第9話 喫茶店へ


 そして閉園時間が迫り、俺たちは園を出た。

 気まずさが残りつつ、バスや電車では終始無言だった。

 双葉も三佳も喋ることなくお互い目を合わせない。

 そして俺が降りる駅に電車は停車する。


「俺、ここで降りるから。今日はありがとう」


 ホームに降りて俺は二人に声をかける。

 無視をしているのか、二人はぶっきら棒だった。

 喋らなくても喧嘩は続いているようだ。困ったものだ。


『間も無く電車が閉まります。駆け込み乗車はご遠慮ください』


 アナウンスと共にドアが閉まろうとした瞬間である。

 パッと双葉と三佳は電車を降りた。電車はそのまま発車してしく。


「三佳。なんであんたまで降りているのよ」


「そっちこそ。どう言うつもり?」


「私はトイレよ。次の駅まで我慢できなくて」


「ふーん。じゃ行きなさいよ」


「今は大丈夫だから」


「はぁ? 邪魔なのよ。あんた」


「な、何をぉ?」


 考えていたことは同じらしく同じだからこそ喧嘩になるようだ。


「あ、あの。他の人に迷惑が掛かるから別の場所に……」


「「拓海くんは黙っていて!」」


 この双子、面倒くさい。俺はため息しか出なかった。

 駅のホームから改札口へ抜けて近くの喫茶店で栗枝(双子)とお茶をすることになった。


「えーと、お二人さん?」


 双葉と三佳は隣同士で歪み合う。先ほどからずっとこんな感じだ。


「俺に何か言いたいことがあるなら聞こう。双葉」と、俺は双葉の方へ振る。


「あ、はい。あの、双子で入れ替わっているって言うのはどうか学校では内緒にしてもらいたいです。色々まずいので」


 まぁ、替え玉をしていることは絶対に問題になるし、教師に分かった場合、最悪退学だって考えられる。それほどのことをしているのは自覚しているようだ。

 俺の気分で密告すれば双葉の学校生活は終わり。それは絶対に避けなければならないのと判断だろう。


「分かった。内緒にするよ。双葉を陥れる真似なんてしないよ。そこは安心してくれ」


「ありがとう。私はそれを念押ししたかっただけです。はい」


 双葉は腰を低くして言う。


「拓海くん。いいの? 双葉の弱みを握ったんだよ? 黙る代わりに条件を突きつけなくて」と三佳は双葉を蹴落とすような横投げを入れる。

「ちょ、三佳。あんた、何を……」


「だってそうでしょ? 世の中タダで済む話なんて無いんだよ。それ相応の条件ってやつがないと黙る保証なんてないじゃない」


 三佳の発言に双葉は冷や汗を垂らしながら俺を見た。


「はぁ。確かに双葉のやっていることはよくないことだ。でも、それには事情があるってことが分かった。よく無いこととはいえ、俺の口から言いふらすことは違うと思ったから言えない。ただそれだけだよ。条件とかそんなものはいらないから」


 面倒そうに俺がそう言うと三佳は不機嫌そうに頬を膨らませた。


「拓海くん、甘いね」


「そうか? だが、一つ忘れていないか? 仮に俺がこのことを学校に話して困るのは双葉だけじゃない。三佳、お前の立場だって危ないんだぞ?」


「私が何で?」


「何でって必然的にこのことは三佳の学校にも報告がいくってことだよ。そうなればお前だって退学の危機が付きまとってくる」


 そう言うと三佳の顔から血の気が引く。

 自分には関係ないと思っていたようだが、その逆だ。


「拓海くん。お願いします。この件はご内密に」


 泣きながら訴える三佳に俺は戸惑った。


「いや、だから言わないって言っただろ。心配しなくても大丈夫だ」


「本当に本当?」


「あぁ、本当に本当だ」


 ホッと三佳は胸をなでおろすように安堵する。

 少し考えれば分かることだが、三佳は物事を考えるよりも行動に出るタイプだと分かる。


「話はそれで終わりか?」


「私はそれだけです」と、双葉は言う。


「三佳。お前も俺に何か言いたいことがあるのか?」


「ある……けど」と三佳は下を向く。


 チラリと三佳は双葉に目線を送る。


「双葉。申し訳ないけど、五分くらい席を外してもらえないか?」


「え? でも……。分かりました」


 俺が双葉に促すと素直に席を立った。

 三佳と俺が向かい合わせで座る。


「双葉に言いにくいことなんだろ?」


「察してくれたんだね。ありがとう。気が利いて助かる」


「で? 何が言いたい? さっさと言ってくれ。双葉を待たせるのも悪い」


「ちょっと耳、貸してくれる?」


 ヒソヒソ話をするように俺は三佳に耳を貸す。


「双葉に悪いんだけどさ……。私もその……好きになっちゃった」


「は?」


「だから私も拓海くんのことが好きなの!」


 三佳はヤケクソのように言い放った。キーンと俺の耳に三佳の告白が響く。

 まさに不意打ちとも取れる発言に俺は顔を赤くしていた。

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