第47話 シミュレーター 後編

この世界のシミュレーターの艦隊戦で、初心者が上級者に勝てることは非常に稀だ。そしてイチカは上級者側であり、孤児院にいる1万人以上の獣人の中のトップである。


(っぐ、これ慣性の力で横を向きながら進んでいる戦闘機や駆逐艦が複数いるの!?まだ前線は優位だけど、下手したら……)


しかしイチカは最初の予想以上に苦戦していた。妨害電波を止めること、バックする戦闘機、横っ飛びする駆逐艦、全体が見える故の読み合い……どれも仕掛けて来る相手は少なからずいたが、全て複合させるような相手はいなかったためだ。


そしてイチカはアキラが「範囲外に出ていて存在が消えていた艦隊が横っ腹からの急襲」をして来た瞬間に安堵し、それに対応すべく艦隊を動かす。無事に奇襲への対処が済み、イチカが少し安堵していると、嫌なものがレーダーに表示された。


(嘘、何でそんなところに駆逐艦……しかもシールド積んでないってことはステルス火力特化!?サブの兵装もない二連主砲って不味い!?いつからこんな……まさか、最初に端で開戦した時から!?)


防御を完全に捨てた、シールドがなく一見デブリに見えるステルス駆逐艦。策に策を重ねられた結果、出来た艦隊の僅かな隙間を通り抜けるような移動をしており、イチカが乗船している設定の駆逐艦は、侵入して来た駆逐艦の主武装であるガウス砲の射程範囲に、入りかけていた。即座にイチカは対処するも、ガウス砲は発射され―






「ちくしょうあと一歩だったのに」

「……あの戦いが初めてだったんですよね?冷や汗掻いたんですけど」

「実践は何回かあるけどシミュレーターで戦争したのは正真正銘あれが初めてだよ。というか駆逐艦の有効視界を誤認してたわ。惜しかったなアレ」

「さっきリプレイ見ましたけどあの駆逐艦が大回りしていたのは現実の有効視界を意識していたんですね。あれが無ければ3秒は早かったことを考えると……」

「たらればは言い訳にしかならないし、負けは負けだ」


イチカとシミュレーターで戦ってみたらわりと惨敗だった。大将落とせば勝ちだから奇襲は仕掛けたんだけど上手く行かず、秘策も失敗して完敗。終始前線は押されっ放しだった。将棋とか囲碁とかもそうだと思うんだけど、初心者が幾ら奇策を使っても上級者は倒せないよ。頓死狙うしかなかったわ。


そして休日にも関わらず社長の惨敗っぷりを見に来た従業員が多かったため、人は集まっており、その後も色んな人がシミュレーターでイチカに挑んだけどイチカが全勝していたのでたぶん滅茶苦茶強い。シルフィやイザベラさんでも敵わなかった時点で将来的には採掘部隊から戦闘部隊に異動して貰う事は確定した。もっと早く言って……?


あとニノもイチカに次ぐ優秀な人材なので採掘隊の方が全体的に成績良かったという。まあ今のところあのヤベー孤児院の上位数%を雇っていることになるから致命的に頭悪い人はいないんだけど。というか少なくとも父親は優生学の極致に至ってるような存在だし頭良い奴しかいないか。


「しかしまあシミュレーターって色んなこと出来るんだな。何台か買いたいわ」

「……そうだった今ならシミュレーターでも買えるじゃん!訓練用にもなるし何台か買ったら?」

「値段は、1台50万クレジット?……20台ぐらいで良い?

アリアーナは空母の中部屋に全部入るか計算しといて」

「20台は難しいわね。このサイズのシミュレーターなら中部屋に15台ってところよ」


フィアにも勧められたのでシミュレーターの値段を確認し、1台50万クレジットと聞いて30台を即決で買う。訓練用に一々借りるの面倒だったしそろそろ完成する空母の内部がすっからかんなのでちょっとでも物で溢れさせたい。


医療用ポッドとかは元から結構な数が付属しているけど、軍用だったから娯楽品は少ない。シミュレーターぐらいは大量に買っておいて良いでしょ。トレーニングにもなるだろうし、これからは新人の質が落ちそうなことを考えると先行投資は必要。


……シミュレーターで中部屋の2つを埋めても、あと中部屋が28部屋あるのはどうしようか。大部屋なんか1つは食堂にする予定だけどあと4つある使い道が分からない。戦闘機乗りのための個室はちゃんと200以上あるし、というか個室は400あるから内部が広すぎる。


最低規模の艦隊2つを丸々格納できる格納庫があるんだから大きいのは知ってたけど、いざ納品された時に中身がすっからかんだと寂しい。というか追加で何か必要な改装があれば指示をくれとも言われたし。よし、もう一つの大部屋はトレーニング設備でも置いておこう。


「アリアーナは大部屋の方、残り3部屋の内1つはトレーニング用の設備揃えておいて。予算は600万クレジットで」

「本当に全部丸投げしてくるの頭どうかしてると思うんだけど」

「あとの残り3部屋は適当に良い感じにしといて。1部屋の予算は500万クレジットね」

「あ、私1部屋使いたい。今からプールに改装出来ないかな」

「プール作れるのか。じゃあ温泉……じゃなくて展望風呂も欲しいな。アリアーナに任せる大部屋は1つになりそうだ」

「元から大きな入浴設備は付いているんだけど?あとプールや大浴場は高くなるわよ」

「入浴設備とは別に馬鹿でかい大浴場が欲しい。あとお金に関しては多少高くなっても差額分の方が大きいから5000万クレジット程度なら問題ないことは確認した」


大部屋は本当に広いので、プールぐらいは余裕で配置出来るだろうし、プールが行けるなら大浴場も行けるだろう。フィアはこういう時に出来ない提案しないタイプだし、あらかじめプールを設置できるのは把握済みなはず。……完全に豪華客船のノリだな。

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