第8話 喧嘩


 双子の言い争いを止めたところでようやく二人は向き合ってくれた。


「さて。喧嘩の続きは家でやってくれ。まずは言うことがあるんじゃないのか」


「「す、すみませんでした」」


 何故か、二人は地べたで正座をして腰を低くしていた。

 美少女に謝罪をさせている状況は痛いものである。


「それで二人が揃っているってことは今日も入れ替わっていたよな?」


「はい。昼食の時は私、三佳が入れ替わっていました」


 申し訳なさそうに三佳は手を挙げた。


「そもそもどうして入れ替わる必要がある? これが騙していないって言うのならなんなんだって話だ」


 俺がそう言うと二人は顔を合わした。

 説明は双葉が担当する。


「最初は仕方がなく入れ替わったんです」


「仕方がなく?」


「私と三佳は別々の高校に通っているの。私の周りでは一部、双子の存在は知っているけど、あまり広く知られていません。それを利用して時々入れ替わっています。きっかけは三佳の単位を落としたらまずいテストだった」


「私、双葉に比べると頭悪いんだよね」


「相当ね」と双葉は間を入れずに言い放つ。


 ムッとする表情を三佳は見せるが、双葉は続ける。


「替え玉受験ってことで本当はダメなんだけど、止むを得ずって感じです。私としても妹が留年ってなるのは気が引けるからね」


「双葉が私の代わりにテストを受けてくれると逆に双葉の出席日数が減ってしまう。そこで私が代わりに双葉に成り代わって授業を受けていたって訳」


「まぁ、入れ替わっている間は周囲に悟られるわけにはいかない。当然、私が普段行なっている学校生活も三佳が受けてくれなきゃならない」


 入れ替わる経緯はなんとなくわかった。

 互いに助け合って単位を稼いでいたってわけだ。

 同時に俺との交際も悟られるわけにはいかない。違和感が始まったのはそう言う意図があったのだ。


「事情は分かった。でも、俺に言ってくれればよかったのにどうして隠していたんだ?」


「そ、それは驚かせて引かれちゃうと思って。別に信用していないわけじゃないの。嫌われたらどうしようって不安で言い出せなかったの」


 双葉は訴えるように言った。


「そういう経緯は分かったけど、今日は別に入れ替わる必要はないだろ。相手は俺だけなんだし」


「それは私が乗り物酔いをするからなんだよね。激しい乗り物は三佳が担当していました」と双葉は打ち明けた。


 そういえば乗る直前になっていなくなっていた気がした。


「何で乗り物酔いをするのに遊園地にしたんだ。ミステイクだろ?」


「デートといえば遊園地。これだけは外せません。多少の無理があっても遊園地に来たかったんです」


 双葉のその執念は何だろうか。二人で入れ替われば体調の悪さも半減できるということなのだろうか。

 一言相談してくれなかったことは悲しいが、別に嫌いだからとかそう言う理由ではないことに安心した。これでようやく俺の不安が取り払われた。


「話してくれてありがとう。双葉、これからはしっかり向き合っていこう。今日のデートでそう思った。これからは無理なく楽しくデートをしてほしい」


「拓海くん……」


 話がまとまりいい雰囲気になりかけたその時である。


「ちょっと待った!」


 間に入ったのは三佳である。


「な、何よ。三佳。いい感じだったのに邪魔しないでよ」


「いい雰囲気で丸め込んでいるようだけど、問題大有りよ」


「問題?」


「拓海くん。止むを得ずに入れ替わっているってことだけど、少しだけ違うのよね」


「どう言う意味だ?」と俺は首を傾げる。


「双葉にも私と入れ替わってもらわなければならない時があるのよ」


「ちょ、双葉。それは言っちゃダメなやつじゃないの」


 焦った双葉は三佳の口を塞ごうとする。


「いや、いつまでも隠せないよ。今言うべき。聞いて拓海くん。双葉はね、体育の授業がある日は私と入れ替わっているの」


 三佳の暴露で双葉は頭を抱えた。


「ど、どう言うこと?」


 俺は訳が分からなかった。


「双葉はかなりの運動音痴よ。スポーツ万能は私のこと。つまり二人で成績優秀スポーツ万能ってこと」


 あちゃーと双葉はどうにでもなれと言った感じだ。

 学校ではなんでも出来る存在である栗枝双葉だったが、裏では二人で欠点を補っているのが真相だと暴露された。

 同級生が見ていた栗枝双葉が嘘っぱちであることを知ってしまった俺としては何ともいえない感情だった。


「私はスポーツ科の学校に通っているんだけど、体力系はほとんど私の活躍。あと双葉って食べるのが苦手というか少食なのよ」


「そ、そんなことないよ。芋系は好きだから」


「好きなものしか食べられないってことじゃない。そんなんだから外で食べるとき困るのよ」


「それは今関係ないでしょ!」


 次から次へと俺の知らない双葉の実態が晒される。彼氏として何も知らない。というより知ってあげられていない自分が悲しくなっていた。

 栗枝双葉は完璧人間じゃない。それが判明した。


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