第52話 星系確保

ステーションは防衛設備を多数保有していることも多いが、今回襲ったレプリコンの船体部品製造ステーションはさほど武装が多くなく、空母が盾となりながら戦闘機や駆逐艦がローテーションで表に出て地道に防衛設備を破壊していったため、特にこちら側に損害なくステーションの防衛設備を無力化した。


その後、移乗攻撃用のポッドを射出して占拠しようと思ったけどその前にドローンを飛ばしたらステーション内部は既に宇宙空間と同じ真空状態となっており、色々と罠もありそうだったのでステーションの本体部分だけ戦闘機達が細かく破壊してステーション部分だけ作り直すことに。


……このタイミングで、マレーザ星系の星系基地をラドン連邦が破壊したことを確認する。アリアーナがラドン連邦と交渉した結果、マレーザ星系をヒノマルサイクツが制圧し、ラドン連邦が占領する。これを認めることでこのエレーザ星系の保有許可を得た。ついでにラドン連邦の庇護下のまま、銀河の一勢力としても認められた形となるね。


まあラドン連邦視点、1星系分の領地を確保出来る上に敵であるレプリコンと接する国境が減るんだから、その後のことを考えなければお得な取引だっただろう。……エレーザ星系から見てレプリコンの星系は東と北に2つ隣接しているし、これからこの星系を保持するのは通常だと難しい。普通ならレプリコンが取り返しに来るから、どうせ耐えられないというラドン連邦の判断は正しいね。


「今のところ、両隣の星系にレプリコンの大規模な艦隊はない。ただまあこのままだと大規模な艦隊が襲って来るのは時間の問題だろうな」

「……ネルサイド協定が動くかどうかだね」

「動くだろ。元々ネルサイド協定はレプリコンに追い出されて集った難民達が作った組織だからな。お金がなく、収入源も断たれた。でも、艦隊だけはある状態。レプリコンのスクラップ船を高く買い取ると言ったら対レプリコンのために動くだろ」

「結局ラドン連邦とネルサイド協定の停戦協定は、ヒノマルサイクツも引き継ぐから独立したヒノマルサイクツへの復讐も出来ない。それならレプリコンに攻め込んで、領土を確保しながらスクラップ船を売るのがネルサイド協定としての最適解ではあるんだけど……」


でもネルサイド協定がレプリコンの勢力に攻め入る予定なので、こっちにまで艦隊を向ける余裕はないんじゃないかな。何よりエレーザ星系より先の星系基地について破壊はしないつもりだ。戦闘機を狩るために勢力圏に入ることはあれど、勢力圏を削るようなことはしない。そうすることで優先して対処すべき勢力はネルサイド協定になる……はず。


そもそもネルサイド協定はレプリコンに故郷を追い出されて集った難民達の寄り合い所帯らしいし、レプリコンに対する恨みの方がヒノマルサイクツへの恨みよりも大きい……と良いなあ。でもまあ、ネルサイド協定相手でもテラニドカンパニーを挟めば取引は可能だった。


「ネルサイド協定にスクラップ船の依頼を出したのはテラニドカンパニーよ?動くに決まってるじゃない」

「その依頼の大元がヒノマルサイクツだとネルサイド協定が知ったら絶対に動かないだろ。テラニドカンパニーは中抜きだけ出来る美味しい状況なの羨ましいわ」

「輸送費用を考えたらトントンだし上層部の中には渋い顔もあったわよ。……でもこの案が通る辺り、少なくとも貴方に対するテラニドカンパニーの評価は高いわ」


もちろん、ネルサイド協定相手にヒノマルサイクツが直接依頼なんてすれば100%向こうは反発する。だから自分が行ったことはテラニドカンパニーに対して「レプリコンのスクラップ船が欲しい」と注文をしただけだ。


そして『何でも売る』と豪語するテラニドカンパニーは自分との取引を行うため、ちょうど宙ぶらりん状態になった武力だけはあるネルサイド協定に対してレプリコンのスクラップ船を集めるよう依頼を出した。流れとしてはこれだけ。


ヒノマルサイクツは薄利だけどスクラップ溶鉱炉を早くから稼働させることが出来る。テラニドカンパニーは中抜きが美味しい。ネルサイド協定は日銭を稼げる。誰も損をしない優しい世界。その上でレプリコンの戦力を分散させることが出来るんだから自分達はやらない方が損なレベル。


「よし、こちらに集まって来るレプリコンの艦船数は少ないな。ということは現在進行形でネルサイド協定も攻め入っているはずだ。まあネルサイド協定がいるシレーネ星系方面の方がレプリコンにとっては重要だから当然か。あっちの方がレプリコンの中枢に近いし」

「……正直、初めに案を聞いた時は貴方が悪魔だと思えたわよ」

「宙賊使って宇宙大麻育てるネルサイド協定相手に真っ当に生きる手段を与えたんだから天使側の人間でしょ」


今回のレプリコンのスクラップ船をテラニドカンパニーから買う流れについてはアリアーナに頑張って貰って実現した側面もあるのでアリアーナには感謝。ぶっちゃけ今回の働きだけで元は取った気分。


ネルサイド協定ぐらいの武力を持つ艦隊を都合良く動かそうと思ったら数億クレジットのビンタでも動かない可能性があるから、上手く行って良かったと言うしかない。……いつかバレるだろうけど、それまでは利用し続けよう。

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