第6話 スタートライン

新しい船を発注した次の日、ステーションのドッグへ向かうと自分用の中型採掘船が鎮座していた。……1週間前のあの日、右も左も分からない状態でこの世界に放り出された自分は、僅か1週間でこの規模の宇宙船を買えるだけのお金を稼いだというわけで……やっぱりこの資源の埋蔵量が分かるマップ、普通にチートだと思う。


隣の星系まではマップで表示されるので、何処に何が埋蔵されているかは隣の星系まで分かる。ただ、それ以上先の星系は真っ暗なのでたぶん自分が移動しないと分からないタイプのマップだ。何というかまあ、凄くゲーム的なチート。


それはそれとして自分だけの宇宙船って良いよね。何というか、スタートラインに立ったって感じがする。今の自分は、僅か5万クレジットと1隻の中型採掘船を持つ、ただのスペース炭鉱夫。……この世界に昔来ていたという稀人と同様に大成出来るかは分からないけど、これから先、色んな未知に出会えると思うとちょっと、いやかなりワクワクしてくる。


「ねえ、隣のレントール星系まで行くって何で?」

「何となく」


今日はチタンを掘りに行くために、隣のレントール星系まで移動。隣の星系までの移動で4時間ほどかかるので、今日はあまり掘れないかな。レントール星系にも交易ステーションはあるため、明日からはそこで寝泊まりすることになる。


いや別に宇宙船の中で寝てても良いんだけど、宇宙船の中で寝ようとするのは自分的にちょっと落ち着かない。もうちょっと宇宙空間に慣れるまではステーションで寝よう。


「うわ、今ので移動したの?」

「うん、移動したね。ここからはレントール星系だよ」


……星系と星系を繋ぐ、ハイパーレーンを初めて通過したけど一瞬で星系間を移動できるのは凄い。この世界の星系間の移動手段は3つ。1つ目は隣同士の星系間を繋ぐハイパーレーン。2つ目は特定のハイパーレーン同士を接続し、星系内外の移動を高速化を行ったハイパーリレイ。別名ハイウェイ。


そして3つ目が原理不明のゲートウェイを利用した移動である。何かこの世界の文明が宇宙に進出した頃からあった大きな門で、遠方の星系との移動を一瞬で行うことが出来る。


特定のゲートウェイ同士でしか移動出来ないという制限はあるけど超便利なのでゲートウェイがある星系はチョークポイントとしてかなり重用されている。……破壊されたり故障したりでどんどん使えるゲートウェイの数が減っているらしいけどね。


「フィアって採掘ギルドに所属して何年?」

「3年ぐらいかなー。……一応言っておくけど、中型採掘船を自前で持ってたら1人前の採掘人だからね?」

「やっぱりそんなもんかー。

……一時的採掘領有権はこの辺が良いよ」


フィアとは通信をしながら、レントール星系の交易ステーションを通過し、レントール星系にある小惑星帯へと突入。この星系ではチタンをメインに掘るけど、チタンはプラチナとは違って需要が尽きることはまずない鉱物だ。その上、供給が少ないから価値はそれなりに高い。


「……本当にチタンしか出て来ないの凄いよこれ」

「だと思う。ロスのない採掘が出来るならこの職業って本当に良く儲かるよね」


採掘ギルドもある程度資源の多い小惑星帯の位置は把握しているが、実際に現場で作業する時は小惑星帯を砕いて、細かくして採掘ドローン運搬する必要がある。その採掘ドローンが精製装置の中に細かな岩石を突っ込むことで、初めて『何がどれぐらい採れたか』が分かる。


だから場合によっては凄くロスの多いパターンもあるんだよね。……本当に、チートってレベルじゃないよこのマップ。しかもレントール星系に移動したら、レントール星系の隣の星系まで資源の配置が分かる。レントール星系の隣への移動は『北東第四セクター』から『北西第四セクター』へ移動になるからちょっと手続きが必要だけど。


「……何でこの世界、平面上に星系が並んでいるの?」

「実際には星系の配置は上下の概念もあるよ?ただハイパーレーンで移動する時に上下はあまり関係ないし、その地図は無理やり二次元に納めているの」

「あー……あくまでハイパーレーンが繋がってる星系同士を二次元上では近場に配置しているだけか。3Dの地図は……ややこしそうだから要らないな」


宇宙で北西北東の概念があるのは本当に謎だったけど、無理やり二次元化した時に四分割して北西北東南西南東と区分したらしい。そして中心の母星に近いのが第一、ドーナツ状に第二、第三と続いて、第四セクターは基本辺境だね。


この外側に第五セクターもあるけどほぼ未開拓な星系だらけでステーションが無い星系も出て来るらしい。逆に言えば第四セクターまでなら1個の星系に1個ぐらいは何らかのステーションがあるってわけだ。


「あれじゃあ何で辺境なのに宙賊は少ないんだろう?」

「それはこのレントール星系に交易ステーションの他、造船ステーションと酒場ステーションがあるからだね」

「酒場ステーション?」

「うん。要するに冒険者ギルドがあるステーションだから安心安全だよ」


……採掘中に会話を続けていたら、このSF感溢れる世界で冒険者ギルドの名前を聞く。どうやら採掘ギルドと同じような感じで冒険者ギルドがこの世界でも存在するようで、まさかこの世界でその名前を聞くとは思わなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る