第6話 ユグドラシルの青空教室

 壊れてしまったお守りを、ナスタはもう一度眺めた。


「これ、どうにか残せないかな」

「もうナスタを守る効果はないけど…残った欠片で身につけるものを作るとか」

「そういうの、いいよね。確かライラックが作るの上手いじゃない?」


 と、ラースに話をふられたライラックは、眉毛をピクッとさせ顔をしかめた。


「…壊れたものは、埋めればいいじゃないか。元はユグドラシルの枝だ。人工的なものが入ってない限りは、土に還る…」

「じゃあ、決まりね。ライラックが何か作ってあげるのよ!」


 半ば強引にユグドラシルに決められてしまった。渋い顔をさせたライラックは、しょうがないというふうにため息をついて、家に戻っていった。




「じゃあ、わたしたちはナスタにいろいろ教えてあげなくちゃね」


 と、ユグドラシルは張りきる。


「いろいろって?」

「ライラックは面倒くさがって教えないでしょうから、この世界の大まかなことを教えるわ」


 確かに伯父さんは面倒くさがりかもしれない。


「この世界のことはナスタは何を知ってるの?」

「うーん。あまり知らない。家と家の周りしか出たことがないから、家の近くの村の人がたまに訪ねてくるくらいで。だって自分の母さんがエルフだって事も知らなかったんだもの」


 ナスタはユグドラシルにそう応えた。


「そうね、まずこの星の名前はガルドって知ってるわよね。この星には人間やエルフの他に、ドワーフや人魚族、竜人族などいろんな種族が存在するわ。そしてこの世界の各地域で信仰されているのが、聖獣と呼ばれる存在よ」

「聖獣?」

「そう、例えばわたしはエルフにとっての神的な存在だけど、わたしを創ったのは聖竜と呼ばれる自然を司る聖獣ね」

「えっ、ユグドラシルが一番上じゃないんだ」

「そうよ。わたしは元々は小さな種だったの。この星が生まれて環境が整ったときに、聖竜がわたしを創ってこの地に蒔いたの。そこから何千年何億年かけて今のわたしがあるわけ。もちろんわたしだけじゃこの世界は維持できないわ。だから他の聖獣もいろんな場所で支えているのよ」


 へぇ、とナスタは頷いた。自分の周りは父と母しかいなかった。外に出てみなければ、今ユグドラシルが話した世界を知るのはもっと後になったかもしれない。


「他にはどんな聖獣がいるの?」

「他には…今ナスタのそばにいるわね」

「へ?」


 と辺りを見回すと、ナスタの隣にラースがちょこんと座っている。ナスタはラースの顔を見る。ラースはニカッと笑う。


「え?もしかしてラース?」

「そうだよ。ボクはね、聖狼の子孫なんだよ」

「せいろう…?」

「狼、それもフェンリルっていう伝説の狼ね。今はナスタの腰くらいの大きさだけど、もっと成長すればナスタが見上げるほど大きくなるわよ」

「そうだよ。ボクの父さんなんかライラックよりも大きかったよ」

「そういえば、ラースのお父さんって見たことないなぁ。どこにいるの?」

「ラースの父親は今わたしのおつかいで遠いところに行ってる。もう2,3年したら帰ってくるはずよ。いろいろ頼んでるし、他のエルフのところで今は休んでるらしいわ」

 

 ライラックよりも大きいフェンリルに会ってみたいけど、今はちょっと怖い。ラースくらいがちょうどいい。


「ボクの父さんは強いよ。そこらへんの猛獣とかかすっただけで吹っ飛ぶから」


 ひえぇ。そんなに強いんだ。


「聖狼は別のところに住んでいるわ。ラースたちはわたしがお願いしてライラックの一族と暮らしてもらってるの。他にも眷属はいるからそこは大丈夫みたいね」


 と、ユグドラシルは説明する。


「じゃあ聖竜も別のところにいるんだね」

「うーん…いることはいるけど、この星じゃないわね」

「そうだね」

「えっ?ど、どこに?」

「聖竜はこの世界にいる聖獣のまとめ役なんだけど、じゃあこの星は誰が創ったんでしょうか?」

 

 いきなりクイズが始まった。ナスタは首を傾げる。聖獣達じゃないの?


「この星を創ったのは『神様』と呼ばれている存在よ。ただやっかいなことにその神様は人間をあまり好きじゃないの。他の種族はそうでもないんだけど。理由を聞いても教えてくれないのよ」


 とユグドラシルは話した。最後にとんでもないことを言っている。


「ユグドラシルって神様?に会ったことあるの?」

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