第15話 エピローグ
ナスタはラースを連れて森の中を探検する。サンドラたちはまだ話があるようだ。ユグドラシルの結界の中なら自由に動くことができる。ユグドラシルやライラックに住むことを許可されている動物たちが、2人に近づいて美味しい木の実や、魚が獲れる場所などを口々に言いながら、ナスタたちについて行く。
「今日は何をしようかなぁ」
「川の上流にちょっとした洞窟があるよ」
「あの沢を超えたらお花畑があるわよ」
「丘を登った先に見える景色が綺麗だぞ」
ナスタが行き先に迷えば、動物たちが候補を上げてくれる。
「今日は天気もいいし、ちょっと歩いて丘の上に上がる?」
ラースが候補の中のひとつを選んだ。
「そうだね。みんなも一緒に行く?」
動物たちは頷いて、各々必要なものを持って、といってもほぼ手ぶらだ。ぞろぞろと動物たちを引き連れてナスタとラースは丘を目指す。坂が急な場所もあるが、しゃべりながら頂上を目指す。
「もうちょっとだよ!」
リスが跳ねながら指を差す。よいしょよいしょと少し息を切らして上がった丘の上。
そこには一本の木が待っていた。
「ふうー。着いたね」
ナスタはちょっと木に背中を預けた。木はワサワサと葉音を立てる。風がびゅうっ!と吹く。
「風が気持ちいいねー」
「でしょー。今の時期は遠くも良く見えるよ」
「木の実持ってきたんだ。食べようよ」
ナスタたちは座って景色を眺める。時々遠くで何かがチカチカ光る。
「あのピカピカ光ってるのはなんだろう」
口に木の実を放り込みながらナスタは話す。
「あれはね、海の水面が太陽に照らされて光ってるんだよ」
「ふぇー…え?」
ナスタの後ろから声が聞こえた。するとそこには、小さな男の子がいる。しかしどこかで見たような顔立ちをしている。
「ここにエルフが来るなんてね。何年ぶりだろう?ラースはたまに来るよね」
「まあね、アイリスのお気に入りの場所だったから」
「母さんの?」
「ふうん。アイリスの子というのはその子かい。母上も早く言ってくれればいいのに」
「母上って?」
「ユグドラシルだよ、ナスタ」
「ユグドラシルの?そうなの?」
「母上は動物に頼んで、この聖域や遠くの清浄な場所に、自身の枝を子として挿して貰ってるんだよ。種からじゃなく枝から僕たちは成長するんだ。だから、母上のコピーだね」
「鹿王のところにもいるよ」
そうラースは応えた。ユグドラシルの若木は遠くの景色を見ながら
「アイリスは毎日この場所に来ていた。ほら、あそこに村があるだろ?エルフはヒト族と交流しないから見るだけしかできないけど、ずっと話してみたいと思ってたんだろうな」
「あの海も行ってみたいって言ってたよ」
「そうだね。アイリスの父母とラースの祖父が旅をしているのも、いろんな景色を見てみたいと思って行動しているんだろう」
「伯父さんはユグドラシルのそばにいるけど…」
「ライラックはこのあたりの守護の役を父から継いだからね。簡単には動けないんだよ。その代わり魔法や知識の域は父以上だ」
「僕もおじいちゃんやおばあちゃんみたいに、外を見て回りたいんだ」
ナスタは若木を見て、目の前の景色を眺めた。若木はフフッと笑って
「君はやはりアイリスの子だなぁ。アイリスも外に出ていったと思ったら、ヒトと暮らすと言ってこの地を離れてしまったよ。母上から聞いたが短い命だったけど君が生まれて出会えたのは良かったんじゃないかな」
そう若木はナスタに伝えた。他の動物たちもナスタの周りに集まる。
「君がハーフに生まれたのは何か意味があるのかもしれない。君の伯父や僕の母上、ラースやサンドラも出会うべくして出会ったんだよ。そして僕にもね」
若木はナスタの頭をポンポン撫でる。
「君はまだまだ成長しなくては。この世界は君が思うよりずっと広いんだよ」
「あの海よりも?」
「そうだよ。海の向こうにまた国があるんだ。いろんな動物や聖獣もいるよ。僕の兄弟もいるしね」
「そうだ、聖獣様にも会いに行こうと思ってたんだ」
「だからそれまでに君はもっと力をつけなくてはね。ラースはアイリスの相棒だから無理だけど、この子の相棒も考えておくれよ、ラース」
若木はラースを見てパチン!とウインクした。ラースはちょっと顔を赤くして
「まだ、その時じゃないと思うけど。父さんだってもっと年取ってからボクをつくったらしいからさ」
「まぁ、君たち聖獣の成長は早いからね。ラースだって本当はサンドラより大きいでしょ?」
「え?そうなの?ラース」
ナスタはびっくりしてラースを見た。この間見た姿はラースの本気ではなかったのか。
「ナスタがびっくりしてるじゃん。いろいろネタばらししないでよ」
「ははは。ごめん。とりあえずさ、このユグドラシルの地で力と知識をつけて、世の中に出ていっておくれよ。そしていろんな思い出を持って帰ってきてくれたら、僕らも嬉しいからさ」
「うん。それまでこの丘にまた来ていいかな?」
「それは大歓迎だよ。ただ、ライラックは連れてこないでおくれよ。僕は若木の中でもおしゃべりだからね。思わず余計なことまでしゃべりそうだから」
「それはもう十分に分かったよ」
ナスタは苦笑いをして若木と約束する。そしていろんな話をしていると
「さて、君と話すと一日経つのが早いね。もう陽が落ちて来ているよ。母上も君を心配して連絡してきたようだ。動物たちもねぐらへ帰る時間だね。ここは危ない魔物は出ないから大丈夫だろうけど、動物たちよ、ナスタをちゃんと送って行きなさいね」
若木は手を振って自身の木の中に入っていった。
「ボクがいるから大丈夫だよ」
ラースはちょっと頬を膨らました。
「いやいや、そうだったね。ラース、よろしく」
辺りに若木の声が響いた。そして動物たちと一緒にナスタとラースはユグドラシルの元へ帰っていく。
いつかこの丘から見た景色よりも、ずっと遠くまでナスタは冒険をしに行くんだと改めて目標を持った。家に帰るとユグドラシルが腰に手を当てて
「遅いわよー!ライラックのご飯が冷めちゃうじゃない」
「ユグドラシルは水でいいじゃないの」
「そうだけど、ナスタはあったかいご飯がいいでしょ?」
「そうだね。でもみんなと食べるともっと美味しいよ」
「ボクもご飯はみんなと一緒がいいな」
「早く手を洗ってきなさい」
ライラックがナスタに声をかける。ラースも一緒についてきて洗面台で手を洗う。サンドラは大あくびして床に寝転んでいる。
「では、食べよう」
「いただきまーす!」
ほんの数ヶ月前には知らなかった者同士が、今は家族として一緒の食卓にいる。それだけでもナスタは生きてて良かったと思っている。旅立つ日までこのあたたかな感情を大切にしようとナスタはみんなの顔を見て微笑んだ。
終わり
☆☆☆
15話という短いお話でしたが、いかがだったでしょうか。この先の展開がなかなか思いつかなく、一旦の区切りと致しました。またいつかナスタの成長記録を書けるときがあれば、お付き合いください。
そして、別の連載も進行しております。
「目覚めたら20年経っていた英雄の話」
こちらも不定期ですが投稿していますので、暇な時間のお供として読んでいただけると幸いです。
ハーフエルフは外が眩しい ミナヅキカイリ @kairi358
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