第3話 井上麻美
明のクラスに井上さんがいた。中学と高校が距離的に近いのもあって同じ高校に進学した同級生は何人かいる。だから井上さんが同じ高校に入学してもおかしくはなかったが、明とのこともあって動揺した。しかも同じクラスだなんて…
「明のクラスに井上さんいたね」
「…うん。」
「…教室いこうか」
「…そうだな」
言葉が出なかった。わたしも動揺したけど明はそれ以上だったと思う。
教室の入り口に席次表が貼ってあった。どうやら名前順に並んでいるようだった。席に着いたら、後ろの子に声をかけられた。見た目少しギャルっぽかった。
「柏森さん…だよね!」
「あ…はい。えっと…」たしか席次表の私の後ろは工藤という苗字だった気がする。
「工藤さん?」
「うん!工藤リナです。これからよろしくね!」
「こちらこそよろしく」
工藤さんと中学時代の話や最近気になるカフェの話をして盛り上がった。お互いスイーツが好きでそこから意気投合してずっとしゃべっていた。井上さんの件で不安だった気持ちは工藤さんと話していて少し落ち着いた。
「今度一緒にお茶しようよ。気になるカフェがあるんだ!」
「うん、是非!」
「じゃあ連絡先交換しよ!」
工藤さんと連絡先を交換したところで担任が来て、体育館に向かった。
入学式は滞りなく進み、教室に戻った。
「これからこのクラスの担任となる古川大輔です。1年間どうぞよろしく!まずは一人ずつ教壇に立って自己紹介をしてもらいます。」
わたしは自己紹介が苦手だ。主だった趣味はゲーム、映画、スイーツ巡りだが、女子の身でゲームは紹介しづらいし、スイーツ巡りは自分の雰囲気に合わないため、たいてい映画を趣味として紹介している。
「柏森紗夜です。家では映画を観て過ごすことが多いです。よろしくお願いします」
あたりさわりのない自己紹介になってしまった。好きな作品について言っとけばよかった気がした。
次は工藤さんが教壇に立った。
「工藤リナです。わたしはスイーツ巡りや編み物が好きです!スイーツに詳しい人とお話できたら嬉しいです。よろしくお願いします。」
『工藤さんって編み物するんだ』
見た目ギャル寄りだからか編み物しているイメージが湧かなかった。見た目とのギャップがすごくて印象に残った。
自己紹介が終わった後、オリエンテーションが行われて下校となった。
工藤さんに「また明日」と挨拶し、校門前で待ち合わせている両親と明達と合流した。
「クラスどうだった?」井上さんのことが気になっていたので遠回しにクラスの話から切り出した。
「ん~初日だからなんとも言えないけど話が合いそうなのはいた。」
「へ~よかったじゃん」
「そっちは?」
「後ろの席の子と仲良くなったよ。今度一緒にお茶する約束した。」
「仲良くなるの早いなっ」
その日はうまくタイミングがつかめず、井上さんについて聞くことができなかった。
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井上さんが同じ高校に入学していたのは知らなかった。中学ではたまに話すくらいだったし、告白されてからも関わることがなかった。
「明のクラスに井上さんいたね」
「…うん。」
「…教室いこうか」
「…そうだな」
武者震いのような興奮と不安による緊張を抱えながら教室に向かった。
教室の入り口に席次表が貼ってあるようで、何人かその前に立っていた。そのうちのひとりと目が合って心臓が跳ね上がった気がした。彼女は驚いたような顔をした後、明るい笑顔で声をかけてきた。
「明くん、久しぶり」
「…うん、久しぶり。同じ高校だったんだね」
「しかも同じクラスだったからびっくりしちゃったよ。あっ、明くんの席は窓際から3列目の一番後ろだったよ。」
「お…おうありがとう!」
「ちなみわたしは、前から二番目だったよ!じゃあ…またね」
井上さんは教室に入っていった。彼女から話しかけてくれたのはありがたかった。気まずい雰囲気にならないよう頑張ろうと思っていたが杞憂だった。
席についた後すぐに担任が来て、体育館に向かった。
入学式は滞りなく進み、教室に戻った。
「これからこのクラスの担任となる山田康太です。担任だけでなく体育も担当だからな!1年間楽しくやっていこう」
山田先生は見た目がっちりしていて言われなくても体育教師だってわかった。
「まずは教壇に来てもらって自己紹介をしてもらいます!秋月から自己紹介よろしく!」
秋月と呼ばれた生徒は教壇に立った。見た目、中肉中背だが身体はしっかりしているような印象を受けた。
「秋月陽平です。サッカーが好きなので、部活もサッカー部に入ろうと思っています。家ではサッカー観戦するかゲームして遊んでいます。」
『ゲームするのか』
サッカーはさほど驚かなかったが見た目からインドアな趣味を想像できなかったのでゲームは意外だった。
「次は…柊!」何人かの自己紹介が終わって俺の番がきた。
「柊明です。趣味はインドアなものが多く、読書するかゲームするかしています。部活は…考え中です。よろしくお願いします。」
ゲームという単語を出した瞬間、秋月と目があった気がした。
自己紹介が終わった後、オリエンテーションが行われて下校となった。
校門前で両親、柏森家と待ち合わせる予定だったのですぐに向かった。
「明こっち。」手を振る母が見えた。まだ紗夜は来てなかった。
「紗夜ちゃんとは…違うクラスだった?」
「ああ、でも趣味の合いそうなのはいた。」
「それなら良かった。まあ明は優しいし、紗夜ちゃんもクラス違えど近くにはいるんだし、楽しく過ごせるでしょ。でもなにかあったら相談しなさいね。」
「…ありがと。」
母はちゃんと俺のことを見てくれている。井上さんに告白されたときも母は親身に相談に乗ってくれた。この人が親でよかったといつも思う。少ししたら紗夜も合流し、他愛もない話をして帰宅した。
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