第46話 シミュレーター 前編

イチカを呼び出してシミュレーターでの艦隊戦を挑んでみたら「良いですよ!」と結構ウキウキで快諾してくれたのでハストール星系の交易ステーション内にあるシミュレーターをお借りして艦隊戦開始。ゲーセン行ってる気分だけどシミュレーター2台を半日借りるのに2000クレジットはまあまあ高い。


マップは架空の星系で、艦船の数は互いに上限500隻まで。具体的には戦艦1隻、巡洋艦4隻、駆逐艦16隻、コルベット64隻、戦闘機256機と綺麗に各艦種が同等の戦力になるようになっていて、例えば巡洋艦を1隻減らした場合、その分コルベットなら16隻、戦闘機なら64機増やせる感じ。


で、コルベットと戦闘機はもう互いに1機ずつ武装を弄れないように設定した。正直細かく武装決めるのめんどい。逆に駆逐艦以上は制限なし。色々と武装を弄れるんだけど超電磁砲やらイオンブラスターやら珍兵器が大量にあるのでめっちゃ面白い。


……初期設定だと戦艦が旗艦だけど崩して全部駆逐艦にしよ。巡洋艦2隻、駆逐艦40隻で良いや。旗艦は巡洋艦で。


「ごめん、最初の1戦目はシミュレーターがどういう感じなのか把握したいからこっちは武装変更無しでほぼオートでも良い?」

「良いですよ。こちらも久しぶりなので1戦目で感覚を取り戻しておきます」


で、実際に戦ってみるけど本当の艦隊戦の難しさを知る。妨害電波が飛び交っているから端の味方との連携も取れねえ。最初の指示しか通じないってことかよ。


画面のマップには把握出来た敵船しか表示されないし、艦船の向きが分からない赤点だけだし、非常に辛い。あ、でも基本的に船は前進しかしないから進んでいる方向が前か。


……三次元で戦闘が行われるんだけどこれが余計に混乱する元。考えないといけないことが多すぎる。


とりあえず最初は操作感を掴みたいからとほぼオートで戦闘していたら、あちこちで半包囲決められてボロッボロになる自軍。……向こうも巡洋艦2隻、駆逐艦40隻と同じ構成なのは意外だった。戦いは数だよ兄貴ってことかな?戦艦も強そうなんだけど手数優先かな。


一応このシミュレーターのオートはAIが操作しているから結構強いらしいけど、それに勝つイチカは相当な腕前なんだと思う。この世界の艦隊戦がどういうものなのかちゃんと把握したら、各艦船のパラメーターを弄り回して2戦目を開始。……勝ちたいけどさっきの戦いぶりを見るに相当厳しそうだなあ。




アキラとイチカの2戦目は、アキラの艦隊が全力で後退するところから始まった。


これに対して、イチカはいきなり深追いすることはない。後退する艦隊に対して、追いかける必要がないからだ。このシミュレーターでの艦隊戦は、中央部分を中心とし、徐々に戦場の範囲が狭まる。


この範囲の外に出るとシールド値に関係なく船体値にダメージが入り、轟沈するため、追いかけなくてもアキラはいずれ前進せざるを得ない。中央を陣取ったイチカは、この時点でアキラの戦術を幾つかまで絞っていた。


その中でも「あえて範囲外に出て移動し、横っ腹から急襲」をイチカは警戒する。初心者であればまず選択肢にも思い浮かばないことだが、アキラの性格的に、例えシミュレーター初心者でもこの戦術をとって来る可能性があると判断したためだ。


実際その判断は当たっており、アキラは数隻の船を範囲外に送っている。しかし全ての艦船で強襲するような博打はしておらず、大半の艦船は範囲内に居座っている。そして早くもアキラの両翼の艦隊が右往左往し始めた。それと同時に、アキラの艦隊の妨害電波が完全に止まる。


自軍の両端との通信が取れない場合の最終手段として、自軍の妨害電波を止めるという手段は一応あるが、当然自軍の妨害電波が止まれば自軍の動きは相手にほぼ丸見えである。そしてイチカは、アキラがわざと艦隊の動きを見せつけていると判断する。


(奇策で有名だった人でもここまで派手な手を連発することはしてこなかったかな。

……相手の艦船の動きが手に取るように分かるというのは不思議な感覚だね)


相手の艦船の動きが丸見えになったところで、一見すると孤立しているような艦船もあるが、それらは全て罠だと見抜いたイチカは、アキラが偵察のために飛ばしている戦闘機を落とそうとし、逆に落とされる。そのまま数機を落とされ、初めて自体を把握する。


(ああ、幾つかの戦闘機はバックしてるんだ。……相手の艦船の動きがよく見えるから、つい後ろから襲う指示を出したけど、実際は進行方向とは逆を向いてる船が幾つかあるってことだね)


進行方向が前という固定観念のせいで数機の戦闘機が落とされ、イチカが僅かに不利になった瞬間、明確にアキラの艦隊は端から攻撃を開始した。アキラの艦隊が丸見えなために適切な対処が出来てしまうイチカは、その中で逆に対処を読まれて艦船が撃墜されていく。互いに読み合いになり、明らかに普通の艦隊戦とはかけ離れたものとなっていった。


また、イチカの想定以上に「バックしている戦闘機」の存在は鬱陶しく、想定以上に被害が出る。それでも持ち前の指揮力を活かし、優位に戦線を押し上げているのはイチカの方だった。

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