第26話 ネルサイド協定①
始まりは、難民達が集って互いの生計を支え合うための協定だった。話の通じない殺戮機械であるレプリコンに襲われ、崩壊した故郷から逃げ出した難民達。彼らはレプリコンの残骸や木端微塵になり売れないと判断され放置された宙賊や軍の船を回収し、解体することで日銭を稼いでいた。
それが徐々に大きくなることで食い扶持を求めた結果、彼らは麻薬の生産活動に着手する。元々テラニド帝国では合法であり、テラニド帝国内での麻薬の栽培に関して特に問題はなかったのだが……彼らは麻薬が禁止されているラドン連邦相手への商売を始めた。
テラニドカンパニーからの莫大な融資も受け取り、各地の宙賊達が集った結果、やがてネルサイド協定は小さいながらも一勢力として銀河の表舞台に立つ。シンカー共同体や、ラドン連邦の政府に見捨てられた恨みと一緒に。
彼らはラドン連邦内では宙賊達を小分けにし、見つからないように小惑星帯に基地を作って麻薬の栽培をしていた。氷が豊富にある星系というのは案外少なく、しかし麻薬の栽培には大量の水が必要。そんな中で彼らが目を付けた星系は、政府の行政が行き届いていないラドン連邦の北西第四セクターだった。
徐々に協力してくれる宙賊を増やし、資金を増やし、軍隊の増強を行う。一見順調に思えたそれは、1つの小さな採掘業者によって潰され始めたのだった。
「またヒノマルサイクツだ!クソ、もう3つも基地が破壊されてる!」
「マレーヌ星系まで出しゃばってくるのかよ!本部からの増援は!?」
「また間に合わない位置だ。本当に、こちらにスパイがいるんじゃないかと思うぐらいには情報が正確だな」
麻薬の栽培は儲かるが、手間もリスクもある。ラドン連邦内であれば犯罪行為であり、見つかれば監獄惑星行きだ。更には毎回売る相手が存在するとは限らない。ラドン連邦では麻薬を使用する側も捕まる可能性というのは低くなく、テラニドカンパニー内は競合他社が多いため、安くで買い叩かれることもある。要は安定しない商売だ。
そしてヒノマルサイクツのアキラは、麻薬が金になると知った上で栽培の難しさを把握した時『じゃあ栽培しているところから奪えば良いや』と判断した。宙賊という犯罪者に対して犯罪行為を働いても犯罪にはならないこの世界、宙賊間での麻薬の輸送や麻薬の栽培を行っている場所がリアルタイムで分かるマップというのはあまりにも強力な手札だった。
麻薬という禁制品を輸送している船をピンポイントでスキャン出来、襲うことが出来る。麻薬を栽培しており、倉庫に貯めている基地を襲うことが出来る。採掘も安定して儲かるが、それ以上に宙賊狩りは儲かった。
「だから何で待ち伏せポイントを全部すり抜けているんだよ!というかこれこの基地まで襲いに来るぞ!」
「……戦闘機、増えてないか?36機も居たかあいつら?」
「……俺らから略奪した金で増強したんだろ。
ああクソ、待ち伏せしている奴らが戻って来る前にこの基地は落ちるな。俺は逃げるぞ」
さらに言えばこのマップは、本来見えてはいけない相手の船の挙動まで正確に分かる。戦略ゲームでよく言う『戦場の霧』が晴れている状態。俯瞰視点で戦場全体を把握出来てしまう状態で艦隊戦を始めれば、才能無き一般人でも孔明になることが出来る。
「北西方向へ逃げる宙賊は何も持ってないし放っておいて良いぞ。あとそろそろ南東方向から待ち伏せしていた奴らが帰って来るから第三戦闘機隊と第五戦闘機隊は迎撃してくれ」
「そろそろ採掘船のシールド切れます!輸送船の影に隠れますね」
「うげ、イチカのシールド値2割じゃん。後方逃げて。代わりにトーカが前出てくれ」
ヒノマルサイクツの戦闘機達に囲まれているのは、アキラが乗る大型輸送船とフィアの乗る中型輸送船、それと採掘船になる。宙賊基地から根こそぎ戦利品を持ち帰るための輸送船は、ネルサイド協定にとってはわかりやすい『取り返したい物資』であり目標となっていた。
当然宙賊達の意識はそちらを向き、攻撃もリーダーのいる大型輸送船に集中する。しかし周囲の船が代わる代わる盾となることで損耗をなるべく抑え、また早期に回り込んだ戦闘機隊によって撃墜されるために宙賊達の攻勢が成功することはなかった。
「んー、ここまでだな。撤収するぞ。猶予は10分ぐらいかな」
「……今回だけで幾らになりそう?」
「物資のリストを精査しないと分からないけど大量。中規模の宙賊基地ってめっちゃ物資溜め込んでいるんだな。思ってた以上だったわ」
何より、本当に不味い気配を察知したら逃げ帰るヒノマルサイクツは本当にネルサイド協定にとって嫌な存在であった。
「またこれからってところで逃げやがって……!」
「これで警戒を強めても、警戒を強めた所をすり抜けて来る奴にどう対処しろと!?」
日に日に勢力も増すヒノマルサイクツに対して、強大な組織となっていたネルサイド協定は恐怖を覚え始める。……そしてネルサイド協定側の対応として、レプリコン相手に戦っていた巡洋艦や駆逐艦が、宙賊基地の防衛に回されることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます