第74話 学習装置
「とりあえず自分が過去の人間ということは最初から分かってた?」
「まあ常識知らずなところはそうじゃなきゃ説明出来ないし、稀人が過去の人間という説自体はあったから、知ってる人は知ってるんじゃないかな」
「ラドン連邦が空母売ってくれたのも、テラニドカンパニーがやけに協力的なのも『稀人が未来を変えるために過去から来た存在』ということを知っていたら理解出来て来たわ……」
ゲートウェイの管理AIとの話し合いは非常に有意義で、稀人がどういう存在なのか理解出来てしまった。そして恐らくだけど、自分が移送される事自体は想定外の出来事だったんじゃないか?移送完了からネルサイド協定との戦いまで、あまりにも時間が短すぎる。
ネルサイド協定をボコボコにするだけなら、前の稀人がラドン連邦軍の大将で、強大な戦力を持っていたはずなので、恐らく彼が生きていたら自分は必要が無かった気がする。このAIと結構な頻度で喋っていたらしいし。
……ということは、自爆テロで殺されたのは簡単に片づけて良い話じゃないな。歴史改変を嫌う勢力がいるのか、それかもう単純に用済みだったのか。未来視点で防ぎようのない事故だったのかということも気になる。
何にせよ、自分がラドン連邦と敵対しようとしているのに休眠すると宣言して寝るということはラドン連邦自体は滅んで良いのか、単に自分の力でラドン連邦を滅ぼすことは出来ないのかのどちらかだな。
「色々と衝撃的だったんだけど、とりあえず今後の方針は変わらないんだよね?」
「まあ変わらないな。まずはラドンⅠに降下して学習装置を使う」
「……あの子の名前は何にする?」
「『レイ』で良いや。完全に空っぽの存在だったし」
「了解。それでラドン連邦の身分証明書の発行をして貰うね」
ラドン連邦の首都星であるラドンⅠは、ざっくり言ってしまえばエキュメノポリスだな。官僚達が沢山居て、行政を支えている。……人頭税以外にも、選挙時に沢山の税金を得られるのだから選挙後は大忙しだろう。
ラドン連邦では人口が増え続けているのだけど、その原因はどんどん寿命が伸びている最中だからだ。というか最近は身体年齢をある程度リセット出来るようになったため、直近で爆発的に寿命が伸びている。政治家達は大変そうだ。
「学習装置って言っても医療用ポッドと形変わらないな」
「医療用ポッドに学習装置を付けているだけだからね……。
レイはまだ眠ってる?」
「起きたら糞尿まき散らしながら徘徊するから眠らせてる」
「……何というかまあ、身体の大きな赤ん坊だね」
まずはレプリコンから保護したレイを、医療用ポッドに似た学習装置に突っ込み常識やら言語やらを学んでもらう。……常識インストールに10分、言語インストールに10分しかかからないとかこの学習装置怖すぎるだろ。脳をどう弄り回されるんだろうな。
ちなみにお値段は1回10万クレジットと思ってたよりかは高くないけどちょっと高い。……効果が薄い時とかもあるみたいだし、そこまで万能でもない。デメリットも大きそうだし使う人は少ないみたい。だから首都星と、あとは学術惑星にしか置いてないのか。
施設にいる人に色々と説明を受けていると、予定通りにレイはポッドから這い出て来て、自分を視認するなりパッと腕と手で胸と股間を隠す。知恵の実を食べて羞恥心を知ったイブかよ。
……しかしまあ、かなりまともな感じになったな。施設の人に服を渡されると普通に着れるし。そして服を着た直後、嘔吐を始めたけど学習装置の副作用で気分が悪くなるって言ってたからそれかな?。
「私は……私は……!」
「気分が優れないようであれば再度ポッドに入って下さい。……アキラさん、あの子は一体どういう境遇で育った子ですか?」
「レプリコンに囚われてた子」
「……となると、今までして来た行動がどういうことだったのかを知覚して吐いた、ということですね。鎮静剤を使用します」
「はい、お願いします。
1本お幾ら?」
「学習装置の使用料に入ってますよ」
唐突に吐いたレイは、再度ポッドに入れられて色んな投薬をされる。しばらくして落ち着いて来たようなのでベッドの上で横になるレイに話を聞くと、どうやらレプリコンの惑星では死んだ人間を加工して人間に食べさせるようで……。
しかもレイはその加工食品工場で働いていたと。何なら自分の両親と思わしき死体も機械でプレスして……そりゃまあ吐くわ。胃の中のもの全部出したいと思っても不思議じゃない。
なお、この話を一緒に聞いた獣人の子達も結構気分の悪くなった子がいるので獣人達も無敵じゃないってことだな。常にキリっとしているシルフィもドン引きしているぐらいだし、レプリコンえげつない。というかこのレプリコンを歴史修正のために送って来る未来人達が怖いわ。
……ここは首都星だし、情報を流すには丁度良い。レプリコンへの反感を高めて極力対レプリコンでは協力して貰おう。流石に自分でもえげつないと思ったから、世論は動いてくれそうな気はする。
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