第5話

「ふぅー.........」


 寝不足だ、頭が痛い。

 だが足は止めない、疲れていようがそれでも走る。


『カナンの配信だ!』

『おはドラゴン!』

『昨日の怪我は大丈夫なん?』

『竜人種だからな。もう全快してるぞ』

『今何してるんだ?』

『ダンジョン上層の魔物狩り』


 要は慣れだ。

 モンスターが湧くであろう場所は概ね頭に入っている。俺はモンスターを倒しながらそこへ向かえばいい。

 

『上層の? 今さら?』

『いや、それが昨日カナンを助けた探索者との合同クエらしくて』

『見つかったのかよ! どんなやつ?』

『公務員』

『国家エリート探索者ってこと!?』

『いや、ただの町役場勤めらしい』

『それ強いの? なんかショボそう』

『なんかショボそう。そう思っていた時期が俺達にもありました』


 足を止めるのは時間のロスに繋がる。

 視界に入ったモンスターは、相手が気付く前に切り捨てる。気付かれても攻撃は最小限の動きで躱し、すれ違いざまに斬り捨てる。


『違うのかよ』

『今やってるのはでの上層ダンジョンのモンスタークエスト。あとはわかるな?』

『は?』

『上層って総面積何十キロだっけ?』

『狂ってる』

『crazy』

『What?』


 そうだ頑張れ、河見レンジロウ。

 上層のモンスターを相当し、残った書類業務を片付け、何としても俺は______


「______21時までには帰って見せる!」




■■■



「ゴブリン124匹、コボルトが36匹、オーク21匹、トレント12本、その他諸々.........、以上でダンジョン上層の掃討依頼を完了とします。本日はありがとうございました」

「本当に終わらせてる.........」


 非常に疲れた上に、モンスターの返り血でドロドロになってしまったが、どうにか日が沈む前に完了することができた。

 

 対して、呆れた表情でこちらを見るカナンは身なりは汚れ一つない。

 

 カナンは後ろから基本的について来ていただけというのもあるが、基本的に魔法で遠距離攻撃をしていたのが大きい。

 火球飛ばすのズルくね? 剣をブンブン振ってる俺がバカみたいじゃん。


「ま、いーよ。じゃあお兄さんのこと教えてよ」

「私のこと、ですか」

「そ、配信見てる視聴者もいるしさ。探索者情報とか教えてよ」

「はぁ...............」


 まあ探索者情報なんて、誰か解っていれば調べれば出る情報だ。別にいいかと頷く。


「じゃあ視界情報繋ぐね。...............あっ、レンズはしてるよね?」

「一応は」


 レンズとは、映像機能が組み込まれたコンタクトのことだ。本来はダンジョンでの違法行動を取り締まるための物なのだが、高性能なので配信にも利用できるという、ダンジョン配信を流行らせる要因の一つでもある。


 カナンがオッケーというと視界情報が更新され、末端にコメント情報が流れ始める。


『見えてる?』

『繋がってるっぽいぞ』

『昨日はカナンを助けてくれてありがとー!』

『まあ俺の方が強いけどな、勘違いすんなよ?』

『煽るなよ、荒らしか?』


 目で追えないレベルの勢いで、コメントを流してるのが視聴者というわけだ。


「じゃあお兄さんのことを教えて欲しいな。敬語抜きで」

「それは、難しいですね」

「ええ、なんで?」


 何でと言われても、あくまで公務として働いているのだ。私情が見える様な発言は基本NGである。

 上司が命令するなら______まあ許されるのかもしれないが、そんなことを命令するようなイカれた人間なんているわけもない。


 上手い事断る理由を考えていると、懐の携帯が震え始める。


「___はい河見です」

「私だ、雨宮課長だ。いま上から連絡が来てね。ぜひ彼女の希望に沿った対応をしてくれたまえ」


 それだけを言うと携帯が切れる。


「ええ.........」

「大丈夫そうだね」


 カナンがニヤニヤと笑みを浮かべる。


『ため口でおねがいしまーす』

『はよ』

『上からの指示ならしかたねーなぁ?』

『振り回されてカワイソウ』


 おのれ雨宮リンネ、いつか絶対仕返ししてやる。


「わかったよ、俺は河見レンジロウ.........、夜湖町役場職員の交通課で働いてる。探索者ランクはCの、どこにでもいるただの剣使いだ」

「テンション低っ............!」


 うるせぇこれが素なんだよ!

 もういいやなんか疲れてきたし、なんも考えずに終わらせたい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る