第13話


「さて。クレープを食べたことだし、次はどこに行こうか?」


「あのな。俺は双葉のお見舞いの買い物に付き合うつもりで来たんだぞ。遊ぶなら帰るぞ」


「まぁ、そう言わずに。ちょっとしたついでじゃない」


 三佳は悪びれる様子なく言いのける。


「ついでねぇ」


「ねぇ、ゲーセン寄ろうよ」


「いや、だから双葉の買い物を……」


「うわぁ、見て。私の好きなキャラのぬいぐるみがある!」


 俺の話も聞かず、三佳は吸い込まれるようにゲーセンへ入っていく。

 俺は追いかける形でゲーセンに入った。


「おい。三佳。こんなところで油売ってないで行くぞ」


「うわぁ、なんでこんなところにあるの? ちょー欲しいんだけど」


 三佳は目を輝かせながらクレーンゲームの前で言った。


「本来の目的、忘れていないか?」


「拓海。このキャラは双葉も好きなのよ。これを持って帰れば一気に元気になるかも」


「へーそうなのか。じゃ、その辺のショップで買って帰るか」


「いや、これはゲーセン限定でここでしかないの。だからここで獲るしかないわけよ」


「お、おう。そこまで言うなら獲ればいいのでは?」


「あいにく、私はクレーンゲームの才能は皆無なのよ。あーあ、誰かクレーンゲームが得意な人がいてくれたら凄い、助かるんだけどなぁ」と三佳は俺に上目遣いをする。


 明らかにアピールしているが、俺は気づかないフリをする。


「なに?」


「もう。こう言うのは男が獲ってくれるものじゃないの?」


「何で俺が三佳のために摂らなくちゃならないんだよ」


「違うよ。私のためじゃなくて双葉のためだよ。これ一つで元気になるなら安いものでしょ?」


「……分かったよ。そこまで言うならやってやるよ」


「そうこなくちゃ」


 三佳の唆された俺は次々と百円玉を投入口へ入れる。

 しかし、操作を繰り返してもぬいぐるみが取れる気配がない。

 財布の中の小銭が切れてお札を両替に向かおうとした。


「ちょっと待ってくれ。すぐ戻るから」


「拓海。もういいよ」


「もういいってもうすぐ取れそうなのに」


「私が悪かったです。拓海には才能がないって知らなくて申し訳ありません」


 バッと三佳は頭を下げた。

 謝罪されている立場のはずなのにどうも俺が情けなくなる感覚は何だろうか。

 それでも引くに引けない感情が立ち込めた。


「私にやらせて下さい」


「三佳が?」


 三佳は自分の財布から小銭を取り出してクレーンゲームのプレーを始める。

 俺とは別の箇所を狙う。

 どこを狙っているんだと思い、俺は頭を抱える。

 しかし、アームはタグに引っかかり、そのままぬいぐるみは持ち上がった。

 そのまま取り出し口へ落とされて景品ゲットだ。


「獲れた!」


 喜ぶ三佳に対して俺は複雑な心情が巻き起こる。


「どうしたの?」


「もしかして三佳。本当はそっちの才能あるのか?」


「いや、動画はよく見るけど、実際にプレーしたのは初めてに近い」


「俺の立場って一体なんだろう」


「へへ。でも摂ろうとしてくれたその気持ちは嬉しかった。ありがとう。拓海」


 その笑顔で俺の嫌な感情は消えた。

 そこから風邪薬や飲み物なんかを買い、買い物は終わった。


「寄り道をしちゃったけど、付き合ってもらってありがとう」


「如何いたしまして。じゃ、俺はこの辺で」


「え?」と三佳は疑問そうに言った。


「え? ってなに?」


「来ないの? 家に」


「家に俺が?」


「お見舞い。双葉、喜ぶと思うけど」


「でも急に行くと迷惑じゃないか?」


「大丈夫。私が許可する!」


 いや、そう言う問題じゃなくてと言いかけるが、正直双葉の家に行ってみたいと言う感情があった。

 双葉の部屋とかどんな感じにしてあるだろうか。


「じゃ、ちょっとだけお邪魔しようかな」


 そう言うと三佳はニッコリと笑った。


「そうと決まれば行こうか。うちへ」


 初めての彼女の家へ訪問に俺は急に緊張した。

 双葉の家(三佳の家)は住宅地の並ぶ角にあった。

 洋風のオシャレな外観の家である。


「さぁ、入って!」


「お、お邪魔します」


 俺は家に招かれた。


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