第58話 食事

溶鉱炉の大きな開閉式の扉が開き、中にスクラップ船が入って閉じる。パカっと開いた時に中に見えるマグマみたいなのがスクラップ船を溶かす高温の液で、スクラップ船が溶けたら下に沈み、その下側にある工場みたいなところで船体部品を再生成する。


ほぼ想定通りに船体部品をスクラップ船から回収出来ているため、これだけでも資金繰りは何とかなるだろう。だけどそれとは別に、採掘した資源から船体部品を作る工場。こちらの利益率がえぐいことになっている。


「……分かってはいたけどチタンやシリコンをそのまま売るのとは大違いだな」

「船体部品を売るついでに大型輸送船も発注して来たけど、この調子だとあと3隻は輸送船欲しいかもね」

「5隻あったら150万P分を一気に運べるから……1P500クレジットとして1往復7億5千万クレジットかよ……」

「……その分の船体部品の素材を掘るのに5日かからないんだから凄まじいの一言だね」


シリコンやチタンの他に、その他の各種レアメタルも掘れる星系だし、船体部品まで一貫して作れる星系だから船体部品製造ステーションここにあったんだよな。マップが無くても儲かるぐらいには利益を出していたんだから、そこにマップを持ち出したらそりゃ儲かる。


溶鉱炉の方もフル稼働で1日に3万Pぐらいは生産してくれるけど、採掘の稼ぎの方が大きすぎるわ。というか戦闘機乗り達があれだけ頑張ってレプリコンの艦船を狩って、それを溶かして得る5日間の利益が15万P=7500万クレジットと考えるとちょっと差があり過ぎる。


その5日間の間に採掘隊は余裕で135万P分の船体部品の素材を掘る。確かに輸送船は5隻揃えた方が良さそうだな。1週間で150万Pの船体部品、を1つのラインにしておこう。工場部分をフル稼働させたら大体それぐらいだし。


……その内艦船部品の値下がりが起きそうだけど、戦時中だし極端には下がらないでしょ。


「……アホみたいに稼ぎ始めたのに、食事は結局それ?」

「いやプリンター飯上手いでしょ。肉でも魚でも好きなのが出るじゃん」


今日は大部屋の1つである食堂でフィアと一緒に昼食を食べ始めたけど、自分はほぼ毎回プリンター飯と呼ばれる、3Dプリンターみたいな機械で作る料理を食べている。素材の栄養価が全て同じだから何食べても栄養バランス的には何も問題ないという優れた料理。


それでいて味の再現度は高く、食感とかもほぼ差はない。何より価格が超安いのでコスパ的には断トツだろう。1食5クレジットもかかってない。


まあ完全栄養食の簡易糧食というカロリーメ〇ト的な食べ物が1食1クレジットで食べられるからコスパ的にはあれが最良なんだろうけど……どんなに味を工夫しても『生きるための餌』って感覚になる食事よりかはこっちのプリンター飯の方が良いかな。


ただこの本物と偽物の微妙な差異が獣人は許せないようで、獣人達は培養肉を使用した料理の方を好む。こっちは3Dプリンターじゃなくて自動調理器みたいな装置で培養肉の揚げ物だったり、煮込み料理だったり色々と作れる凄い奴を導入している。1食辺りの値段は50クレジットから100クレジット程度とプリンター飯の10倍以上の値段となる。


獣人の方が人間よりも嗅覚、味覚共に優れているっぽいし、高給取りになってしまったので我慢ができないのだろう。同じ人間のイザベラさんやアリアーナはプリンター飯の頻度が高いけど、獣人はみんな培養肉メインの料理だね。


確かに肉の脂だけは完全に本物を再現し切れていない気がするし、自分がそう感じるならフィアとかめっちゃ不快に感じるんだろうなあ。食事は基本給料から天引きだけど、休日でも日給1000クレジットを払っているから3食培養肉は余裕で出来る。


「獣人はお金持つとまず食から拘る感じ?」

「それは獣人だけじゃないと思うよ……?イザベラさんとか高いプリンめっちゃ好きでよく食べてるじゃん」

「あれ、プリンって高いのか」

「プリンターで作ってないなら1個200クレジットはするよ。プリンターで作ったら安いけど……スイーツ系食べたことないなら1回食べた方が良いと思う」


フィアに勧められて、プリンターで試しにケーキを作ってみると普通に美味しい。あ、でも何か生クリーム部分は変かもな。味はほぼ完璧なのに何かが違うと感じる。スイーツ好きなら許容できない差かな。


味は問題ないのに食感だけ僅かに差があるというのは、人によっては気持ち悪くも感じる部分だろう。最初からプリンター飯で食べて育った人とかだと分からないだろうし気にしないだろうけど……たぶんこれイザベラさんは両親の稼ぎが結構あったタイプだ。


「まあプリンターで食べる飯が一番健康的っぽいし自分はこれで良いわ。ケーキでも不味くはないしな」

「いやお金があるならもうちょっと拘ろうよ……そう言えば服もずっと同じだし身の周りに無頓着過ぎない!?」

「……洗濯と脱水が一瞬で出来るのって良いよな。1着で済む」

「貧乏なコロニストでももうちょっとマシだよ!?」


食事の後はフィアに引っ張られて空母内に作った衣装屋に放り込まれ、何着か服を買ったけど着回すのめんどいなこれ。あ、そうだ。機能性重視でヒノマルサイクツの制服を作ろう。白兵戦用に雇った人員は一応防護服みたいなのを統一させて持たせているんだけど、それ以外には買ってなかったし、丁度良い機会だ。

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