第12話
「どう? これならドキドキするでしょ」
三佳の強引な行動に俺は手を引っ込めた。
「や、やめろよ。いきなりなんてことをするんだ」
「あ、顔が赤くなっている。ドキドキしているでしょ」
「バカ。俺は健全な男子高生だ。当たり前だろ」
「よし!」
三佳はガッツポーズをする。何を張り合っているのだろうか。
「あのな、直接的な方法を取っても俺は三佳が好きって言うことにならないぞ」
「なんでよ。ドキドキしたんでしょ?」
「したけど、そうじゃない。双葉はそんなことしなくても常にドキドキしているんだよ。その違いが分からないと意味がない」
「じゃ、その違いっていうのは何?」
「何って言われてもなぁ」
俺は言葉に詰まった。正直、俺もよく分からないことを言葉に出しにくい。
少なくともこのような直接的な方法でドキドキしているわけじゃない。
「拓海くん。一つ聞くけど、双葉とどこまでしたの?」
「どこまで?」
「流石にキスはしたよね?」
「いや、まだだけど」
「はぁ? じゃ、何もしていないの?」
「この間の初デートで手は繋いだぞ?」
「手を繋いだって小学生かよ!」
呆れ返るように三佳は頭を抱える。
進展がないことは承知の上だった。だが、仕方がない。いつも化学室で昼食を食べていただけなので進展らしい進展はない。
「それでよくドキドキ出来るわね。何にドキドキしているか謎だわ」
「少なくとも三佳のように力技をしなくてもドキドキはするんだよ」
「ふーん」
納得がいかない様子で三佳は浮かない顔をする。
パンを食べ切った俺は席を立つ。
「じゃ、俺は教室に戻るから」
これ以上一緒にいると何をされるか分からない。安全策のために逃げようとする。
「ねぇ、放課後時間ある?」
「放課後? まぁ、ないこともないけど」
「ちょっと付き合ってよ。寝込んでいる双葉のために色々買ってあげたいからさ」
「まぁ、そういうことなら」
空返事で承諾をしてしまった。双葉のためと聞いて断るに断れないのが正直なところ。
そして放課後の時刻になり、俺は校門の前で待っていた。
しばらくすると三佳がやってきた。
「お待たせ。ちょっとクラスの取り決めで時間掛かっちゃった」
「いや、大丈夫」
「じゃ、行こうか」
中身は違うが見た目は双葉と何も変わらない。
そのことから双葉と並んで歩いていることにデートを連想させる。
「三佳。分かっていると思うが俺と双葉の交際は学校では内緒なんだ。派手な行動は慎んでくれよ」
「内緒? 何でそんなことする必要があるの?」
「何でって双葉がそうしてくれって言うから」
「それってどうなの?」
「え?」
「まぁ、私には関係ないけど。さぁ、行きましょう」
疑問が残る中、俺はそれ以上聞けずに三佳について行く。
学生がよく通る商店街に着くと三佳はテンションが上がった。
「あ、クレープ屋だ。しかも今日限りの半額だって。ねぇ、ちょっと行こうよ」
「え、でも……」
「どれにしようかな。チョコレートか。それともイチゴかな」
三佳は既にクレープに夢中だ。行列に並ぶ他なかった。
結局、三佳はイチゴを選んで俺はチョコレートを選んだ。
「美味しい。クレープって何でこんなに美味しいんだろう」
「まぁ、美味しいけど」
俺が浮かない表情をしていても三佳は気にも止めずクレープを堪能していた。
「そっちも美味しそうだね。食べ比べしようか。いただき!」
三佳は俺の許可なく俺のクレープを噛り付いた。
「あ、おい」
「うーまい。やっぱりチョコレートもいけるわね」
「はぁ、何でもいいけどさ」
「はい」
三佳は自分のクレープを差し出した。
「食べる?」
「いいのか?」
「どうぞ、どうぞ」
三佳から一口頂いた。
「えへへ。なんだかデートみたいだね」
「冗談はそれくらいにし双葉に買ってあげるものあるんだろ?」
「ちょっとくらいいいじゃない。ねぇ、あっちに文房具屋さんある。ちょっと覗いていこうよ」
三佳に腕を引っ張られた。
知らぬ間に俺はデートを楽しんでいた。
中身は違うとはいえ、顔が同じなのは罪なものだ。
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