第40話 監視の目
「……何で私達、戦争相手の中心部にまで侵入して大量の宇宙大麻を略奪したんだろう?」
「しっかりしろフィア。戦争相手の継戦能力を根こそぎ掻っ攫うためだろ」
「それ建前でしょ!?たぶんネルサイド協定が地の果てまで追って来るレベルで喧嘩売ったよ!?」
「もう既に地の果てまで追いかけられるレベルの悪行やってるからセーフ。まあでもたぶんネルサイド協定の生命線を断ち切ったのは大きいな。……恐喝してステーションにいる数千人の命を人質にしたし、素直に宇宙大麻製造ステーションの管理側が脅しに屈したのは奇跡」
「……ステーションを破壊してから回収するって言葉は、本当はやるつもりなかった?」
「さあ?どうだろうな?」
イレーヌ星系の宇宙大麻製造ステーション襲撃した後。フィアが改めて宇宙大麻の山を見て、金額を概算した後ちょっとだけ意識が飛んでいた。いやまあ現金換算で100億クレジットはあまりにも大きすぎて実感が湧かない。あと何なら別の物資でも合計すると相当な額というか、宇宙大麻以外の貨物だけでも合計で1億クレジットぐらいはいく。
まあでも大きいのは宇宙大麻だ。これを保持したまま、マレーヌ星系とエレーヌ星系を通り抜けてレントール星系に戻りたいけどこの量の宇宙大麻を強奪したことがネルサイド協定軍にバレたらラドン連邦軍との乱戦を解いてでも全軍で襲い掛かって来るだろう。
このまま南に逃げても監視の目は付いているだろうし逃げ切れない。というわけで更に北のディレーネ星系へ侵攻。一番手薄な星系だったのであちこちの基地を襲い、適度に略奪を繰り返す。……ここに来てシレーネ星系の様子を窺うことが出来るようになったけど、ネルサイド協定の戦艦2隻、巡洋艦26隻、駆逐艦110隻はここにいる。
なおレプリコンの空母が3隻、巡洋艦が6隻、駆逐艦が36隻見えると同時にシンカー解放戦線の艦隊とパラディ社所属の艦隊も見える。共同で殺戮機械レプリコンの艦隊を追い返している、というわけじゃなくて全勢力が全勢力を敵視している、睨み合いを続けているような状況だな。
「よっし、シレーネ星系からレプリコンの領域入るぞ。思っていた通り、星系全部を監視なんて出来てないわ」
「そりゃ1星系全部を隅々まで監視なんて出来ないけど正気!?見つかったら間違いなく押し潰されるよ!?」
「正気。これでイレーヌ星系から更に北のディレーネ星系、あとシレーネ星系でも攻撃する予定だから宇宙大麻製造ステーションでの略奪後に北へ向かったことは向こうも把握出来るだろ」
今、シレーネ星系のゲートウェイはパラディ社が占拠をしている。ここのゲートウェイからラドン連邦から見て南のパラディ社の領域へワープすることが出来るんだけど、今回はそれを使ったとネルサイド協定に思わせて、人類の完全敵対勢力であるレプリコンの領域に突入する。
……元々ラドン連邦が勢力を伸ばしていたところを、レプリコンが奪った形だからこの辺の地図はしっかり残っている。で、思っていた通り大体の勢力の軍隊って纏まって行動する分、星系の隅々まで監視することは不可能というか視界の届かないところの方が多い。
これは殺戮機械であるレプリコンの勢力でも同じようで、結構星系の中は艦船がまばらだ。というかレプリコンの勢力内の星系の方がスッカスカである。資源地帯と造船ステーションを結ぶ一直線にしか採掘船が移動してないし。ただ少なからず巡回している艦隊や戦闘機はいるから、勢力圏内で見つかりでもしたらすぐにわらわらと大軍が押し寄せて来るだろうね。
「……シレーネ星系で大きく暴れるのは無理だな。このまま隠れてシレーネ星系の北のキレーネ星系に行って、そこからぐるっとラドン連邦の星系まで戻って来る」
「方角的にはキレーネ星系から西、南、南、西、南、南、南東と7星系を移動し続けたらラドン連邦の飛び地に戻って来れる計算になるけど……アキラが寝ている時はどうするの?たぶん最速でも3日はかかるよ?」
「寝れるタイミングで短時間の睡眠取るわ。思っていた通りスカスカだし最悪接敵しても何とかなる戦力だろ」
「……ここまでしてエレーヌ星系に戻った時に、ネルサイド協定の本軍と鉢合わせしたら最悪だね」
ちなみにパラディ社はラドン連邦と敵対している勢力なのでゲートウェイを使う選択肢は元からない。事前に話を通せる相手でもなかったし。パラディ社とテラニドカンパニーも敵対勢力同士なのでゲートウェイに近づくだけでパラディ社の艦隊と衝突することになると思う。でもそんなこと、ネルサイド協定側はわからない。
敵地のど真ん中を進むことになったけど、レプリコンの艦船の配置がマップで全部分かる上、進行方向まで分かる以上、捕まることはない。長時間の睡眠はとれないけど、1時間や2時間の睡眠を適時取れそうなので身体的にはそこまでしんどくないかな。
常時戦場という言葉が相応しいシレーネ星系で、戦闘が始まりレプリコンの艦隊が戦闘している隙を突いてレプリコンの勢力圏に突入。結構ドキドキしたけどわりとあっさり決まったし拍子抜けである。
その後はゆっくりと、慎重にレプリコン勢力圏を練り歩き、ラドン連邦の飛び地を目指す。部下達は最初かなり心身をすり減らしていたが、2日目の夜ぐらいには慣れて操縦当番以外は巡洋艦や駆逐艦の中でぐっすり寝ていた。何なら操縦当番も寝ていた。自分の船を追いかけるだけとはいえ、敵地でオート航行するんじゃないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます