第19話:夜明け

 瞼を突き破る光を感じ、俺は目を覚ます。

 社員寮の自室、寝心地がそれほど良くないベッドの上。


 上体を起こそうとするが、強烈な倦怠感に苛まれる。

 とてつもなく長い夢を見たかのような疲労感。寝転がりながら目覚まし時計を見ると、もうすぐ早朝の日課に出なければならない時間だった。



 ――なんだか、ヘンな感じだなぁ。


 重い身体に気合いを入れて、なんとかベッドから這い出る。

 運動用のジャージに着替えて、顔を洗う。水分補給を済ませてから基地の出入り口へと向かった。


 完全に陽が昇りきっていない空、涼しい風と穏やかな日差しのおかげで気分が良い。

 ゲートから外に出て、いつもの待ち合わせ場所である交差点付近に辿り着く。

 

 そこに、いつもと変わらずミヅキが待っていた。

 学校指定らしき赤いジャージ、彼女の姿を見ると――何故だか、気が休まる感じがする。

 もう何年も会っていなかったような気さえしたが、そんなわけがない。


 それなのに……どうしてこうも、ミヅキの顔を見て――嬉しく思うのだろうか?




「おはよう、シロタさん」


「ああ、おはよう」


 挨拶を交わし、ランニングを始める。

 体力は確実に付いてきているし、自信も出てきた。

 あとはちょっと出てる腹が引っ込めば……何も言うことは無いのだが。



「あの……シロタ、さん?」


 横を走りながら、ミヅキが口を開く。

 その声色は、どこか不安そうな感じだ。



「シロタさん、何か……覚えてません? その、夢とか」



「夢? 俺の夢はそうだな……働かなくても一生暮らしていけるだけの金を手に入れることかな。宝くじは毎回買ってる」


「いやいや、そっちの夢じゃなくて――」


 ――何の話だ?


 しばしの沈黙。ペースを保ちつつ、人気の少ない街中を進む。

 隣にいるミヅキは少し俯いていた、何か考え込んでいる様に見える。


 しかし、何で悩んでいるのか……俺にはさっぱりだった。

 思春期の女子のことなんて、何もわかるわけがない。







「本当に、何も覚えてないんですか?」



「何のことさ?」

「例えば、私の名前とか」


「君の名前はミヅキだろ?」




「もう、いいです! シロタさんのバカぁ!」

 そう言うと、急にミヅキがペースを上げる。

 いくら体力が付いてきたとは言っても、現役スポーツ女子高生の機動力に追い付けるわけがない。

 息を切らしながら、なんとか後ろ姿を追い掛ける。



 俺はいつまでもこんな感じなのだろうか。

 誰かのために戦って、理想に追い付けなくて、情けない姿をミヅキを始めとした中高生に見せ続ける。


 でも、俺にできることはそれだけなのだ。


 何も変わらない。

 だが、変えようと足掻くことはできる。



 俺は、そのために――銃を取った。

 

 


 

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