第3話 採掘業

「夢にまで見た稀人だあ!ねえ、保護期間終わらして私と一緒に採掘しない!?面倒なこととか全部こちらでやるし、取り分は9対1で良いよ!?」

「どっちが9だよ」

「当然貴方よ!というか私は名乗ったんだから早く貴方も名乗ってよ」

「……アキラだ」


フィアさんの勢いに押されて名前を言ったけど、取り分9対1で一緒に採掘やりたいとか言い出す女は正直に言って全然信用出来ない。無害そうな顔して猫耳が生えてる、銀髪で背が低くておっぱいの大きい獣人の美少女だけど信用出来ない。


というか稀人と聞いた瞬間の態度の変わりようが怪しすぎる。何?稀人ってそんなに有名な存在なの?


「分かってなさそうだから教えておくけど、稀人って大物にしかならないの。だから、何としてでもここで縁を繋ぎたいよ」

「それ無謀な行動をして散って行った稀人や、宙賊とかに囚われて奴隷として売られた稀人が表舞台には出て来ないから結果的に稀人が大物にしかならないって風潮が出来たんじゃないの?生存性バイアスって奴」

「……でも、どう考えても貴方おかしいし。この数日で、小型採掘船で、あの数字はルーキーが出せる数字じゃない」


そして稀人は基本的に大成する上、関わった人を幸福に導くレアな存在としてこの世界に認知されていたことを知る。……マップというかゲーム的UIが開ける以上、大成しやすそうな気はするけど生存性バイアスって奴かなあ。


というかこのマップがあれば宙賊が狙いに来るのも分かるし安全に採掘は出来る。保護期間の30日は、元手の資金を稼ぐために設定されている30日だから身分証明書を発行できる1万クレジットさえ貯めてしまえばさっさと保護期間は打ち切った方が良いか。


……この世界に知り合いがいない以上、信頼できるパートナーみたいな存在は欲しい。何だかんだでこの短時間で色々と教えてくれたし、一時的に組むぐらいはありか。色々と話は聞けるだろうし。


次の日は中型採掘船を初めて借りて採掘を始めるけど小型より明らかに出力の高いレーザーが出るし、回収速度は速いし、精製速度も速いし、コンテナは小型採掘船の10倍の容量。これさっさと中型採掘船を借りた方が良かったな。


わずか2往復で100クレジットが1000Pで10万クレジット×2回だから20万クレジットという大金を稼ぎ、一旦ここの交易ステーションがプラチナのオファーを停止させた。……プラチナって希少価値の高い金属だけど、使用用途もそれほど多くはないらしく、貯蓄がいっぱいになったら買い取り停止を出すらしい。


ただプラチナの貯蓄がいっぱいになったことなんて近年なかったようで初日に色々と教えてくれたおっさんは白目剥いてた。……このステーション、最初は滅茶苦茶大きいと思ったけどこれでも地方の小型ステーション、その中でも極小の分類に入るステーションだから小さいステーションらしい。


だから、プラチナを取り扱う量も少ないということ。くそ、次に高いのは1P25クレジットのチタンだけどこの星系だと埋蔵量が少ない。それなら素直にシリコン掘る方がまだマシか。シリコンは船体部品にも使われるそうだし、多品目に使用されているから需要が尽きない。供給も滅茶苦茶多いから安価だけど、1P5クレジットは定額。


ガス回収も手だけど時間かかるのがなあ。んー、隣の星系まで行けばチタンは多いな。一応、このセクター内なら危険度は極小、オールグリーンだっけ。


セクターというのは、太陽系みたいな星系を幾つか纏めた行政区分のようなもので、県を纏めて○○地方みたいに言うのと感覚は似ている。ただここがセクター内では中央の星系で一番安全なのに対し、周辺の星系は僅かでも宙賊の目撃情報があるのは怖い。


1人だと心細いのは確か。あそこまで頼られて嫌な気はしないし、フィアさんに商談を持ち掛けよう。


「フィアさん、今時間大丈夫?」

「何!?組んでくれるの!?」

「いやまあ、うん。隣の星系まで行くなら中型採掘船が2隻ある方が儲かりそうだし、1人だと心細いのは確かだし」

「今どこ!?すぐに向かうよ!」


昨日強引に連絡先を登録させられていた通信用の端末を使って、連絡をするとものの5分で交易ステーション内にある喫茶店の1室まで駆け付けるフィアさん。駄目だ、好感度が怪しすぎるぐらいに高くて信用が出来ねえ。


……それにしても、この通信用端末の連絡先に女の子の名前が入るとは思わなかった。今連絡先で入ってるの、最初に保護してくれたおっさんと採掘船を貸し出したり、最初のレクチャーをしてくれた採掘ギルドの受付のおっさんだけだし。


通信用端末に関しては、外観はスマホを薄く持ちやすくした進化版かな。ベッドの上とかに放置して忘れて外に出ても自動でついて来るので市民の位置管理とかにも使ってそうである。通話をすると画面が空中に投影されて、自動で顔が大きく表示されるので例えばフィアさんに通信を行うとドアップで猫耳美少女が映る。


……組むのと聞かれて、うんと頷いた時の向こうの笑顔が何か怖いけど素直に賛美を受け取って良いのかなあ。自分は重度のオタクだから上げて落とす、みたいな展開は何度も見て来たし、そもそも対人恐怖症なので喋ることすら結構怖い。人間不信なところは、今後こうして外出て働く以上は治すべきなんだろうけど出来るかなあ。

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