第10話 姉妹間が拗れた
「な、嘘だろ?」
「嘘じゃないよ。入れ替わって二人でご飯を食べているうちに段々いいなって思って。本当だよ?」
「いや、本当なのはいいんだけど、どうなのかな? それって」
俺は動揺していることもありまともなことが言えていなかった。
「ダメなことは充分分かっている。でもこの気持ちは止められないの。だから私と付き合ってくれないかな? 双葉と入れ替わっている時だけでも彼女にさせてもらえたらそれでいいからさ」
顔や見た目は全く同じ。双子だから当たり前だ。しかし、性格や中身などは別物だ。
それでも俺が愛したのは双葉の方だ。
「三佳が双葉の代わりになることはない」
「そんなことは言われなくても分かっているよ。それでも私が決めた相手は拓海くんだよ。最悪、双葉を蹴落とすから」
涼しい笑顔で何を言ってくれているのだろうか。
実の姉にいっときの恋愛で関係を拗らせるつもりか。そんな重荷を背負わせるわけにはいかない。
「三佳、少しは冷静に……」
俺が困っていると三佳は続けた。
「まぁ、考えておいて。私を双葉として見てくれてもいいからさ」
そう言って三佳は席を立つ。
「どこに行くんだ?」
「私は先に帰るよ。双葉に言うかどうかは拓海くんに任せる。それじゃまたね」
三佳は本当に帰ってしまった。入れ替わるように双葉が席に戻ってきた。
「三佳のやつ先に帰っちゃった。何を話していたの? 変なこと言った?」
変なことを言われたのは俺の方である。
今の件を言うべきなのか。だが、言えばまた二人が揉めることは容易に予測できる。
双葉は席に座り、気持ちを落ち着かせるためにミルクティーを飲む。
「別に言いたくないなら言わなくてもいい。たとえ知らなかったとしてもいずれ分かること。要は時間の問題かな」
双葉は落ち着きがあり余裕を感じられた。
姉としての威厳なのだろうか。
「好きって言われた。俺のこと」
あっさりと俺は暴露した。
「そう。そんなことだろうと思ったよ」
双葉は慌てた様子はなく落ち着きがあった。
ただ、手に持っていたマグカップがカタカタッと小刻みに震える。一応動揺はしている様子だった。
「それで拓海くんは何て答えたのかな?」
「答えなかった」
「それでどうするつもり?」
「俺は双葉と交際を続けたいと思っている。でも三佳の気持ちを考えると悪いと思う自分がいる」
「じゃ、付き合ってみればいいんじゃない?」
「え?」
浮気を公認すると取れる彼女の発言に俺は自分で言って驚いた。
「引き合わせてしまったのは私だし、喧嘩をしても切れない関係であることは変わらない。同じ人を好きになってしまうことも自然のこと。前にもあったんだよ。同じ人を好きになって喧嘩をしたこと。今では懐かしいくらい」
「そ、それでどうしたの?」
「二人で告白したんだけど、その人はビックリして断られた。まぁ、無理もない。同じ顔で告白されたら戸惑っちゃうよね。ははは」
口では笑っているけど表情は全然笑っていない。むしろ怖く感じる。
俺は恐る恐る聞いてみた。
「二人と付き合って三佳を好きになることもあるのに容認してもいいの?」
「その時はその時だよ。でも拓海くんは私を選ぶはず」
「凄い自信だね」
「そうかな? ちなみに胸は私の方が大きいよ」
サラッと双葉は自分を売り込む。確実に自分が選ばれる絶対的な自信があるからこそ言える発言だ。だが、そうは言っても心のどこかで不安な気持ちが伝わってくる。
双葉を安心させてやらないと今後も先が重い。そもそも二人の見分けをつく方法が限定すぎるんだ。うっかり双葉だと思って三佳のように接したら俺の気持ちも分からなくなってしまう。
「俺なりに二人を見分けられる方法を見つけたんだけどさ……」
「胸?」
「違う。三佳には右目の下に小さなホクロがある。そして左利きってことだ」
「そうだね。それで見分けられると思う。でももっと簡単に見分ける方法があるよ」
「何?」
「私の方が三佳より五ミリ身長が高い」
「それは二人が並んでないと分からないよ」
「あぁ、それもそうか。まぁ、拓海くんならもう見分けがつくよね。間違えたら私、失望しちゃうかも」
「大丈夫。区別はついている。もう間違えることはない。そもそも最初からおかしいとは思っていたけど確信がなかったから何とも言えなかっただけさ」
「そっか。クラスメイトや先生を騙せても拓海くんには通じないってことだね。じゃ、事情も知ったわけだし、これからもよろしくね。拓海くん」
「こちらこそ」
不安が取り除かれたはずが、別の不安が付き纏う。双子というのはどうも難しい。
それでも双葉と付き合うと決めたわけなので事情を受け入れつつ、向き合わなければならない。たとえ双子の片割れに好意を抱かれようと。
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