第8話 ライラックからの贈り物
ユグドラシルに強引に、ナスタのお守りの代わりになるものを、ライラックは作らされる羽目になった。元のお守りをどう使おうか悩む。妹とその夫が作ったものだ。それを組み込もうとは思うが、しかし。
部屋の中で考えても埒が明かないので、庭に出てみる。庭の草花は生えるに任せているが、雑草でも薬になるものが多いから、定期的に取っている。
そういえば昔、白詰草が固まって生えていたことがあって、妹が教えてくれたが、ラースがその上で寝転がって潰したから、妹が泣いたことがあった。
1本無事だった白詰草を妹の手首に巻いてつけたら泣き止んだな、とライラックは思い出した。
1ヶ月後、外でラースと遊んでいるナスタをライラックは呼んだ。
「なあに、伯父さん」
「ほら、出来たぞ」
相変わらず口数の少ないライラックだが、差し出されたものをナスタは受け取る。それは木で出来たバングルだった。
「ナスタにはちょっと大きくない?」
ナスタの手首に付けてもスカスカなのを見て、ラースは不満を言う。
「大人になれば丁度合うようにしてある。
木を何枚も重ねたから強度もある」
「それで?アイリスのはどこにいったの」
アイリスのお守りはどこに使われたのかとラースは言う。
「裏を見てみろ」
「うん?」
ナスタはバングルの裏を見てみた。すると何かが彫ってある。これは?
「お前の名前に由来する花だ」
フンフンとラースが覗く。
「これ、あのお守りをはめ込んだの?手間かけるねぇ。しかも色まで着けてる」
「自分の花の色を知らないなんて嫌だろう」
その花の色は夕陽のようなあったかい色だ。ナスタは嬉しくなった。
「ありがとう伯父さん。大人になったらつけるよ。それまで宝箱に入れとく。無くしたら嫌だもんね」
「あぁ」
そう返事して、ライラックは自分の部屋に入って行った。
「見てよ、ラース。この花が僕の名前の元なんだって。いつか本物を見てみたいな」
「そうだね。また楽しみが増えたじゃない」
「ラースのお父さんにも会ってみたい」
「ユグドラシルは2、3年後くらいって言ってたけど、ボクの父さんは気まぐれだからね。明日帰ってくるかもしれないし、10年後かもしれない。まあ、ボクたちは寿命が長いから気長に待つといいよ」
「ハーフエルフも長生きなの?」
「一般的にはハーフエルフは、エルフより寿命が短いって言われてるけど、そんなのはただの目安だよ。エルフよりも長生きなハーフもいるだろうし、道半ばで亡くなるエルフもいる」
ラースはアイリスのことを考えているのだろうか。少し悲しい顔をした。
「ナスタには長生きしてもらわないと。まだまだ知らないこと、たくさんあると思うよ」
「そうだね、外に出られるように体を強くしないと」
ナスタは腕をぶんぶん振り回して動けることをアピールしたが、バランスを崩しそうになった。ここに来て1ヶ月は経ったが、まだ全快とは言い難い。それくらいあの呪いは強かったのだ。ラースはナスタの体を支えて
「そんなに焦らなくてもいいよ。毎日ボクと遊んでいれば、そのうち筋肉もついてくるかもね」
グイグイと自分の体をラースは押しつけてくる。押す力が強いのでナスタはズルズル前に滑っていく。きゃっきゃと2人はじゃれ合いながら庭を駆け回っていく。
そんな2人の声を少し離れた部屋で、ライラックは静かに聞いていた。
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