第41話 強行突破

さて。レプリコンの星系を軽く周遊して目的のラドン連邦の隣の星系までやって来たんだけど、流石に前線は艦船が多い。


とはいっても、例のチョークポイントよりかは大事じゃないみたいで巡洋艦を中心とした小規模の艦隊が幾つかいるぐらいだ。巡洋艦1隻、駆逐艦6隻という、この世界ではわりと一般的な編成の小規模艦隊。そう言えばネルサイド協定の大麻製造ステーションもこの編成だったな。


この規模の艦隊が1つ、ラドン連邦の領地とのハイパーレーンを封鎖するように鎮座しているので、攻撃を仕掛けて突破するしか選択肢はない。というわけで唯一マスドライバーというただ質量をぶつけるだけの兵器を搭載しているフタエの駆逐艦が、超遠距離から狙撃を開始。


……当たれば超強い攻撃だけどまず当たらない、ただ質量を敵にぶつけるだけの攻撃は、見事に連続して敵艦船に当たり巡洋艦1隻、駆逐艦2隻を一気に沈める。何が強いってこの子船で最高速度を出している状態でも質量兵器の射出をして敵に当てられるから、慣性の力も働いて超スピードの質量弾をぶち当てることが出来る点だね。なお角度が0.01度でもズレたら100%外れる欠陥兵器。自分は互いに静止している時でも当てられない。


相手がようやくこちら側の艦隊を捕捉するけど、もう既に包囲完了しちゃっているので駆逐艦4隻VS巡洋艦2隻&駆逐艦10隻ならまあ負けない。近場に他の艦隊はいない状況で襲ったので、応援は当然間に合わない。


ラストはシルフィがミサイルを連続で叩きこんで最後の駆逐艦を沈め、完全勝利でハイパーレーンに突入。無事、ラドン連邦の飛び地となったトレーヌ星系まで帰ってきた。ここにいれば隣のエレーヌ星系の状況も確認出来るししばらくは潜伏しておこう。


……ここトレーヌ星系は、居住可能惑星が無ければステーションも小型の交易ステーション1つという寂れた惑星なので人もほとんど寄り付かない星系だ。資源もほとんどないし、そもそも星系自体が小さい。まあ、隠れるなら持って来いの惑星だな。一応レプリコンと国境を接している星系なので要塞はあるけど艦隊はいない中途半端な状態。


「レプリコンは……追いかけて来ないどころか向こう側のハイパーレーン付近の防衛を固めるだけだな」

「……これ、レプリコンからも要注意団体としてマークされるんじゃない?」

「いやまあそれは別に良いだろ。交渉が通じない機械文明だしマークされても特に問題ないというか警戒がザルだったからあんまり怖くない」


その後、一瞬だけエレーヌ星系へと移動するけどレントール星系には既にネルサイド協定の艦隊がいなかった。レントール星系の交易ステーションや酒場ステーションがラドン連邦所属のままだから何とか耐えたか。


無事にネルサイド協定の艦隊と鉢合わせすることなく、レントール星系まで戻ったところでネルサイド協定とラドン連邦の和平が発表される。どうやらマレーザ星系とイレーヌ星系とディレーネ星系の3つはネルサイド協定の領土に、エレーヌ星系はラドン連邦の領土のままというラドン連邦側が若干不利な内容で和平を締結。同時に5年間の停戦協定も結ばれた。


まあ元々イレーヌ星系には巨大な宇宙大麻製造ステーションが建造されるぐらいにはネルサイド協定の領土だったし、今回のネルサイド協定の侵攻で星系保持のための星系基地も壊されたならラドン連邦は手放すしかないか。……エレーヌ星系をネルサイド協定側が返したのはちょっと意外だったけど誰かさんのせいで何百億クレジットという損害が出たせいかな?


「5年の停戦協定って信用出来るの?絶対またすぐ攻めて来るでしょ」

「いや、攻めては来ないと思うけど……こっちからネルサイド協定に仕掛けるのもダメになったよ。宙賊判定になってる艦船なら襲っても良いけど」

「……あー、もう駆逐艦奪えないのか。ディレーネ星系やシレーネ星系に居た時に数隻拿捕しておきたかったな」

「いやそれよりももっと凄い物奪ったでしょ。

……これ買い取って貰えるのかなあ」


フィアに聞くとこの世界、停戦協定だけは守る暗黙の了解というかそういうのがある模様。まあ停戦協定すら破るなら講和が出来なくなって絶滅戦争不可避だから停戦だけはって感じなのかな。


ラドン連邦も即応艦隊をすぐにまた南に向けたみたいで、パラディ社との戦争は今だに続いている。……『楽園』を自称するパラディ社の勢力圏についてはちょっと調べたけど、こっちはこっちで全体主義というかかなり思想が赤い。


元々は、他社製品の模倣を繰り返すパロディ社という名前の会社だったらしいし。……最初から結構な悪徳企業というか特許ガン無視で製品を安く大量生産し、廉価品で荒稼ぎをするヤバイ企業。


そのパロディ社をラドン連邦が解体しようとしたら反発されて戦争入りしたって感じ。その時にはすでにある程度の艦隊を保有していたパロディ社はパラディ社と名前を変え、ラドン連邦の南の辺境に楽園を作るとか言い始めた。ここまでが100年前の出来事。


当初は早々に潰されるかと思われたパラディ社の勢力は、レプリコンがラドン連邦への猛攻を開始したことと、更にパロディ社が南の勢力からの援助を受けて一勢力として成長。ラドン連邦の仇敵に進化する。……よくラドン連邦は滅びてないな。上下左右全部ヤベー勢力に絡まれてるじゃん。


まあそれだけラドン連邦の勢力図も広いということだろう。一段落ついたところでハストール星系の交易ステーションに降り立ち、宇宙大麻の売却手続きをしていく。……合計金額は、110億クレジットぐらいになるかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る