第6話

「そういえば、なんでレンジローは交通課なの? 普通はダンジョン管理は迷宮課とかじゃないの?」

「それは大きい市町の場合の話だな、夜湖町にはないぞ」


 人の多い都会であれば、そういった専門的な課のある役所もあるかもしれないが、ここは日本の田舎に分類される町である。

 基本的に財政難、少子高齢化、人口の過疎化が理由でそんな専門的な課を創れる筈もない。やむなく町の交通関係を担当する課が対応しているのが現状だ。


 お陰で業務量が倍加している。


「じゃあ、なんで探索者ランクがCなの? 低くない?」


 カナンが不思議そうに首を傾げると、後ろにまとめられた銀髪が尻尾のようにゆらりとゆれる。


『それは思った』

『たしかCランクは中堅層だよね?』

『ベテランがBランクなの考えると低すぎる気が』


 コメントを見ていると、俺のランクが低いように感じるらしい。 


「嘘はついてないぞ。ほら、ライセンスもある」

「うわ、ほんとだ」


 特殊な金属製カードを取り出して見せる。

 ライセンスはCランクを示す赤銅色が鈍く輝いている。ランクが上がれば銀や金などのより高価な貴金属カラーのライセンスが与えられる仕組みだ。


 まあ俺らしい地味な色というわけだ。


「なんでランク上げないの? 深層に助けに来てくれたってことは、もっと凄い実力があるってことだよね?」


 探索者におけるランクというのは、格付け以外にも意味がある。

 ランクが高いという事は、相応の実力を持っているという証左であり、高ランクであるほど国から受けられる支援・待遇が良くなるのである。


『深層潜れる人間がCランクなのは変だよ』

『昇級試験受けない理由なくね?』

『縛りプレイ?』


 視聴者の反応も概ね似たようなものだ。


 まあ確かに気になるだろう。

 高ランク探索者の確保は世界各国の課題でもある。ぶっちゃけるとランクが上がる事は、ほぼメリットしか存在しない。


 では、なぜ俺はランクが低いままなのか。


「自分の実力を弁えてるからな、俺にはCランクがちょうどいいよ」

「............嘘臭い」


 ウソジャナイヨ、ホントダヨ。

 別に休日を削ってまで昇級試験に行きたくないとか、変にランク上がると日常業務の要求値が上がるから嫌だとか思ってない。


『めっちゃランク上げたくなさそう』

『なんだこのオッサン!?』

『意味わかんなくて草』

 

 人間、分相応の人生を歩むのが一番なのだ。

 そろそろいいだろうか、まだ質問があるなら適当にはぐらかして終わらせてしまおう。


「いやホント、俺って要領悪いし、肝心なところで失敗するし、今の状況で精いっぱいなんだよ」


 そんな態度が良くなかったのだろうか。



「______気に入らないなぁ」



 予想外の言葉に、思わずカナンを見る。

 不機嫌そうに腕を組み、竜の尻尾で地面を叩き、ジトっとした瞳で俺を睨んでいた。


「Cランクの活動範囲って安全な上層だよね?」

「まあ、そうだな」

「深層なんてAランク探索者でも危険な場所じゃない?」

「まあ、そうだな」


 基本的にダンジョンは危険地帯。

 上層は安全がある程度保障されているとはいえ、下層からは基本的に自己責任の世界だ。


「あの夜、レンジローに助けられて、わたし嬉しかったんだ」

「..................」


 深層のモンスターに倒されて、誰の助けも来ない場所で、一人で死んでいくと思っていたから。

 助けてくれた人のことをもっと知りたいと思ったのだと、カナンは言った。


「私はレンジローの事を知りたいのに、教える気がなさそうなんだもん」


 ここでようやく、俺が彼女を怒らせたのだと気が付いた。

 同時に、とても重要なことを思い出す。



「だからさ______決闘しようよ」



 竜人種______というか亜人種は、気に食わない相手がいると喧嘩で解決しがちであることだ。






***


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迷宮探索公務員はダンジョン配信を流行らせたくない 赤雑魚 @jhon

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