第73話 意味
「……質問しても良いか?」
『お答えできる範囲であればお答えします』
「自分は何人目の稀人だ?」
『カタギリ アキラ様で9人目です』
「……何の目的がある?」
『もう既にある程度答えは出ていると判断してお答えします。
過去改変のためです』
通信端末の画面で、てきぱきと質問に対する回答をしてくれるメイドロボは、恐らく未来人というか未来からやって来た存在であることは間違いない。ゲートウェイそのものが未来技術の塊だしな。で、稀人を呼ぶのが過去改変のためねえ。
「未来の超天才を過去に飛ばす方が改変楽じゃないか?何でわざわざ過去の人間を未来に持って来た?」
『未来から過去へ、生物は移動出来ません。ですが逆に、過去から未来への移送は可能です』
「理由はタイムパラドックス的な?」
『ほぼその認識で間違いありません。我々から見て過去に生命体を送る実験は、悉く失敗しているので』
……まず最初に、何で過去の人間を未来に持って来たかの疑問解消から始めるが、このAIは律儀に回答してくれるんだな。『それはあなたのクリアランスには閲覧を許可されていない情報です』とか言われると思った。そして、タイムパラドックスの回避のためはまあ理解出来る。過去が変われば未来が変わるのは必然。現代日本から先祖を遡れば江戸時代には1000人は超える。
だとしても過去の現地にいる人に情報を渡すだけで良いはずだし、過去の人間を持って来てもタイムパラドックスが発生するのは避けられないだろう。このAIの反応と、自分が9人目という情報。あとは稀人が2人同時に存在しなかった過去を鑑みるに、大昔から昔に人を移動させるだけでも大変っぽいし、わざわざそうした理由が見えない。
「どうして自分だったんだ?」
『……ネルサイド協定は将来的に、非常に厄介な勢力になる予定でした。厳密にはお答えできませんが、この時間軸で先日行われたネルサイド協定とラドン連邦の戦争において、ラドン連邦側を勝利に導く存在かつネルサイド協定を叩き潰し、トドメまで刺せる存在があなたでした』
「……それだけの条件なら大量に候補がいるだろ」
『いえ。西暦2023年10月20日の地球上において、新暦2023年10月20日に送ってそれを為せる可能性があった人物は僅かに13人でした』
「西暦2023年10月20日時点以外では?」
『その質問は意味がありません。時間の流れというのは非常に複雑で、我々の技術では定点から定点に移送させるのが限界です』
お答えできる範囲であればお答えしますとのことだったけど、思っていたよりも大量の情報をくれる。えっと、とりあえず未来技術では西暦2023年10月20日から新暦2023年10月20日に送るのが精いっぱいだったと。送る際の条件としては、ネルサイド協定を滅亡させられる人物。そして恐らくこれから先、未来視点で都合の良い過去改変が期待できる人物ってところか?
……いや違う。大昔から昔に人物を移動させる過去改変において、一番大きいのはその大昔も改変が出来るという点だろう。もしもチンギス・ハーンを18歳の時に拉致し、100年後の世界に送り込めば、それだけでとんでもない改変になるだろう。
……ヒトラーも自分ぐらいの年齢の時にはただの美大落ちだし、スターリンも一般気象局員だった。大昔から昔に人を移動させるなら、そういう人間がまずは候補になるよな。
過去を改変するために大昔から昔に人を持って来るだけじゃ明らかに割に合わない。だとすれば自分は、本来の歴史上において何を為し得たんだろうな。恐らく未来に名を残していて、それでいて拉致した方が良いと判断したということは……ろくでもないことをしでかしたんだろうなあ。
「……どうせ自分の考えをある程度は読み取れるよな?
あってるか?」
『ええ合ってます』
「何?私達に聞かれたくないこと?」
「いや、単純にネルサイド協定戦以降も何らかの過去改変を為し得る人物だから稀人として移送したんだろって話。
……あれ、もしかして稀人が単独じゃない状況で話しかけたのは初?」
『いえ、7人目の方以外は傍に親しい者や家族が居りましたよ。
貴方もそうでは?』
何となく、自分が過去で何かやらかしている存在だということは隠しておいた方が良いと思ったのでフィアに突っ込まれた際は別の考えで話す。
……しかしまあ、何かやれとかそういうことは言ってこない辺り過去改変のルールみたいなのがあるっぽい。いや、自分が自由意志で都合よく動いてくれるから自分が呼ばれたんだろうな。どこまで過去に干渉出来るかは気になるし……。
「都合よく過去改変したいが生物は過去に送れない、なら殺戮ロボットとか送り込めないの?」
『……』
「ああああああ!レプリコンってお前らの仕業か!?それなら一定以上の進歩がないのも納得だわ」
「え?あっ、そういうこと?あのレプリコンって、過去を変えるために生み出されて、既に役割を果たし終わったから緩やかに勢力圏が減少してる感じ?」
「……というかヒノマルサイクツに食われるところまで織り込み済みな気がして来たぞ」
『……これ以上は何もお答えできません。休眠モードに移行します』
「それもう答えなんだわ」
とりあえずレプリコンの元は、未来から送り込まれた殺戮ロボということで、急に発生した理由も分かったし謎は残ったけど粗方の疑問点は解消した気分。というか不貞寝して誤魔化すとか、やけに人間臭いAIだな。不貞寝したフリの可能性もあるから警戒は止めないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます