもう海賊なんだけど根っこは真面目なんじゃないかな。


「ランタンさんは今日はイザベラさんと一緒にベレーザ星系まで行ってレプリコンの哨戒部隊を狩って。イザベラさんとランタンさんの艦隊で哨戒部隊を5部隊は狩るのを目標ね」

「あらあら。かしこまりました。

ランタンさん、今日だけで5部隊狩る予定なので狩り終わったら即座に移動しないと間に合わないですし、今すぐ行きますよ」

「ごぶ……1日でそんなに鉢合わせられねえよ」

「良いから行きますよ」


とりあえず加入初日はイザベラさんと合同でレプリコンの哨戒部隊を狩って貰うけど、本来ならイザベラさんの部隊だけで5部隊は狩れるので今のところは研修みたいなものだね。


「シルフィの艦隊はユレーザ星系でいつも通りに。ただ今日から戦艦だから艦隊自体の移動速度は落ちるし隊の分散については任せる」

「了解です」

「あとはいつも通り採掘部隊はマップでピン立てた所を掘っといて。フィアは新入り達のチェックと導入研修よろ」

「はーい。

……その体勢のままだと身体に悪いよ?」

「あとで仰向けになって寝るから大丈夫」


全部隊に指示を出した後は、そのままソファーで寝ているとイザベラさんからベレーザ星系に到着したとの連絡が入るので順番にレプリコンの哨戒部隊の位置を伝えていく。


『……まさか、星系内にいるレプリコンの艦隊の位置が全て分かるのか?』

「そうだけど?レプリコンの勢力圏内移動していた時に疑問に思わなかったの?」

『あまりにも非現実的過ぎてな。……道理で捕まえることが出来なかったわけだ』


元ネルサイド協定のランタンさんは、扱いやすそうなキャラしてるし今後は優秀な艦隊指揮官になってくれそう。ユレーザ星系の方にもシルフィの部隊が到着したようなので順番に撃破するよう指示を出すけど、これレプリコンはひたすら哨戒部隊が狩られている状況だからそろそろ本腰入れて大規模艦隊が来る可能性はある。


「……ねえ。元ネルサイド協定の星系について、ラドン連邦は15憶クレジット、シンカー解放戦線は25憶クレジット払うって言ってるけど」

「1星系辺り5億クレジットは、星系基地の値段考えると最低ラインだよなあ。

シンカー解放戦線に売却で」

「良いの?下手したらラドン連邦が怒るわよ?元々ラドン連邦の領域だし」

「戦争が終わった段階でネルサイド協定の物になったんだから元の所有者が云々は関係ないな」


ネルサイド協定の保有していた3つの星系については、シンカー解放戦線に売却。3星系が25億クレジットで売れるなら領土こそなくなるものの、ネルサイド協定はこれ身売りまでしなくても良かったんじゃないかなあ。そしてこれで、シンカー解放戦線とラドン連邦の国境が接した。


シンカー解放戦線はシンカー共同体との戦争を継続しているんだけど、シンカー共同体の同盟国であるラドン連邦はシンカー解放戦線との戦争に直接参加はしていなかった。国境を接していないからという理由で直接的な戦闘を避け、物資援助や軍艦の代理建造等でシンカー共同体を援助していた。


だけどこれで国境が接したため、ラドン連邦も本格的にシンカー解放戦線と殴り合わないといけないんじゃないかな。そしてシンカー解放戦線側はラドン連邦と国境が接すると分かった上で元ネルサイド協定の領域を買ったということは、戦線が増えてもシンカー解放戦線側は良いと思っている。


まあその最大の理由はヒノマルサイクツがシンカー解放戦線に対し、ラドン連邦への直接的な宣戦布告と引き換えに、軍艦の販売を打診しているからなんだけど。艦船製造モジュールが完成すれば、どんどん戦闘機や駆逐艦が作れる体制にはなっている。


シンカー解放戦線はシンカー共同体との戦争が結構厳しそうだけど、ラドン連邦もそんなに余裕があるわけじゃなさそうだし、ヒノマルサイクツとしては良い艦船の販売先だと考えている。……そしてざっくりアリアーナに粗利を計算させたんだけど、死の商人って滅茶苦茶儲かるんだなあという感想しか出て来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る