第55話 ネルサイド協定②
ネルサイド協定の保有する宇宙大麻製造ステーションには、5つの宇宙大麻製造モジュールがあり、毎日フル稼働で宇宙大麻を生産し続けていた。この宇宙大麻はネルサイド協定に莫大な利益をもたらし、大規模な艦隊を幾つも持つようになる。
そしてラドン連邦へ宣戦布告を行い、レントール星系へと攻め入る軍勢のトップに、ネルサイド協定のランタンという男が居た。ネルサイド協定のトップ2であり、宇宙大麻による利益を艦隊へと注ぎ込み、海賊行為に傾倒する流れを作った張本人である。
レントール星系にて、ネルサイド協定軍はラドン連邦軍相手に優位に戦っていた。このまま行けばレントール星系に駐屯するラドン連邦の軍は撤退し、比較的居住可能惑星の多い北東第四セクターへの足掛かりを手に入れられる。
そんな考えは、一通の通信によりひっくり返る。
「『ヒノマルサイクツがイレーヌ星系に現れて宇宙大麻製造ステーションを破壊し宇宙大麻を全て回収した』だと!?寝惚けているのかあいつ等!?」
「セットで映像も……何だこれ。まさか、全部破壊されたのか!?」
ランタンの乗る戦艦の艦橋部分では、スクリーンに映像が投影され、宇宙大麻製造モジュールが見るも無残な姿になっている光景を目の当たりにする。即座に、ヒノマルサイクツを追いかけるべきだとランタンは判断した。
アキラの予測通り、イレーヌ星系に溜め込んだ宇宙大麻と宇宙大麻製造ステーションは、間違いなくネルサイド協定の命綱だった。
「ヒノマルサイクツを絶対に逃がすな!エレーヌ星系で迎え撃つぞ!」
「あの……ヒノマルサイクツは北に逃げたそうです。ディレーネ星系で幾つかの宙賊基地が破壊されています」
「はあ?あいつらがどうやって北から逃げるんだよ!?」
もうしばらく戦えば、勝利していたであろう乱戦を解き、ネルサイド協定軍はエレーヌ星系に戻る。そのまま北上を続け、実際にイレーヌ星系の宇宙大麻製造ステーションにまで辿り着いた時、ランタンはヒノマルサイクツがここから北へ向かったことをようやく確信する。
「ここまでの道のりですれ違わなかったということは、本当にディレーネ星系、そこからシレーネ星系へ向かったのか。ということはパラディ社が関わっているだろうな」
「ヒノマルサイクツは獣人の戦闘機乗りが多いと聞きます。シンカー共同体やシンカー解放戦線の方へ逃げ込んだ可能性も」
『……おい、ステーション管理者。ステーションに残っている宇宙大麻は何Pだ』
『……何一つ、残っていません。宇宙大麻以外にも、全ての物資がありません』
『……てめえらは一体何をやっていたんだ!』
ランタンの怒号が飛び、ステーションの管理者は委縮する。しかしその後、ステーション側から見たヒノマルサイクツの映像をランタンに渡すと態度が変わる。物資を提供しなかった場合、ステーションを丸ごと吹っ飛ばされて残骸から宇宙大麻を回収されていたであろうことがランタンも把握できたからだ。
『イザベラ、宙間魚雷を宇宙大麻製造モジュールに撃て』
『やっぱ葉っぱ育ててるだけあってよく燃えるな』
『3つ目破壊完了。あと残り2つだね?』
『今更物資出してきても遅いわ。というか1万Pだけとか舐めてんのかお前ら。18万Pだけじゃなく18万21P分、あるだけ全部出せ』
『物資を出さないなら次で最後だ。ステーション本体って結構高いけど良いのか?』
『……よし、貯蔵している物資は粗方出し切ったか。宇宙大麻が0になったのはこちら側でも確認した。ご苦労様』
「……そうか。ステーション本体の破壊も視野に入れるような奴だったのか。よく考えてみれば、うちの船を見て奪うという発想が出る男だ。人命よりもステーションの価格の方で脅しているのを見るに、間違いなく破壊していただろう」
宇宙大麻製造ステーションが機能を停止し、宇宙大麻の在庫どころか大半の物資の蓄えが全て無くなったこの瞬間、ネルサイド協定の財政は火の車となった。そんな折、テラニドカンパニーから『レプリコンの戦闘機のスクラップを相場の1.5倍で買い取る』という依頼が入る。
元々ネルサイド協定はレプリコンのスクラップ船の解体をして日銭を稼ぐようなこともしていたため、レプリコンと戦うノウハウはある。渡りに船な依頼だった。
「……あの金儲けしか考えないテラニドカンパニーが、こんな依頼を出してくるとか俺達への情けか?確かに残っているのは戦闘力だけだが、妙な依頼だな?」
スクラップ船が何故レプリコン相手に限定されているのか、ランタンを含め疑問を持つ者は何名かいたが『レプリコンとはテラニドカンパニーが取引出来ないため、とりあえずネルサイド協定の武力を活かした依頼』だと考えると辻褄が合ってしまう。
ヒノマルサイクツを間接的に助けているという考えに行きつく者は、当分の間出て来なかった。しかしそのことにランタンが気付いた時、相手をしていた存在は、自分達が想像していたよりも遥かに邪悪な存在だったということを理解し、背筋が凍るような思いをしたという。
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