第7話 真相
今までの栗枝の行動や言動を推測してある仮説に辿り着いた。
観覧車という密室空間で逃げ場はない。
地上に降りるまで残り半周。この間に聞き出せるだろうか。
「ウソって何? 私、何かウソをつくようなことをしたかな?」
平然を装う栗枝に俺は少し怖かった。
仮に俺の勘違いだったとしたら栗枝は疑われたと軽蔑するはずだ。
そうなれば俺への信頼を無くして別れる展開もありえない話ではない。
だが、不安を抱えるなら別れる覚悟で俺は立ち向かわなければならない。
「これは俺の仮説に過ぎないけど、栗枝が時々記憶をなくなっている場面がある。それは単なる物忘れとか勘違いではない。そもそも記憶がないというよりも知らなかったというのが正しいかもしれない」
「知らなかった? どういうこと?」
「つまり。栗枝は入れ替わっているってことだ。それなら記憶がないことにも納得がいく。栗枝。俺が以前質問した内容を覚えている? 姉妹がいるかってやつ。栗枝は歳の離れた妹がいるって言ったよね? それはウソだ。歳の離れた妹ではなく歳が近い……いや、歳が同じ妹がいる。そう、君は双子なんじゃないのか?」
核心をついた俺の問いに栗枝は下を向いた。
正直、この仮説は半信半疑。合っているなら良し。間違っているなら俺は信用を無くし、栗枝とは別れることになるだろう。
「なるほど。それが神谷くんの導き出した答えか。ふーん。そうか、そうか。いつから気付いていたの?」
俺の仮説は正しかった?
「誰かといつもコソコソ電話をしていたのを見かけて……」
「電話? あぁ、あの時か。そっか。あれ、見られていたんだね。油断しちゃった」
栗枝は悪びれる様子もなく失敗したと拳を頭に置いた。
「栗枝。君は俺を騙していたのか?」
「騙す?」
「俺のことは最初から好きじゃなくてただ弄びたかっただけなんだろ?」
「そんなつもりはないけど、神谷くんがそう感じてしまったならそうなっちゃうのか」
「栗枝。返答次第じゃ、俺は君と交際を続けられない。納得できる理由があるなら言えるか?」
少し、俺は気が立っていたかもしれない。言葉も少し強めになっていた。
「私から言えることは神谷くんに対する思いは本物だよ。今までだってずっと好き。いつかはバレるとは思っていたけど、案外早くて自分でも驚いている。ただ騙すつもりはなかったの。私が入れ替わっていたのは自分のためであって神谷くんに心配をかけないための行動だったのよ」
「意味がよく分からないんだが?」
「そうだよね。一から説明する必要があると思う。それは降りてからでもいい?」
「……分かった」
観覧車は地上に降りて俺と栗枝は園内を歩いた。
時間的に帰る人が入退場門へ流れる中、栗枝はベンチのあるエリアに向かった。
「まだ時間は大丈夫そうだね。そこに座ろうか」
「うん」
閉園まで約三十分。余裕はあるとはいえ、帰りのことも考えたらあまり悠長に滞在はできない。それは分かっているが、この時間は俺にとって重要な時間である。
「さて。何から話そうか」
「その前に確認したいことがある。……栗枝。俺は君を好きでいて良いのかな?」
そう言うと栗枝は考える素ぶりをして頷いた。
「そうか。それを聞けて安心した。俺は栗枝を好きで良いんだ」
「良いとは言っても私のことが嫌いになれば遠慮せずに別れてくれて良いんだよ?」
「それはない。俺はずっと君が好きだよ」
「へぇ、そんなこと言ってくれるんだ。ありがとう。私も好きだよ。嫌いになることはないから安心して」
一つの不安が取り除けたことで俺は安心した。
だが、まだ俺の不安が取り払えた訳ではない。
「さて。口で説明しても難しいから見てもらった方が早いかもね。出ておいで」
栗枝がそう言うとどこからともなく一人の人物が俺の前に現れた。
それは栗枝と瓜二つとも言える人物だ。
やはり二人で入れ替わっていたのだ。
「初めまして? ではないけど初めまして。
妹を見て俺はドキドキ感がなかった。
つまりドキドキ感がある方が双葉でドキドキ感がなかったのが三佳と言うことになる。
これで俺のモヤモヤは大きく解消された。
「こうして見比べてもそっくりだ。全く見分けがつかないよ」
「まぁ、双子だからね。びっくりさせちゃったね」
「したよ。それより栗枝」
「「はい」」と双子は同時に答えた。
そうか。苗字は一緒だからそうなってしまうか。
「神谷くん。ややこしいから下の名前で呼んでくれるかな? 双葉って」
「で、でも」
「何を今更。恋人でしょ? 私もこれを機に下の名前で呼ばせてもらうね。拓海くん」
「えー。双葉。今まで下の名前で呼んでなかったの? 私、ずっと呼んでいたんだけど」
「なっ! 三佳。勝手に抜け駆けをしないでくれる?」
「抜け駆けって付き合っているからてっきり呼んでいるものだと思うでしょ」
「仕方がないでしょ。付き合ったばっかりなんだし」
「付き合って一ヶ月目でようやく名前呼び? 遅いのよ」
「な、何よ。それは私の勝手でしょ」
俺を挟んで痴話喧嘩を始める双子の姿に俺は居ても立っても居られない。
「ス、ストップ。同じ顔で喧嘩をしないでくれ」と俺は割って入り仲裁役になっていた。
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