第11話


 栗枝双葉が双子だったことが判明した。

 しかもその妹である三佳も俺のことが好きだという。

 この状況が双葉との交際に影響を及ぼすことがのちに起こることは明白だ。


「おはよう。拓海くん」


 朝、教室に向かおうとしたところ廊下で声をかけられる。


「おはよう。三佳」


「当たり。もう見分けはつくようになったんだね」


「まぁな。今日は入れ替わりの日なんだな」


「うん。今日、双葉体調悪いみたいだから」


「え? 大丈夫かよ。まさか先日のデートで体調を崩したとか?」


「いや、あの子元々身体弱い方だから体調崩しやすいのよ。だから私が代わりに学校に来ているってわけ」


 知らなかった。いつも健康そうに見えるけど、よく体調を崩していたのか。

 彼氏としてしっかりサポートしてあげないと。

 それと俺はあることに気付く。


「ちょっと待て。三佳がこっちに来たら自分の学校はどうなっているんだよ。双葉が代わりに行っているわけじゃないんだろ?」


「まぁ、普通に欠席だね」


「欠席っていいのかよ。それで」


「よくはないね。でも双葉の名誉を守るためには私がこっちに出席するしかない。私の方は双葉が替え玉で成績を伸ばしてくれたらそれでいいよ」


「双子っていうことを存分に活用しているな。そのうち痛い目に合うぞ?」


「心配ありがとう。その時はその時だよ」


 公表つもりはないが、黙認しているっていう罪悪感が俺に付き纏う。

 その辺もどうにかしてやりたいとは思うけど、どうしたものだろうか。


「それじゃ今日のお昼よろしくね」と三佳は去り際に言う。


「ちょっと待て。もう俺にバレているんだから双葉のふりをして一緒に昼食を取る必要ないんじゃないのか?」


「……違うよ。双葉としてじゃなくて三佳としてだよ」


「それは双葉に悪いし」


「大丈夫。そこは任されているから。絶対に来てよね。それじゃ」


 それを言い残して三佳は自分の教室へ戻っていく。

 いいのかなと思いつつ、俺も自分の教室に向かう。

 それから三佳と全く会わずに午前の授業を終えて昼休み。

 俺は化学室に入ると既に三佳が待っていた。


「約束通り来たわね」


「お前が来いって言ったんだろ」


「その割には素直じゃない。ってきりドタキャンすると思っちゃった」


「さすがに悪いからな。それに他に食べる人いないし」


「あれ。拓海くんって友達いない系?」


「いないこともない。必要最低限しか作らないだけだよ?」


「ふーん。どうだか」


 俺は購買部で買ったパンを広げた。


「あれ? 今日は弁当じゃないんだね」


「ちょっと忙しくてな。お金だけ貰った」


「お、焼きそばパンだ。人気ナンバーワンの商品をよく買えたね。大変だったでしょ」


「まぁ、チャイムの前から並んでいたからな」


「サボり?」


「たまたま早く終わっただけだ。本来、チャイムが鳴るまで待機だけど、こっそり抜け出した」


「へー。拓海くんは意外とそう言う悪いことをするタイプなんだね」


「三佳ほどじゃないよ。双子で入れ替わることに比べたらたいしたことない」


「私のことというか双子をディスってる?」


「いやいや。そんな恐れ多いことしていませんって」


 パンを貪りながら俺と三佳は淡々と会話をしていた。

 双葉と違い、ドキドキ感がない分、平常心で自然と話せていた。自分でも驚くほどに。

 というよりもどこか楽しんでいる自分がいる。三佳との会話が楽しい。


「拓海くんは私より双葉が好きってことだよね?」


「それがどうした?」


「じゃ、私はなんなの?」


「なんなのって言われても」


「好きじゃないんだよね?」


「まぁ、そうなっちゃうかな?」


 ん? 急に何を言っているんだ?


「双葉にあって私に足りないものってなんなの?」


「足りないもの?」


「顔は同じ。なら私に足りないものってどれ?」


 ジッと真面目な口調で言う三佳に対して俺はパンを手から落とす。


「それは……あれだよ。双葉はドキドキするけど、三佳はドキドキしない」


「ドキドキ? 何を基準でドキドキして何を基準でドキドキしないの??」


「いや、俺に言われてもよく分からないんだよ。とにかく俺の中ではドキドキしないってだけ」


「へーそう。なら私でもドキドキさせてあげましょうか?」


「させるってどうやって?」


 すると三佳は俺の手を取ってそのまま自分の胸に手を押し付けた。


「なっ!」


「どう? これでドキドキしないわけないでしょ」


 三佳は勝ち誇ったように言う。グッと三佳は俺の手を更に押し付ける。

 柔らかくて弾力のある胸に俺の手が吸い付いている。俺は興奮で震えたのが分かった。

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