第56話 ハイパーレーン航法

エレーザ星系のステーション建設を始めてから、戦闘部隊はローテーションを組んで隣の星系まで行っては孤立した戦闘機や艦隊を撃墜してエレーザ星系まで持って帰るのを繰り返す。


正直マップを確認すれば隣の星系に敵艦隊がいるか分かるから、見張りは要らないんだけど形式的にハイパーレーンがある所には戦闘隊を1つ配置している。まあ万が一ってことはあるからな。確認出来るのが自分だけだから、見落としたりする可能性も普通にある。


「……ところで隣の星系ってハイパーレーン使わなくても行けるんだよな?」

「可能性としてはあるけどアキラはまずはハイパーレーンについて勉強した方が良いと思う」

「いや流石にハイパーレーンについては理解してるぞ?

……あのゲートを潜れば隣の星系にワープ出来るんだろ?」

「ちょっと本格的に授業しようか」


隣の星系への移動で使用しているハイパーレーンについて、自分が原理をよく分かっていないとフィアは察し、説明をしてくれる。……うん。何かめっちゃかみ砕いた説明をしてくれたお蔭で何とか理解出来た。とりあえず自分はこの世界だと頭が悪い。


……今までハイパーレーンという方法でワープするために存在していたと思っていたあのゲートは、ハイパースペースという空間への入り口らしい。そこでは光の速度を超えて加速が出来るから、通常空間だと無理な光速を超えての加速が出来てしまう。要するに、延々と加速が出来るということだね。


ただその空間も安全ではなく、不安定な空間だから、安全な通路だけを繋げたものを「ハイパーレーン」と言うわけだ。ちょっとでも角度がズレたらまず隣の星系に辿り着かないしね。そして光の速度を超えて加速し続け、隣の星系まで何光年とある距離を数分から数時間に縮める超技術とのこと。


ちなみにこれでもまだ正確な理解は出来ていないらしいけどフィアから「うんまあその認識で良いと思う」と言われたので一応妥協ラインには乗ったっぽい。


一方でゲートウェイは文字通り空間を湾曲させてワープしているらしいので漫画とかで出て来る『宇宙を1枚の紙切れだと考え、折り曲げて辿り着く方法』がこっち。実際に曲げているわけじゃないらしいけど詳しいことは分からん。というかそれが太陽系の近くにあったとか絶対過去の地球は観察されてたじゃん。


で、このハイパーレーンを利用せずに移動しようとすると隣の星系まで年単位の時間が必要になる。……マップでは今いる星系と、隣の星系まで見れるんだけど、その間を移動している船は視えない。つまりはまあ、超気長な旅をしている奴はいないと。ここレプリコンの勢力圏内だったし、ハイパーレーン以外で隣の星系に行こうと試みる奴がいなかった模様。




「げっ、空母3、戦艦4、巡洋艦17、駆逐艦は……82か?

大規模な艦隊が北のユレーザ星系に来ている。全艦船は一旦ステーションに集まれ」


ステーションの建設が順調に進んでいると思ったら、北側からかなりの規模のレプリコンの艦隊が現れ、一直線でここエレーザ星系に向かっていることをマップで確認する。この規模の艦隊に襲われたら普通だと全滅もあり得るな。逃げの一手しかないんだけど……。


「第一戦闘部隊、全艦戦闘用意が完了したです」

「第二戦闘部隊も同じく。ヒノマルサイクツ初の危機ですね」

「少しでも無理だと感じたら撤退するぞ。……あと今回ばかりは救助最優先の思考を捨てろ。敵艦船の方が明らかに多い。そんな状況で救助は無茶だ」


流石にスクラップの山とステーションを全て放棄してすぐに逃げる選択肢はない。この宇宙船の残骸だらけの宙域。マップが手元にある以上、上手く戦えば撤退させられることも可能なんじゃないか。


必死に足りない頭でこの戦力差を埋める戦術を考えて、迎撃の準備をしていると、北のユレーザ星系からやって来たレプリコンの艦隊は、エレーザ星系の中央部分を避けるように弧を描き北東部分を通り、東のベレーザ星系へ抜けていく。……あれ?嘘でしょ見逃された?


「……そう言えば忘れてたけど、普通、向こうはこちら側がどんな規模の艦隊なのか分からないんだった」

「いやそれぐらいは偵察機でも飛ばせば分かるだろ。でもまあ、相手視点でこちらがどのような規模の艦隊か分からない以上、安易に仕掛けられないのか」

「機械知性がスクラップの山にビビって逃げたです」

「……あの艦隊、たぶんネルサイド協定の方へ行くんですよね」


そのままベレーザ星系も通り抜けていく、レプリコンの大規模な艦隊。襲われていたら一溜まりもなかっただろうけど、運が味方したのかな。


……いや違う。自分がピンポイントで偵察機や哨戒部隊を撃破しまくったせいでレプリコン視点ではここに超大規模な艦隊があると錯覚しているんだ。最近だとエレーザ星系に1機の戦闘機すら入れさせてなかったからな。あとはまあ、ネルサイド協定の方が対処の優先度高かったのかな。


あの規模の艦隊に襲い掛からなかった時点で、こちら側の戦力も見透かされた感じはする。ネルサイド協定との戦闘が片付いたら、次は自分達だろう。……ネルサイド協定の善戦に期待するしかないな。

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