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 草木も寝静まる夜更け。全てが静止したと錯覚してしまいそうなほど静かな夜に、小さな足音だけがあった。ひたひたと歩くその足は靴も履かぬまま屋外へと繰り出すと、小さな歩幅でゆっくりと申の封印が行われる神社に向かい歩いた。

 その途中、明かりの灯った家が目に入った。夜でも明るい都会と違い、田舎の夜はとても暗い。その中で眩い明かりを放つ家はあまりにも目立っていた。誘蛾灯に誘われる虫のように、足音は明かりの灯る家へと進んでいく。

「全く、『封人会』の奴らも驚かしよってよ。早く来るならそう言えっちゅうねん」

 家の中から聞こえてきたのは妹島の声だった。苛立った口調とは裏腹に声色は妙にご機嫌だ。

「明日が終われば全部終わりだ。なあ、ゆきちゃん?」

 女性のむせるような声が聞こえた。喉を塞いでいた何かから解放されたように数度咳き込むと、再び何かで塞がれたようにその声は聞こえなくなった。

「そういや『封人会』のあの女もえらい別嬪さんだったなぁ。お、そろそろ出すぞ」

 再び数度咳き込む女性の声が聞こえた。耳をすませばその女性のすすり泣く様な声もわずかに聞こえる。

「あーあーしゃあないやろ泣いたって。これはそういう儀式なんやから。な?」

 それでもすすり泣く声は止まない。足音の主はそれを黙って見つめた後、静かにその場を離れた。静かな夜にその足音は響かない。ただ静かに、空気と混ざり合うように溶けて消えていった。

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