第2話【青年期】
青年になったジェイドは顔付きが男らしくなっており、対するシェリーも綺麗な女性へと成長していた。
ジェイドはシェリーに恋をしていたのか、村外れの綺麗な花が咲く場所で告白をしようと誘う準備をした。
「シェリーおはよう。明日さ、俺16歳になるんだよね。でさ、成人したらシェリーに見せたいものがあって……。シェリーは予定とかあったりするかな?」
少し緊張してたのか、チラチラとシェリーの顔色を伺うジェイドだったが、シェリーは目を合わせれずにいた。
「ジェイド、成人おめでとう。でも、ごめんなさい。明日からはもう会えないの……」
下を向くシェリーは目の前のジェイドの顔が見れずにいた。
(なんて言えばいいのかな……)
「ジェイドに聞いて欲しいの……。あなたと会えたこと……」
シェリーは喉を詰まらせてしまう……手をギュッと組んで涙を堪えながら話す。
「あなたと会えたことが、わたしの宝物だった……。ジェイドから貰ったコマ、御守りにして持ってるね?」
「変なこと言ってないでさ、明日絶対ここに来てよ。めっちゃ綺麗な景色見せてあげっから!」
ジェイドはシェリーの手を握って、離そうとしなかった。
「……ごめんなさい」(明日も、明後日も、もう会えない……)
ジェイドの手を優しく振り払って、後ろを振り向いた。
「わかったよ! なんだよ……。シェリーだって、俺が成人する日を凄い楽しみにしてくれてたじゃんか!」
後ろを向いて涙するシェリーを見たジェイドは、傍に寄り添いたかったが、変なプライドが邪魔をして傍に寄り添えずに村に帰った。
成人の日の前夜、ジェイドは、シェリーの事で頭がいっぱいになって、寝れなくてそのまま成人の日を迎かえた。
いつもの場所でシェリーを探すも姿はない。仕方なく、村に戻ったジェイドは冒険者ライセンスを貰うことなる。
冒険者ライセンスを貰ったジェイドは、村長の講習を受けなければならなかった。
村の公民館のような場所に案内されると、村長の話が始まった。しかし、ジェイドは人の話を聞くと眠くなる癖があるのと、あまり寝てないせいで半目を開いたまま講習が終わることとなる。
講習が終わると、村長から銅色の冒険者ライセンスを渡された。
銅色に輝くライセンスは、心の晴れないジェイドにとっては、余り輝いて見えるものでは無かった。
(シェリー。明日、会いに行くから……)胸のつっかえが取れないジェイドはシェリーとの思い出のコマを握りしめて寝た。
成人の日から2日後
冒険者ライセンスを手にしたジェイドは父から貰った剣を手にし、シェリーの帰り道である山に向かうため、魔除けチョーク等の道具や地図の準備を始めた。そして、イサール村から山の中枢ドッグプリズンへと向かう。
「はぁ……。はぁ……。山ってこんなにキツかったんだな。運動には……。はぁ……。自信あったのにさ、足が重いし、剣重いし、荷物重いし、今日はこの辺で休むとしようかな」
ジェイドが休もうとしていた場所は山の中枢近くドッグプリズンという危険地帯でもあった。
そのため、ジェイドは荷物の中にある魔除けチョークという道具で魔法陣を描いた。
◼成人の日から3日後
「え、あれ? 朝? 朝ぁあ? う、嘘だろぉ。へ? 荷物は? ある! 剣は? ある! よし! よし! と、とりあえず地図見て……うーん……ドッグプリズンかぁ。危険地帯だけど、シェリーいつもここ通ってたしなぁ」
ジェイドは寝惚けながら、自分の手荷物と辺りに魔物がいないか注意深く観察した。
ドッグプリズンには近づくなという村の掟や冒険者ライセンスを貰う時に必ず言われることだが、ジェイドは自分が強いという謎の自信をもっていたせいか、迷うことなく突き進む。
ジェイドが1時間程進んだ先には洞窟が見えた。
洞窟の中は広いのに魔物がいなくどこか不気味だった。
「洞窟……。魔物の痕跡がない? ないとかあんのかよ。ここドッグプリズンだぜ? 危険地帯って、全然危険じゃないじゃん。でも、冒険者ライセンス貰う時に受けた講習だと、痕跡を消す魔物がいるって言ってたような」
カランカランカラン……。広く続く洞窟の奥の方から聞こえる謎の金属音とシュルルルルという機械音が微かに聞こえ、ジェイドは音のする方へ進んで行った。
すると、ジェイドがいる階層の下の方に機械族のようで人族のような何者かがいた。
なにやら、ブツブツと呟きながら歩いている。更に下の方にはシェルターみたいなものが複数あるのを見つけた。
ジェイドは予想を遥かに上回る危険性を感じ、この場を離れるために来た道を辿って帰ろうとしたが、下の階層にいたシェリーを見つけて、大きく手を振りながら、声をかけた。
「シェリー! おーーい! シェリー!!」
シェリーは無言でジェイドを睨みつけ、30mはある高さを一瞬で飛躍し、短剣でジェイドを殺そうとするが、ジェイドは咄嗟に持っていた剣で短剣を弾き返した。
(はぁ、はぁ、はぁ、シェリーどうしちゃったんだよ……)
ジェイドは来た道を辿って走って逃げた。
シェリーには会えたがシェリーは異様な殺意でジェイドを攻撃し、更に走って追いかけてきた。
洞窟の入口まで走って逃げ切ったジェイドは、息を切らしながら、洞窟に向かって叫ぶ。
「はぁ、はぁ、はぁ、シェリー! 俺は、シェリーに成人したってことをちゃんと伝えたくてさぁ! 友達だろ? 俺たち! なのに、なんで、俺を殺そうとしたんだよ! なぁ!」
ジェイドの背後には、体長が5mはある犬型の魔物が今にもジェイドを噛み殺そうとしていた。
魔物は唸り、ヨダレを滴(た)らしながら、ジェイドに襲いかかった。
「あぁぁぁ!!!」
ジェイドの声を聞き、正気を取り戻したシェリーは走って声のする方へと向かった。しかし、ジェイドの姿はなくジェイドの片腕と思われる肉片が洞窟の入口に落ちていた。
「なんてこと……なんてことなの……どうして……」
シェリーは気を失った……
◼インストールを開始します■
~シェリーの記憶~
「シェリー。おはよう」
遠くから、黒髪の少年がこっちに向かって走ってくる。彼は私と遊ぶことが好きだったみたい。木漏れ日が踊るように優しい風が吹く場所で、あなたと遊ぶコマや話す時間が私の心の傷を埋めていった。
~8年の歳月が過ぎた~
「シェリーお待たせ。明日さ、俺16歳になるんだよ。だから、明日成人したらシェリーに見せたいものあるんだ。明日、予定とかあったりするかな」
私を見る彼は、私に恋をしていた。私も彼と同じ気持ちだったから、すぐに分かった。
ジェイドと二人でいる時間はもうお終い。そう思うと、心の中が空っぽになる感覚がした。
まるで、私の半身が無くなったかのような、そんな気持ちになった。
シェリーはジェイドに会えないことを告げると、後ろを向き、泣くのを我慢して、ジェイドの元から去っていく。
距離が離れる程、抑えてた感情が涙と共に溢れ出た。
~3日後~
「シェリーよ……お前はもうこの世からいなくなる。言い残すことはないか?」
シェリーは震える手を握りしめながら答えた。
「ううん……後のことはお願いね?」
「分かった……では、人格のインストールを始める」
シェリーの身体に新たなる人格が入るために透明な機械シェルターがシェリーの体を覆って、多くのデータがシェリーの脳内に入ろうとしていた。その時、遠くから何者かの声が聞こえた。
「シェリー! おーーい! シェリー!」
眠りにつき始めたシェリーにジェイドの声が聞こえ、シェリーは目を覚ました。しかし、人格の破壊と再生の最中に目覚めたため、激しい頭痛と共にシェリーはジェイドの方を見た。
「うっうう。うぁぁあ………」
シェリーは腰につけていた短剣を手にし、ジェイドを殺そうと飛びかかった。しかし、ジェイドに弾かれた衝撃でシェリーは人格が不安定となり、正気を保つこととなった。
「ジェイド……? どうして……。ここに? どうして……。うっ……」
走り去るジェイドに外が危険であることを伝えるべく走るシェリーだったが、シェリーの目の前でジェイドは片腕を失い、ジェイドの肉体を魔物が食べて何処かに走り去って行くのを目撃した。
その瞬間にシェリーは、ショック状態となり新たな人格がシェリーの中にインストールされ始めた。
アナスタシス─旅路の果てに君に会う─ @NEKONOTEOKARITAINEKO
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