第32話 三次元

この宇宙における艦隊戦は、上下の概念がある。


当然と言えば当然で、ずらっと横に並んだ艦隊でも上や下を通られると通過を許してしまう。


だからこそ、無数の戦闘機で上下左右四方八方全てを警戒する。基本的に、すべての艦船は主砲が前方についている。……動力が無限じゃない上に、シールドにもエネルギーが使われる以上、どの方向へ攻撃を注力するか考えたら前方しかないわな。


もちろん、上下にも砲がある船は多いしそれらは後方を狙って撃つことも可能だが、最初は前方を向いているだろう。その状況で、即座に後ろを撃つことは難しい。


だからこそ、艦隊は裏に回られることを嫌がる。というか艦隊戦って最初は戦闘機達が小競り合いをしながらの裏取り合戦らしいし、そこに混ざっても小規模な自分達の艦隊で出来ることは少ない。裏取れたら大きいけど……。


それなら敵味方が入り交じり裏取りへの警戒が薄れ始めた段階で抜け出して、敵の後方へ進出後、戦闘宙域から離脱してきた敵艦船の拿捕に注力しよう。後方からの攻撃は、機を見てやる感じかな。隣の星系までマップで見れるため、追加の援軍が来て挟み撃ちを食らうような下手は打たない。


「レントール星系、ハストール星系、イントール星系の駐屯軍が合わせて巡洋艦6隻、駆逐艦18隻か。相手は3つの軍が合流して戦艦1隻、巡洋艦22隻、駆逐艦65隻だぞ勝てるわけねえ」

「でも冒険者の数も多いし、戦闘機の数ではこちら側が圧倒している。……改めて考えると、私達って駆逐艦4隻も持っているのおかしいよね」

「全部元ネルサイド協定の駆逐艦だけどな。お、中央での戦闘が始まったしまずは下側から行くぞ」

「え?敵は見た感じ下から来てるのが多いけど……?」

「あいつらの船を鹵獲していて気付いたけど、上側のタレットより下側のタレットの方が修理されてない確率は高い。接敵前に極力深く潜るぞ」


開戦からしばらくすると、中央で艦隊同士が打ち合いを始めたけどこちら側の戦闘機が多いからか思っていたよりも推しているな。ただ向こうの戦艦がヤバイようで、マップを見てると戦闘機が次々に壊されている。大型タレットの光球一発で戦闘機が破壊されるとかマジか。


そんな中、遅れて裏取り合戦に参加した自分達は敵よりも深く、下へ下へと移動する。向こうの大型船や戦闘機の上下についているタレットは、下側の方が故障率は高かった。まあどちらか直すなら下よりかは上で良い気はするな。どうせ直すなら全部直した方が良いけど。


あと下の方が艦船の構造上、見辛い。レーダーとかは基本ジャミングが入るし、目視での捕捉がわりと重要だから下を取ろうとする艦船が多い。


……地球と月の距離である38万キロが、大した距離じゃないぐらいには戦場は広い。妨害電波とかも飛び交っているから完全な位置把握は基本至難。


まあ自分はマップのお蔭で、自分達を把握出来る艦船がいないことを確認してから密集し、極力小惑星とかの影を利用して移動を続ける。……このマップ、傾けると上下も見れるし戦場を斜め上から見れるのマジでチート。


この世界の戦争は味方の位置関係を正確に把握することから始めるらしいけど、それが既に終わっているどころか相手の位置関係も正確に把握しているとか裏取りし放題やりたい放題出来る。とりあえずは裏に回って端で孤立していたり、参戦する度胸の無かった宙賊達から狩って行こう。


そうこうして敵の戦闘機を数機、静かに沈めていると早速撤退を始めるネルサイド協定側の巡洋艦が出て来た。ネルサイド協定側の巡洋艦はミサイルを主武装にしている巡洋艦が多いけど、あれはその中でも特にミサイル特化にしていそうだな。序盤に敵陣に突っ込んで、ミサイルをばら撒けるだけばら撒いた後は撤退するタイプか。


残りの武装が少なくなってそうだし、シールド剥げてるし、拿捕するならアレだな。中央からどんどん遠ざかっているけど、たぶん向こうのエレーヌ星系で補給と修理をしそう。……護衛もないし、補給艦でミサイルの補給すらしていかないのは警戒がザル過ぎる。


エレーヌ星系内もわりとすっからかんだし後方を荒らすなら今だな。……お、エレーヌ星系の交易ステーションに修理待ちの船が並んでるじゃん。えー、戦力は駆逐艦2隻と戦闘機20機ほど。修理待ちは追っている巡洋艦に加えて、駆逐艦4隻と戦闘機10機。


……よし。


「これより我が艦隊は単独でエレーヌ星系の交易ステーションを襲撃し、修理待ちで停泊している駆逐艦4隻と戦闘機10機を強奪する。ついでに護衛の駆逐艦2隻も奪うし今追っている巡洋艦も奪うから地上軍は準備」


マップで確認すると修理待ちで並んでいる船の中に、エンジンがやられている船は無かった。大体は武装が壊れていたり、シールドジェネレーターが壊れててシールドの最大値が半分になってたり、船体が損耗してたりとわりと小規模。この船達がこちらに攻撃しに来たら厄介だが……。


「駆逐艦4隻はネルサイド協定のマークを表示しろ。ドッグまで辿り着いたらステーションとの入り口部分を攻撃して破壊して良いぞ。自動的にステーション側のハッチが閉じるからドッグに来れなくなる」

「良いぞじゃないよ!?本当にあれ全部持って行く気!?」

「当然。宙賊から奪うのは合法だし敵国の船を奪うのも合法だぞ。幸い敵の戦闘部隊はほとんど前線だし奪って下さいって言っているようなものだ」

「そりゃ普通はここまで抜け出して来るとは思わないからね……」


フィアが慌てているけど、戦闘艦は人が乗らなきゃただの箱だ。味方の駆逐艦4隻が帰ってきたと思ったら攻撃してきたとか相手視点相当混乱してそう。そもそもこの交易ステーションが落ちたのが直近だから指揮系統のトラブルとかも考えられてしまう。


向こうが混乱している間に、ドッグへと降り立った地上軍の兵士が次々と敵の船を奪って逃げていく。こちとらネルサイド協定の船を計5隻も拿捕してるんだし、地上軍の兵士はクラッキングが得意な子も多いからそりゃ短時間で奪えるよね。……今の襲撃だけで、滅茶苦茶儲かったんじゃないかこれ。

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