第5話 初デート その1


 六月の中旬ということもあり、日差しが暑くジメジメとしていた。

 この日は栗枝との初デートということもあり、晴れてくれたことはありがたい。

 待ち合わせ場所に来ると既に栗枝は待っていた。


「あ、神谷くん」


「ごめん。待たせちゃった?」


「いや、私が早く来ただけだから。楽しみすぎて昨日眠れなくて」


「はは。子供みたいだね」


「酷―い。子供じゃないよぉ」


「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃないから」


「分かっているよ。さぁ、行こうか」


 スッと栗枝は手を差し出した。

 俺は優しく握った。手を繋いで歩くなんて恋人のようである。いや、恋人同士なので当たり前か。

 この日の栗枝は予告した通り、オシャレを決め込んでいた。

 透き通る水色のロングスカートに白いブラウス。厚底のブーツサンダル。

 ただでさえ高い身長がより高く見える。

 俺は百七十センチあるが栗枝と並ぶとほぼ一緒の高さになっていた。

 制服姿も好きだが私服姿も新鮮味があってなんか良い。

 普段、真面目に見えるがこういうオフ日は普通の女の子なんだなとつくづく思う。

 電車とバス移動で遊園地に着くと結構な人で賑わっていた。


「着いたぁ! 結構混んでいるね。全部乗り切れるかな?」


「全部乗るの?」


「せっかくの遊園地なんだから全部乗らないと損だよ」


 今日の栗枝は機嫌がいいと言うかテンションが高い。余程楽しみにしていたのだろう。

 俺も全力で楽しませてあげないと。

 チケットを買って入場すると人気のアトラクションは既に行列ができていた。


「な、並ぶ?」


「もちろん」


 こう言う日に限って日差しが強い。並ぶのはかなり根性がいる。

 だが、栗枝は弱音を吐くことなく堂々としていた。


「栗枝って暑さは得意な方?」


「いや、私は暑がりだから得意ではないかな」


「無理はしないでね。熱中症とか怖いから」


「その点なら大丈夫」


 すると栗枝はカバンから小型の扇風機にマイクロタオルを取り出した。


「これで暑さも平気。神谷くんの分もあるよ」


「ありがとう。準備いいね」


「こうなるなって言うのは予想できたから。水分補給も大事だから水筒持って来たよ」


 二リットルくらい入る大きめの水筒がカバンから出てきた。カバンが大きいと思ったらそれだったのか。他にも便利グッズが入っているのだろう。

 行列を並び切ってアトラクションを楽しんでいた最中である。

 横に乗る栗枝の顔を見ようと横目で見た時だ。


「ヒャッホー!」


 子供のようにはしゃぐ栗枝の可愛さに見惚れながら、あるものが気になった。

 風圧で栗枝の髪が巻き上がった時に左耳にイヤホンが付いていた。

 髪でイヤホンを隠して音楽でも聞いていたのだろうか。

 別に不快とはならないが、外れてどこかに落としたら危ないと感じた。

 そうなれば困るだろうと思ったからだ。

 ただそれだけ。


「はぁ。楽しかったね」


「そうだね。栗枝」


「ん?」


「その、乗車中だけでも……」


 俺が注意しようとしたその時だ。

 栗枝は髪に隠したイヤホンに聞き耳を立てるように耳を澄ます。


「栗枝?」


「そうだ。そろそろお昼だね。何か食べようか」


「そうだな。何を食べる?」


「あそこのテラス席に座っていてくれる? 私、ちょっとトイレを済ませたいから」


 ササッと急ぎ足で栗枝はトイレに向かう。

 結構限界だったのだろうか。確かに行列に並んでいる間はトイレに行き辛い。

 ひと息つきながら栗枝の戻りを待っている時である。


「お待たせ。お昼、食べようか」


 ドンッと栗枝はテーブルに重箱を置いた。


「そ、それは?」


「作って来ました。今日はデート用のスペシャルメニューです。いっぱい食べてね」


 そんな重たいものどこから出したのだろうか。さっきまでそんなもの持っていなかったような?

 それに栗枝の雰囲気が変わったような気がするが、気のせいだろうか。

 考えるよりも先に広げられたおかずに俺はテンションが上がった。

 揚げ物や肉などガッツリ系のおかずにおにぎりだけが敷き詰められた箱。

 年頃の男子高校生が食欲を唆る品数だ。


「さぁ、遠慮しないで食べて。いっぱいあるから」


「これ、栗枝が作ったの?」


「うーん? そうだね。私が作りました」


「そうなんだ。じゃ、いただきます」


 少し疑問系が入った口調だが、長時間の並びでヘロヘロと言うこともあり、俺は遠慮なく栗枝の弁当を掻き込んだ。


「美味しい。旨すぎる!」と俺は幸せな気持ちで食事をしていた。

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