第4話 ラース

 ナスタが一回起きてから、さらに2日が経った。ようやくベッドから降りられるようになった。そしてすぐに顔を洗いに行きたい。なぜなら寝ている間、ラースがナスタの顔をベロベロ舐めてたからだ。

 一応本人は息をしているかの確認のつもりだそうだが、ナスタはその間、覚えていないが変な夢を見たようだ。


 ベッドから降りて部屋のドアを開けた。家の中はしんとしている。2人はどこかへ出かけているようだ。とてとてと廊下を歩き、ドアをひとつずつ開けて確かめ、洗面台に辿りついた。蛇口を捻って出た水で顔を洗い、タオルで顔を拭いたら幾分かスッキリした。


 この家は部屋数が多い。窓を閉め切り、暗い部屋が多いが1番広い部屋には、台所やテーブル、ソファーがあった。壁時計のカチカチする音が聞こえる。ナスタはソファーに座って2人を待つことにした。


 1人で待つ時間はとても長い。たとえ1分だとしても30分にも1時間にも感じる。ナスタは待つ時間が1番嫌いだ。1人でいると首元を何かに撫でられるかんじがあるからだ。それは母や、父がいたときは何にも無かった。気づかなかったのかもしれない。それが両親が亡くなると同じに毎日首に違和感を感じていた。まだお守りがあったからそれでも我慢できた。しかし知らないうちにお守りにヒビが入り、体全体が重くなってこのことが母が「命の危険」と言っていたのだと思って、あの大きな木を目指したのだ。

 幸い、ユグドラシルという大きな木に辿り着いたあとは、首元の違和感は感じない。しかし1人は嫌だった。


 すると、玄関が開く音がしてトットットと足音がする。ナスタがいる部屋のドアがひとりでに開いたと思ったら、


「あれ?起きてたんだね」


 部屋に入ってきた犬のラースがナスタに気付いて声をかけた。


「ライラックがそろそろナスタをユグドラシルに会わせるから、起こしてこいって言ってたの」

「そうなの…」

「そうそう。でも起きたばかりでしょ。お腹も空いてるよね。ホットミルクくらい飲む時間はあっても良いでしょー」


 と、ラースは浮かせたコップに水差しを傾け、ミルクを注ぐ。そしてゆっくり10回くらいくるくるコップを横に回転させると、湯気が出てきた。それをナスタに差し出す。


「ほら、ちょうどいい温度だと思うよ」

 

 ナスタは受け取ったコップを持って、飲み始めた。あの苦い薬のあとだからより、ホットミルクが美味しい。それにしても


「あの、ラースって凄いんだね」

「ん?何が?」

「だってコップ浮かしたり、温めたりしてた」


 ナスタがキラキラした瞳でラースを見る。魔法など初めて見るのだ。


「ボクは人間やエルフ達みたいに、手先が器用じゃないからね。風の魔法で動かしたり、振動を起こしてあっためたりしてるだけさ」


 褒められるのは滅多に無いのだろう。ちょっと照れている。


「アイリスは魔法を使わなかったの?」


 そう聞かれて、そういえば母は使ってなかったなと思い出した。多分、と答えると


「人間も魔法を使えるはずだけど、エルフしか使わない魔法もあるし、人前では使わなかったのかもね」


 ラースの言葉を聞きながら、ナスタはホットミルクを飲み干した。お腹があったかい。


「それじゃ、ユグドラシルのところへ行こうか」


 ナスタが持っていたコップを風魔法でシンクに置いたラースは、ナスタをユグドラシルの元へ案内し始めた。

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