第3話 ナスタ

 ライラックは、自分の母のアイリスの兄だという。と、すると自分の伯父さん?


「私の顔を見て、驚いたのはそういうことか。自分の母親と似た顔立ちだからな」

「でも、この子、耳が尖ってないよ。どういうこと?」


ラースがぴょんぴょん跳ねる。ライラックは少年の顔に手を置き、何やら呪文を唱えた。すると、少年の耳は尖り、目もライラックと同じ目になった。


「おそらく、アイリスは人間と諍《いさか》いを起こさないよう、夫の方の顔に魔法で似せたのだろう。自分も人間に似せれば、余程のことがない限り、見破れん」

「そーなの」

「それで、両親はどうしたのか。お前がなぜ1人でここに来たんだ」


 少年はそう言われて少し黙った。そして口を開くと


「父さんと母さんは去年、流行り病で死んじゃったよ。だから僕は1人なんだ」


 それを聞いたラースはくぅんと鳴き、少年の顔をペロっと舐めた。少年が思い出して泣きそうだったからだ。

 ライラックは、そうか、と呟き、黙る。少しすると、立ち上がり歩いて姿が見えなくなったが、帰ってくると、手にはコップを持っていた。それはさっき、鼻にツンときた匂いのやつ。


「これを飲め。一口でもいい。お前は血を流しすぎたからな。増血剤と栄養剤だ」


 動けない少年にストローを差したコップを口の近くに差し出す。少年は、うぇっ、という顔をしたが一口飲んだ。次に水も差し出されたので2倍飲んだ。


「このコップ一杯分は嫌でも飲んでもらう。そうじゃないとユグドラシルの元に連れていけないからな」


 ライラックはコップを机の上に置くと、椅子に座りまた考え込んだ。


「ねぇねぇ、君って名前なんていうの?」


 うつらうつらし出した少年にラースは話しかける。頭がぼーっとしながら少年は


「ナスタ。ナスタチウムって花からとったんだって母さんが言ってた…」


 それを聞いてラースは


「そーなんだー」


 と、ふふっと笑った。




 ナスタが眠ったあと、ラースは椅子に座っているライラックのそばに行く。


「ねぇ、あの子どうするの。アイリスの子どもって分かったんでしょ」

「そうだな…」

「まさか追い出したりしないよね、伯父さん?」


 ジロリとライラックを見たラースは、トコトコとナスタがいるベッドに行き、顔をナスタに近付ける。


「懐かしい匂いがしたと思ったんだ。顔は違うのになぜかなって」


 じっとライラックはラースの言葉を聞いている。


「でもアイリスの子どもなら、ボクは大歓迎だもんね。髪は茶色だけど本当の顔は一族寄りだし」


 ボクの鼻は間違いじゃなかった、ふふん!と鼻息荒く言う。


「ナスタが起きたら、ユグドラシルさまのところに行くんでしょ。ボクも連れてってよ。久しぶりに話したいなぁ」

「そうだな…」


 ラースが勢いよく尻尾を振る。ライラックはもうひとつの気掛かりに悩んでいた。

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